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研究・実務に役立つ!リーガル・リサーチ入門 第10回 行政情報
中網 栄美子
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2013 年 56 巻 4 号 p. 236-241

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1. はじめに

この回では行政機関が発する情報の中から法関連情報について説明する。法令と判例を併せて「法源」や「一次資料」と呼ぶが(「第1回法情報の世界」1)),これらを理解するために二次資料を用いることがリーガル・リサーチを効率的に行う上で不可欠である。それでは「二次資料」として,どのような情報をどこから取り出すことが可能なのか。この回では国および地方公共団体が発する法関連情報のうち,特にインターネット上で利用しやすいものを中心に説明する。

2. 国の行政情報

国の機関が発する情報を調査する際に出発点としたいWebサイトが「電子政府の総合窓口」(http://www.e-gov.go.jp/)である。総務省が運営する総合的な行政ポータルサイトで,「第3回 法令の条文」2)で紹介した「法令データ提供システム」,「日本法令外国語訳データベースシステム」,「官報」,「所管の法令・告示・通達等」もすべてここにリンクされている。国の行政情報について,何を見るべきか迷った時に便利である。同サイトより,以下に法関連情報を含むコンテンツについて紹介する。

2.1 審議会・研究会等

「第9回 立法過程」3)において審議会について言及された。特にビジネスの分野では,法や法制度につき,既存のものを調査するだけでは足りず,最新の動向を把握する必要がある。その未来予想図を描く一助となるのが,各府省の審議会や研究会が発する情報である(リンク集 http://www.e-gov.go.jp/link/council.html)。法令関連で特に注目されるのは,法務省所管の法制審議会(法務省組織令第57条)であり,同会では「法務大臣の諮問に応じて,民事法,刑事法その他法務に関する基本的な事項を調査審議」(同令第58条第1項)等を行う。同会は総会のほか8つの部会(特別部会を含む)注1)に分かれ活動を行っている。最近では,民法(債権関係)部会が「民法(債権関係)の改正に関する中間試案」(平成25年2月26日決定)を公表した注2)。また,運送・海商法の改正に向けて法務省が検討を始めており,2014年にも法制審議会に諮問することが報道されており(2013年3月23日日本経済新聞夕刊記事など),今後の動きが注目される。

このほか,厚生労働省所管の労働政策審議会障害者雇用分科会では「今後の障害者雇用施策の充実強化について」意見書注3)がまとめられ(2013年3月14日),障害者雇用促進法が大幅改正される見込みが高くなった。また,金融庁所管の企業会計審議会が「監査基準の改訂及び監査における不正リスク対応基準の設定に関する意見書」注4)を公表する(2013年3月26日)など,企業関連の法情報も豊富である。

リサーチをする上で留意すべきは,どの省にどのような審議会が置かれ,現在どこまで議論が進んでいるのかについて,その分野の専門家でない限り把握しにくい点である。そもそも審議途中の場合,公開の度合いにはバラつきがあり,各回の議事録や配付資料だけでは詳しい内容まで追えない。そこで新聞記事などを併用し,ある程度の動向をにらみつつ「中間まとめ」や「意見書」を利用するスキルが求められる。

2.2 白書・年次報告書等

白書とは中央官庁の編集する政府刊行物であり,その内容は「政治経済社会の実態及び政府の施策の現状について国民に周知させることを主眼とするもの」注5)である。一般向けに『~白書』と呼ばれるもののほか,国会あるいは閣議に提出される段階での「~に関する年次報告書」や「~の現況」と呼ばれるものがある。現在では各省庁のホームページから利用可能である(リンク集 http://www.e-gov.go.jp/link/white_papers.html)。白書に掲載される内容は,前年度までの活動を次年度にまとめて刊行するため,必ずしも最新情報とはいえず,また年度によって組まれる「特集」も変わる。そのため,自分が必要とする情報が毎年掲載されるとは限らない。ただし,国民向けを意識した内容構成から,図表や写真,カラー印刷などを適所に用い,専門書に比べると読みやすいものが多い。

