日本老年医学会雑誌
Print ISSN : 0300-9173
シンポジウム2:更なる健康長寿をめざして:超高齢社会における老年学の役割
4.健康長寿を支えるgerontechnologyの進歩
井上 剛伸
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2014 年 51 巻 1 号 p. 53-56

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抄録

目的:本稿では,超高齢社会の課題解決のために役立つ学問分野の一つとして,ジェロンテクノロジー(gerontechnology)を紹介し,その推進のための方策を示すことを目的とする.方法:ジェロンテクノロジーは,ジェロントロジー(gerontology)とテクノロジー(technology)を組み合わせた言葉であり,老化に関する科学と近代技術の融合領域を意味する.本稿では,ジェロンテクノロジーの市場規模の大まかな予測をたて,さらに,認知機能の低下した高齢者の生活を支えるためのIT技術,移動を支えるパーソナルモビリティー,ユニバーサルデザイン製品の動向について概説する.さらにそれらをふまえ,ジェロンテクノロジー推進のための方策を考察することとした.結果:福祉用具の市場規模は約1兆2,000億円であり,共用品の市場規模は,1995年に4,869億円であったものが,2010年には3兆6,324億円と増加している.支援機器の分野では,各種のIT技術を駆使した機器が開発・普及の兆しを見せている.情報支援ロボットは,認知症高齢者との会話を通して,日付やスケジュールといった生活に必要不可欠な情報を伝えることができることが示されている.また,服薬支援器や探し物発見器などは市販品もあり,生活の中で役立つことが臨床評価の結果から示されている.ロボット技術を駆使したパーソナルモビリティーの開発・実用化も進められており,高齢者の移動の支援に役立つ可能性が示されている.ユニバーサルデザイン製品分野では,高齢者の特性を計測・把握することで,高齢者に使いやすい機器開発を促進する研究や規格化が進められている.結論:高齢者を支えるテクノロジーは着実に進歩している.これらの進歩を支えているのは,利用者である高齢者およびその生活場面を中心とした技術開発の促進であり,フィールド・ベースト・イノベーションの考え方が重要である.

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© 2014 一般社団法人 日本老年医学会
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