情報管理
Online ISSN : 1347-1597
Print ISSN : 0021-7298
ISSN-L : 0021-7298
連載
研究・実務に役立つ!リーガル・リサーチ入門 第3回 法令の条文
田村 英彰
著者情報
ジャーナル フリー HTML

2012 年 55 巻 9 号 p. 670-674

詳細

1. はじめに

第1回,第2回では,法の世界に法則や体系があることをご紹介した。

法といっても,法の淵源となるものはいくつかある。国や地方公共団体が一定の手続を経て定める法令。裁判において裁判所が示した法律的判断である判例。法令に定めがなくとも実際に法的な判断の根拠となり得る法的慣習。そして,これら法令,判例,法的慣習について解釈や検討を提示する学説である。

第3回は法令を取り上げ,条文の探し方をご案内する。説明は法律,政令・府省令が中心となる。

2. 法令の特徴と収録媒体

判例や法的慣習と比べると,法令は規則性のある文章でできており,制定・改正も体系的に行われる。法令調査で厄介なのがこの「条文が改正されること」だが,制定や改正のしくみに則して,法令を収録する媒体や検索ツールが整備されている。

制定された国の法令は『官報』掲載をもって「公布」される。しかし,改正法令は「○○を××と改正する」と掲載されるのみで,改正部分が反映された(溶け込んだ)条文は,民間の出版社が編集・刊行している各種の「法令集」に掲載される注1)

改正が反映された法令の条文を収録したオールマイティな媒体や検索ツールはない。現行法令集で最も収録範囲が広いのは加除式の総合法令集であるが毎年保存している図書館はないし,冊子体の法令集も全分野で刊行されてはいない。法令集と収録法令の対応関係をまとめた網羅的な索引も存在しない。

そのため,法令の条文を探すには,収録範囲や分野によって媒体やツールを使い分け,資料に当たってみて条文を確認することになる。幸い電子化の進展により,検索やアクセスが容易な範囲が広がってきている。まずはインターネットで利用できるデータベース(DB)に当たってみよう。ざっと調べるには,国立国会図書館の「日本法令索引」が便利だ。紙の法令集や有料のDBが必要となれば,図書館の出番である。

3. 特徴を生かした調べ方(1)―法令の索引

3.1 法令番号と法令の改正履歴

法令の条文を探すポイントは2つある。

1つめは,法令は法令番号によって特定・識別されるということである。法令番号は,法律,政令⋯といった法令の形式ごとに暦年で公布順に第1号から与えられる。日常的に用いられている法令名は通称であることが多いので,法令を調べるときは法令名とともに法令番号を控えておきたい。

ポイントの2つめは,調査対象の条文が「制定時の条文か/現行の条文か/ある時点での条文か」である。法令は改正があるため,どの時点の条文を調べているかによって当たる媒体が異なる。以下に,調査対象の条文と収録媒体との関係を示す。

  • 制定時の条文 → 官報または法令全書
  • 現行の条文 → 最新の法令集
  • ある時点での条文 → 直前の改正反映後の法令集

法令の改正の経過を改正履歴や法令沿革という。どの時点の法令であるかを確かめておかないと,求めるものとは違う条文に当たることがある。「日本法令索引」は法令の改正履歴を調べるツールであり,条文を探す2つのポイントを押さえることができる。

3.2 日本法令索引

「日本法令索引」(http://hourei.ndl.go.jp)は国立国会図書館法第8条により作成されている「法令の索引」である。条文本文は収録していないが,国の法令の沿革と法案の審議経過を収録する。「日本法令索引〔明治前期編〕」(http://dajokan.ndl.go.jp/)も合わせれば明治以降の国の法令の沿革を追うことができる。

日本法令索引で,法令番号や法令沿革などの基本情報を確かめてみよう。調査対象が現行法令とわかっているときは,トップメニューの「現行法令」から入る。現行法令か否か不明なときは,トップメニューの「制定法令」から入る。法令名で検索する場合,通称からもある程度は検索できるが,判明している法令名の特徴的な文字を2~4字程度入れて検索するのがコツである。例えば,家電リサイクル法であれば,「家電」と入れて検索すると,1件ヒットする。「法令沿革」をクリックすると,図1の家電リサイクル法の法令沿革一覧画面が表示される。

図1 国立国会図書館「日本法令索引」より法令沿革一覧画面の例

1から,次のことがわかる。家電リサイクル法は通称であり,正式な題名は「特定家庭用機器再商品化法」。法令番号は「平成10年法律第97号」。公布年月日は「平成10年6月5日」。法令沿革から調べたい時点前後の改正法令の番号と公布年月日も確認し,これらを控えておいて官報や法令集に当たる。

