日本薬理学雑誌
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特集 慢性疼痛治療薬の研究開発戦略
鎮痛薬の創薬研究における新しい評価系:前臨床/臨床評価指標の合致を目的とした動物の自発痛関連行動の自動測定
永倉 透記石川 剛矢次 さちこ吉見 英治竹下 暢昭青木 俊明清水 保明伊東 洋行
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2012 年 140 巻 5 号 p. 211-215

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抄録

疼痛モデル動物において検出された鎮痛効果が疼痛患者において再現される確率は十分に高いとは言えないことから,疼痛モデル動物における評価方法を改良し,臨床効果予見性を高めることは鎮痛薬の研究戦略において極めて重要な課題である.従来,疼痛モデル動物では,機械,熱などの外的刺激を人為的に動物に与えた時に生じる肢の回避動作などの反射反応,すなわち刺激誘発痛を指標とする評価方法が広く用いられている.一方,臨床では,外的刺激のない状態での疼痛強度,すなわち自発痛をvisual analogue scale(VAS)等の疼痛スコアを用いて評価する方法が一般的に用いられている.この前臨床/臨床評価指標の不一致を解決するためには,疼痛モデル動物において自発痛を指標とした評価を導入する必要がある.また,刺激誘発痛指標を用いた評価は,特定実験者の手技,行動観察への依存による実験者間データ変動リスクを内包している.このような観点から疼痛行動指標の機械による自動測定化により変動リスクを低減することが重要である.本稿では,課題解決の方策としての新しい鎮痛薬評価系,すなわち疼痛モデル動物における自発痛関連行動の自動測定法について概説する.特に,神経障害性疼痛モデルラットに生じる自発痛様肢異常動作の電磁誘導を利用した自動測定系,およびモノヨード酢酸誘発変形性関節症モデルラットに生じる姿勢の左右不均衡,あるいは立ち上がり行動減少を自発痛指標とする評価系に焦点を当てる.当研究所では,臨床の自発痛を反映する動物の自発痛関連行動の検出,およびその機械による自動測定法の開発に継続的に取り組み,その鎮痛薬の創薬研究における活用を推進している.鎮痛薬の新しい評価方法である自発痛測定法が,疼痛モデル動物における鎮痛薬候補評価の臨床効果予見性向上に貢献することを期待している.

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© 2012 公益社団法人 日本薬理学会
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