行政機関は裁判所の行う司法手続に類似した,審判や裁決等を行う手続き(準司法的手続)を有する。例えば行政審判のうち,不服審査型と呼ばれるものに(1)公正取引委員会の「排除措置命令」や「課徴金納付命令」の不服申立て,(2)公害等調整委員会の「鉱物の採掘等に関する許認可」の不服申立て,(3)特許庁の「特許拒絶査定」の不服申立てなどがあり,事前審査型と呼ばれるものに(4)金融庁の「課徴金納付命令の事前審査」や(5)地方海難審判庁の「海技士等への懲戒処分の事前審査」等がある。これらに関して,(1)「公正取引委員会年次報告」,(2)「公害等調整委員会年次報告」,(3)「特許行政年次報告書」,(4)「金融庁の1年」,(5)「レポート 海難審判」に情報がある。

2.3 公用文・法令用語

法情報を受け取るだけではなく,自分が得た情報に基づいて論文なりレポートなりを発信する側になった時,使用すべき書式や用語,修辞などで迷うことがないだろうか。読み手が専門を同じくする者であればともかく,一般向けに「わかりやすく」まとめることを求められた時,次の資料が参考になる。

国の機関が出す文書や法令などに用いる文章は「公用文」と呼ばれ,「公用文作成の要領〔公用文改善の趣旨徹底について〕」(昭和27年4月4日内閣閣甲第16号依命通知 昭和56年,昭和61年,平成22年に一部改定あり)注6)によりルール化されている。例えば,「使い方の古いことばを使わず,日常使いなれたことばを用いる」よう,「牙保→周旋・あっせん」としたり,「音読することばはなるべくさけ,耳で聞いて意味のすぐわかることばを用いる」よう,「橋梁→橋 塵埃→ほこり 堅持する→かたく守る 陳述する→のべる」とするなどの例が示されている。さらに,「公用文における漢字使用等について」(平成22年11月30日内閣訓令第1号)では,例えば「恐らく 概して 必ず 殊に 更に」などの副詞は原則として漢字で書く,「おって かつ したがって ただし ところで また」などの接続詞は原則として仮名で書くなどの例が示されている。

法令に関しては前述の訓令と併せて「法令における漢字使用等について」(平成22年11月30日内閣法制局長官決定)が出されている。例えば,「専門用語等であって,他に言い換える言葉がなく,しかも仮名で表記すると理解することが困難であると認められるようなもの」(暗渠(あんきょ),按分(あんぶん),瑕疵(かし),涵養(かんよう),砒素(ひそ)など)については,「その漢字をそのまま用いてこれに振り仮名を付ける」と規定している。一方で,単語の一部に漢字を用いた方がわかりやすい例として,えん堤,橋りょう,じん肺,ため池,漏えい,などを挙げている。他に送り仮名についても,例えば,建物の「明け渡し」「明渡し」「明渡」なのか迷うところであるが,「明渡し」に統一するよう例示されている。ほかに「預り金 言渡し 貸金 貸付け 繰越し 差押え 立替え 問合せ 取消し」など,表記ゆれが起こり易い用語についても規定されている。現在はワープロソフトの中に表記ゆれチェックや公用文書式への変換機能を備えたものもあるので,上記資料を参考にしつつソフトを併用するのが望ましい。

英語での表記については,「第3回 法令の条文」2)で紹介された法務省「日本法令外国語訳データベースシステム」(http://www.japaneselawtranslation.go.jp/?re=01)について触れておきたい。例えば,「訪問販売」,「通信販売」,「電話勧誘販売」などを英語に訳す必要が生じた時,同DBを利用すれば,特定商取引法(Act on Specified Commercial Transactions)の中にそれぞれ“Door-to-Door Sales”,“Mail Order Sales”,“Telemarketing Sales”と訳語が出てくる。同DB上の翻訳は国(法務省)が発している情報とはいえ,公定訳ではないことを注意しなければならない。正文として法的効力を持つのはあくまで原文(日本語)のみであり,翻訳は参考資料としてのみ掲示されているにすぎない。しかし,翻訳に迷った際に利用できる信頼性の高いコンテンツであることは確かである。