なお画面右側の「関連情報へのリンク」から,国のほかのDBの本文情報へとたどることもできる。主なリンク先は,総務省「法令データ提供システム」(後述),衆議院「制定法律」(http://www.shugiin.go.jp/index.nsf/html/index_housei.htm),法務省「日本法令外国語訳データベースシステム」(http://www.japaneselawtranslation.go.jp/)等である。現行法令や制定時の法律の条文を確認するだけなら,充分だろう。

日本法令索引では,「法令沿革」一覧画面のほか2つの画面で法令情報を構成している。その法令が改正・廃止した法令がわかる「被改正法令」一覧画面と,その法律の法案段階の「審議経過」がわかる会議録一覧画面である。ヘルプにリンク先の詳細や使用例があるので,参考にしていただきたい。

4. 特徴を生かした調べ方(2)―官報と法令集

4.1 制定時の条文を探す

制定時の法令の条文を探すには,公布年月日がわかっている場合には『官報』の掲載号に当たる。また,法令番号がわかっている場合には『法令全書』に当たると早い。有料のDB「官報情報検索サービス」は本文検索ができるので,有用である。

『官報』は国立印刷局が発行している国の広報,公告等を掲載する機関紙であり,行政機関の休日を除いて毎日発行されている。法律,条約,政令,府省令,規則,訓令,告示の制定時の条文が掲載されている注2)。1883(明治16)年7月に創刊され,公文式(こうぶんしき)(明治19年2月26日勅令第1号)によって法令の公布機関としての制度が整えられて以来,現在に至っている。

『法令全書』は『官報』の告示までの部分を法令の形式・番号順に並べ直して毎月刊行されている「制定順法令集」である。『官報』創刊以前の1867(慶応3)年まで遡って編纂されている。

『官報』の電子媒体については,国立印刷局が直近30日分のみ無料で「インターネット版官報」を公開している(http://kanpou.npb.go.jp/)。ほかに有料のDB「官報情報検索サービス」(https://search.npb.go.jp/kanpou/)があり,1947(昭和22)年5月3日から当日発行分の『官報』を文字と画像で収録している。本文検索ができるため,制定法令を法令番号,公布年月日のほか,法令の題名や条文中の文字からも探すことができる。また,『官報』の月目録や法令全書の採録対象となっていない部分,特に公告を調べることができる。有料のDBとしては比較的安価なため,導入している図書館は多い。

国立国会図書館「デジタル化資料」では,戦前期の『官報』(1883(明治16)年7月2日~1952(昭和27)年4月30日)をインターネット上で公開している(http://dl.ndl.go.jp/#kanpo)。本文検索はできないが,月目録の件名をデジタル化しているので法令名などから検索することができる。また,“Official Gazette ; English edition”(1946(昭和21)年4月4日から1952(昭和27)年4月28日のみ刊行されていた英文官報)や明治期の『法令全書』もデジタル化し公開している。近代日本の国の制定法令は,「官報情報検索サービス」を中心に,電子媒体でカバーされたことになった。

4.2 現行の条文を探す

現行の条文を探すには,最新の改正を反映させた条文を収録した各種の法令集に当たる。形態は加除式と冊子体がある。法令集は収録範囲によって使い分ける。収録範囲が最も広いのは総合法令集である。

加除式法令集は,改正があったページを差し替えてアップデートされる。典型は総合法令集で,『現行法規総覧』(第一法規)と『現行日本法規』(ぎょうせい)がある。全100巻に及ぶ現行法令集で,省令・規則までの法令をすべて収録している。

電子媒体の総合法令集として,電子政府の総合窓口e-Govにて総務省行政管理局が2001(平成13)年より運用している「法令データ提供システム」がある(http://law.e-gov.go.jp/)。憲法以下の法律と行政機関の命令の現行の条文を収録しており(立法・司法機関の命令,条約,告示,訓令,通達等を除く),条文中の文字から検索できる。日本法令索引の現行法令の主なリンク先であり,これで事足りることも多い。

冊子体の法令集は,毎年あるいは数年ごとに「○年版」と版を改める形で刊行される。主要な法令を掲載する大型の六法注3)の例としては『六法全書』(有斐閣)注4),判例付六法の例としては『模範六法』(三省堂)が挙げられる。冊子体の法令集は,加除式の法令集と比べて収録法令数は限られているが,その手軽さから,より一般に普及している。

紙媒体では,主題別法令集に注目しておきたい。形態は加除式・冊子体ともあり,各分野の法令を探すときに有効である。紙媒体の法令集は,法令の体系や相互の関係を目次で一覧できる点が強みだが,主題別法令集ではその分野の法令にとどまらず,関連する通知・通達まで収録していることが多い。日本十進分類表では,憲法・民事法・刑事法以外は法令集も各分類の下に混配される(別置もあり)。

