日本薬理学雑誌
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特集 不全心筋におけるカルシウムイオンの役割の多様性
カルシウムにより惹起される心病態
中山 博之藤尾 慈
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2012 年 140 巻 6 号 p. 270-274

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抄録

慢性心不全は先進国において死亡原因の高位を占める予後不良の疾患であり,心臓の収縮拡張不全を主たる臨床的特徴とする.カルシウムイオン(Ca2+)は心筋において興奮収縮連関とカルシウム依存性シグナリング活性化の双方において中心的な役割を果たしており,カルシウムの関与する収縮不全,心肥大,細胞死等は心不全の病態形成にとって極めて重要であるとされる.しかしながら,心筋細胞のように収縮弛緩の過程で細胞内Ca2+濃度が変化する興奮性細胞において,カルシウムの上昇によって活性化するシグナルが機能する機序は不明である.また慢性心不全において収縮期Ca2+濃度の低下に伴い心収縮力が減弱しているが,それと同時にカルシウムの上昇に依存して活性化するカルシニューリンやカルモデュリン依存性キナーゼ等の分子が活性化し,心不全の病態形成の一因となるという一見矛盾した状態が生じる.このような心肥大や細胞死等の病理学的変化を惹き起こすカルシウム依存性シグナリングの活性化機序は未だに確定していない.我々は,かかるカルシウム依存性シグナリングを制御する責任分子を同定すべく,多くのCa2+の移動に関与する分子の遺伝子改変マウスを作製し解析してきた.具体的には,心筋細胞において筋小胞体カルシウムポンプ,容量依存性カルシウムチャネル,イノシトール三リン酸受容体,L型カルシウムチャネルおよびT型カルシウムチャネルの機能をそれぞれ増強もしくは欠失させた遺伝子改変モデルにおける心臓の病理学的変化を解析した.本稿において一連の研究の中で得られた興味深い知見の一部をもとに,心臓カルシウム研究からみた心収縮と病理学的変化の関係および今後の新規心不全治療薬開発の展望について述べる.

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