日本薬理学雑誌
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新薬紹介総説
アポモルヒネ皮下注射製剤(販売名:アポカイン®皮下注30 mg)―レボドパ治療に伴う運動症状の日内変動に対するレスキュー療法―
山田 浩司宮内 紀明神田 知之
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2013 年 141 巻 1 号 p. 44-51

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抄録

パーキンソン病(PD)はアルツハイマー病に次いで患者数が多い慢性進行性の神経変性疾患である.レボドパ製剤はPDの運動機能障害に対して最も強力な改善効果を示すが,長期間の使用により運動症状の日内変動が大きくなり,薬効持続時間の短縮や突発的かつ予測困難な薬効減弱等のオフ症状が増加する.オフ症状の発現は患者のQOLを著しく低下させることから適切な対処が必要であるが,進行期のPD患者では,他のPD治療薬の追加・併用やレボドパの用量・用法の最適化の後もオフ症状が残存することがある.この残存したオフ症状に対しては,症状が発現した時に即効的に症状を改善するレスキュー療法が有用と考えられる.アポモルヒネはドパミンD1およびD2受容体サブファミリーに対して幅広く作動活性を有しており,PD患者の線条体においてドパミン受容体を介して間接経路出力および直接経路出力の両方を調節することにより,抗PD作用を示すと考えられる.霊長類の病態モデル動物および進行期のPD患者において,皮下投与したアポモルヒネはレボドパと遜色ない強い薬効を示す.またアポモルヒネ製剤は,顕著な薬効,即効性および作用時間が比較的短いこと等から,既存のPD治療薬によりコントロールできないオフ症状に対するレスキュー治療薬として,欧米各国で長い臨床使用の実績がある.アポモルヒネの薬理作用として嘔吐中枢の刺激による悪心・嘔吐等の発現が知られているが,これらの副作用は制吐剤の適切な使用等により制御可能である.レスキュー用途には,患者が必要と感じた時に患者自らが決められた薬物量を安全かつ確実に投与できることが重要となる.そのため,本邦においては,アポモルヒネの皮下投与のための専用の電動式インジェクターが開発された.本剤は内服薬に反応しない重篤なオフ症状に対するアンメットニーズを充たす新しいタイプのPD治療薬であり,本邦においては2012年3月に「パーキンソン病におけるオフ症状の改善(レボドパ含有製剤の頻回投与及び他の抗パーキンソン病薬の増量等を行っても十分に効果が得られない場合)」を効能・効果として承認された.海外と同様に本邦においても,本剤が患者とその家族および介護者のQOLに貢献することが期待される.

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© 2013 公益社団法人 日本薬理学会
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