さて,資料を手にしたら,内容現在をさっと確認しよう。加除式なら第1巻冒頭に付された加除追録一覧,冊子体なら巻頭の凡例に書いてある。調査対象の法令にたどり着いたら,題名の次にある改正履歴を見て,最終改正がいつの条文かを必ず確認する。もし,必要な改正が反映されていなければ,『官報』の改正法令を読み合わせ,自分で改正部分を溶け込ませる。

4.3 ある時点の条文を探す

ある時点の法令の条文を探すには,まず日本法令索引で法令沿革を調べる。求める時点よりも前の最後の改正がいつであるかを確認し,その改正が反映されている法令集に当たる。掲載法令の最終改正に注意し,反映されていない改正があれば自分で反映させる。

国の制定法令は『官報』,最新の現行法令は総合法令集が最短であり,電子媒体もある。一方,ある時点の法令の条文は,冊子体の法令集を継続的に収集・保存している図書館で探すしかない。所蔵は書架で見て当たりを付け(特に主題別法令集),OPACでほかの版がないか確認しよう。

有料のDBでは,2001(平成13)年以降は収録法令すべてについて任意の時点の条文を調べることができるものがあるが,それ以前の制定時まで遡って調べることができる法令は限られる。例えば,第一法規の「D1-Law.com 現行法規履歴検索」では34法令である(https://www.d1-law.com/d1w2_portal/product_genko_r_g.html)。

一般的な六法が継続して保存されていれば,主要な法令を遡って調べることができる。有斐閣の『六法全書』には電子復刻版DVDもある(昭和32年版から平成18年版を収録)。

法令集収録法令の網羅的索引はないが,国立国会図書館「リサーチ・ナビ」の目次データベースには,部分的ながら法令集が収録されている(http://rnavi.ndl.go.jp/mokuji/)。最上部の検索窓に「目次 特定家庭用機器再商品化法」と入れて検索し,「本」のタブを選択すると,「内容情報からさがす」に『環境六法』『廃棄物・リサイクル六法』等が見つかる。通知・通達類を多く含む資料を重点的に投入しているものだが,法令集の目次を開く代わりに活用できる。

4.4 その他の情報源

ここまで紹介してきた条文の探し方は,官報の収録範囲,日本法令索引の収録範囲の国の法令に当てはまるものだった。それ以外について触れておこう。

告示・訓令は,官報・法令集に掲載されるほか,e-Gov「所管の法令・告示・通達等」という各省庁へのリンク集がある(http://www.e-gov.go.jp/link/ordinance.html)。

自治体の条例や規則は,各自治体の公報・例規集に掲載される。官報・法令集と同様の要領で探すことができる。各自治体の図書館で調べよう。

各省庁では公報の廃刊,都道府県では公報・例規集の電子化が進んでいる。国立国会図書館「インターネット資料収集保存事業」では政府機関や自治体のインターネット情報を収集しており(http://warp.da.ndl.go.jp/),現在はホームページ上に掲載されていないものでも,ここで見つかる場合がある。

5. 法令をなぜ探すのか―索引としての法令

法令は文字で書いてあるものの,そのまま読んでも意味が取れないことがある。また法律単体では完結せず,ほかの法令と合わせて制度ができあがっている。法令の文言は,読み手それぞれが好きなように解釈して何とかなるものでもなく,法案の趣旨説明,立案担当者の解説,判例,学説等を読み合わせて理解する必要がある。

それでは,法令の基本情報や条文を探すことの意義は何だろうか。

あるテーマについて調べるとき,その分野の法令も調べることによって,法体系から視点を補うことができる。例えば,大きな制度変更の際は,根幹をなす法律が改正されるため(○次改正),条文や改正履歴から一般書の記述が確かめられる。日本法令索引で法令の変遷を明治まで遡ることで,法令の残した足跡から得られるものもある。

図書館・文献の世界にあって,法令の体系が次の文献への手がかりとなる。法令の条文や基本情報を調べることは,その第一歩となるのである。

本文の注
注1)  日本では,国が責任をもって提供している法令の正文は,官報に掲載された制定時の法令のみである。

注2)  官報掲載事項は現在では「官報及び法令全書に関する内閣府令」(昭和24年6月1日総理府・大蔵省令第1号,平成15年題名改正)に定めがある。

注3)  「六法」とは,憲法・民法・商法・民事訴訟法・刑法・刑事訴訟法の法典を指すが,転じて「法令集」の意味で使われる。逆に,書名に「六法」「法令集」の文字が入っていない法令集もある。

注4)  六法については,毎年無料で配布される『有斐閣六法の使い方・読み方』が詳しい。http://www.yuhikaku.co.jp/six_laws/how_to

 
© 2012 Japan Science and Technology Agency
feedback
Top