インドは連邦国家であることから，理念的には各構成単位が広範な自治権を保持している状態が想定可能である。しかし，こと統計制度に関して従来実行されてきた改革は，むしろ集権化を促進するような方向で動いてきた。それはインド自身が自らの統計制度の欠点を強く認識し，州政府と中央政府間，中央省と中央統計機構間の垂直的統合を促進することが制度強化につながると判断したからといえるであろう。インド政府は自国の統計制度を，「中央政府の監督権限を留保した分権的統計制度」と規定している。

インドの中央統計行政を統括するのは，統計・事業実施省（Ministry of Statistics and Programme Implementation: MOSPI）である。同省は1999年に統計局（Department of Statistics）と事業実施局（Department of Programme Implementation）とが統合されてできたものである。省内で統計業務を所管するのは，旧統計局の業務を引き継いだ国家統計機構（National Statistical Organisation: NSO）であり，中央統計室（Central Statistical Office: CSO），全国標本調査室（National Sample Survey Office: NSSO）およびコンピュータ・センター（Computer Centre）から成る。NSOは統括組織であり，実質業務は下部の3組織が担当する。CSOは，国民経済計算，年次産業調査，経済センサス，消費者物価指数など特定の統計の編纂作業のほか，国家レベルでの統計活動の調整，統計に関する諸基準の維持・改定などの管理業務，統計情報の普及活動などを行う。統計担当官は200人ほどである。また，CSOは国レベルの総合統計資料を刊行している。これらは，インドに関する基本的統計資料として，多くの図書館等で利用されているものである。具体的な資料名については表1の該当欄を参照されたい。NSSOは，全国標本調査（National Sample Survey: NSS）を実施し，報告書にまとめている。毎回分野を替えて実地調査が行われる。1950～51年に第1回が実施され，2011～12年には第67回が進行中である。このほか，NSSOは年次産業調査の実地調査，経済センサスの補足調査など，実践的な活動を行っている。その関係からか，統計担当官は3,000人ほどになる。この数はCSOのそれの約15倍になる。

以上のほか，同省には重要機関として国家統計評議会（National Statistical Commission: NSC）とインド統計研究所（Indian Statistical Institute: ISI）が置かれている。NSCはインドの統計制度について根本的な議論を行い，方向性を提言するのが主要任務である。NSCは2000年1月に発足し，当時すでに限界を指摘されていた統計制度に関して広範な議論を行い，2001年8月に最終報告書を提出して一度解散した。その後，同種の機関の必要性が再認識され，非常勤の議長，委員による構成ではあるものの，2006年7月から常設となった。ISIは統計に関する研究，教育，応用を担う機関で，1931年設立という長い歴史を持つ。ISIは国際統計教育センター（International Statistical Education Centre）およびソフトコンピューティング研究所（Centre for Soft Computing Research）という下部機関を持つ。

統計・事業実施省の他に統計関係で特に重要なのは，内務省（Ministry of Home Affairs: MHA）である。2,500人ほどの統計担当官がいる。MHAの重要任務の1つにインド・センサス（Census of India）の編纂がある。インド・センサスはいわゆる人口センサスの面を持っているが，それ以外にも多方面の調査を行っており，毎回膨大な量の資料が刊行されている。現在2011年センサスの取りまとめが進行中であり，報告書の刊行も始まっている。インド・センサスをはじめとする各種センサスの実施状況は，表2を参照されたい。

地方政府は，州経済統計局長（Directorate of Economics and Statistics: DES）が州内における統計関係業務を監督する。例えば，全国標本調査は中央政府の事業として開始されたが，州政府も実地調査の半分を担当している。全国標本調査以外にもDESはさまざまな統計活動を行っている。詳しくは表3のWebサイトを確認されたい。また，インド・センサスを担当するのが州センサス実施局長（Directorate of Census Operations: DCO）である。インド・センサスの刊行物の大半は，各州のDCOの名の下で収集されたデータで構成されている。

人口超大国であるインドは国家機構も規模が大きく，省（ministry）は現時点で50を数える。そのほか，数多くの独立機関があり，独自の統計業務を行っているところも少なくない。従って，冊子体で公刊されている統計資料だけでも大変なタイトル数にのぼる。そのなかから基本的な統計資料を選択することはかなりの難事であるが，あえていくつかを選択して表示したのが表1である。統計資料が対象であるため，年報，報告書，マニュアル類は基本的に除外した。しかし，これらのなかには重要な統計数値が含まれているものもあり，注意が必要である。特に年報類には重要な数値が解説付きで掲載されている場合が多く，重要資料の1つということができるであろう。しかも，広報の目的も持っているため全文閲覧が可能なことが多い。

本稿ではインドの地方政府の統計資料についてその詳細を取り上げる余裕はないが，今後需要が増すものと考えられる。まずは，基本的な総合統計の収集が必要となるであろう。各州は独自のホームページを持っている。前述したDESやDCOが州とは別のホームページを持っている場合もあり，その場合，州統計に関する情報を直接得ることができて便利である。表3に各州・連邦直轄領のURLをまとめたので，参考にされたい。

統計資料には市場性を持たないものも多いため，そもそも出版情報自体が入手しにくい。また，その性質上タイトルが長くなりがちで，類似したものも少なくない。優れた検索用Webサイトが必要となるが，現在よく利用されているものとして，有料ではあるがDatanet India Pvt. Ltd. の提供するIndiaStat.Com（http://www.indiastat.com/）がある。国レベルおよび州レベルで，各分野や主題について詳細な統計データを時系列で入手することができ有用である。また具体的な資料名の一覧や統計関係の最新の記事には無料でアクセスできる。

1998年にインド政府が決定した国家統計データ普及政策（National Policy on Dissemination of Statistical Data）では，統計の普及という基本理念はうたわれているものの，非公刊資料についてはデータの種類を限定した上で有料の公開とする，などその利用については複数の制限が付されていた。これと比較すると，2012年の国家データ共有・活用政策（National Data Sharing and Accessibility Policy）においては，データの利用の拡大（Maximising use），重複の回避（Avoiding duplication），最大限の統合（Maximised integration）といった，作る側と使う側の双方の努力と利益が，より大胆な言葉で表現されている。経済大国への道が予想されている21世紀のインドにふさわしい基本理念といえよう。