2.4 情報公開

「電子政府の総合窓口」に代表されるように,今や多くの行政情報がインターネット上でアクセス可能となった。他方で,電子媒体でも紙媒体でも公開されていない情報についてはどのように調査すべきか。「第5回通達・告示等」4)で紹介された情報公開請求についてここではさらに詳しく述べる。総務省が毎年行っている情報公開法の施行状況調査によると,平成23年度における開示請求件数は行政機関に対して96,677件(平成22年度86,034件),独立行政法人等に対して6,162件(平成22年度4,972件)となっている。機関別には国土交通省や法務省,厚生労働省などの行政機関や国民生活センターや医薬品医療機器総合機構,日本年金機構などの独立行政法人等への開示請求が多い注7)

情報公開請求をする際に,自分が必要とする資料がどのような件名でどの行政機関または独立行政法人等に保有されているかを明らかにすることが必要となる。「電子政府の窓口」上の「行政文書ファイル管理簿」(http://files.e-gov.go.jp/servlet/Fsearch)および「各独立行政法人等の法人文書ファイル管理簿」(http://www.e-gov.go.jp/link/corporatedoc/index.html)から調査する。文書の保有機関ごとに情報公開窓口も異なるため(例:国土交通省→大臣官房広報課情報公開室 法務省→秘書課情報公開係 国民生活センター→東京・情報公開室,相模原・情報公開窓口など),請求の際には事前に窓口となる部署名や場所を確認しておく。総務省「情報公開制度」(http://www.soumu.go.jp/main_sosiki/gyoukan/kanri/jyohokokai/)に概要がまとめられており,初心者向けのガイドブックなども用意されている注8)

情報公開法注9)により,(1)特定の個人を識別できる情報(個人情報),(2)法人の正当な利益を害する情報(法人情報),(3)国の安全,諸外国との信頼関係等を害する情報(国家安全情報),(4)公共の安全,秩序維持に支障を及ぼす情報(公共安全情報),(5)審議・検討等に関する情報で,意志決定の中立性等を不当に害する,不当に国民の間に混乱を生じさせるおそれがある情報(審議検討等情報),(6)行政機関又は独立行政法人等の事務・事業の適正な遂行に支障を及ぼす情報(事務事業情報)は非開示とされる。不開示情報に該当するか否かは一見して明らかな場合もあるが,そうでない場合は「情報公開・個人情報保護審査会」の「答申」注10)が参考になる。部分開示・不開示の是非をめぐって訴訟となった事例(情報公開訴訟)については「第7回 判例を探す」5)におけるリサーチ方法を参照されたい。

なお,上記情報公開請求については現用文書(文書が作成または収受され,業務で使われている状態のもの)を対象とするが,各省庁で保存期限を満了したもので廃棄か公文書館への移管かを待つ状態になったものが「非現用文書」と呼ばれる。非現用文書のうち「歴史資料として重要な公文書其の他の文書」注11)が国立公文書館等へ移管される注12)。もっとも,平成23年度の移管状況は0.7%と,依然移管率の低さが問題となっている注13)

3. 地方の行政情報

地方公共団体の発する法情報につき,公報や例規集については「第3回 法令の条文」2)「第5回 通達・告示等」4)で紹介された。基本的には各自治体のWebサイトからほとんどがアクセス可能である。ただし,例規集にせよ公報にせよ必ずしもトップページのわかりやすい場所にコンテンツが掲載されているとは限らない。内容構成も類似している部分が多いものの,自治体ごとに差異があるものなので慣れないと使いにくい。

3.1 地方公共団体の発する法情報(例:東京都)

ここでは前号までの内容も踏まえて,地方公共団体の発する法情報にはどのようなものがあるか,東京都(http://www.metro.tokyo.jp/)を例にして紹介する。トップページから「例規集データベース」(http://www.reiki.metro.tokyo.jp/reiki_menu.html)や「公報」(http://www.tokyoto-koho.metro.tokyo.jp/)にリンクが張られている。公報には「条例,規則,訓令,告示,公告及び雑報など」が掲載されており,例規集にまだ未登載のものなどはこちらを利用するとよい。2005年以降の条例については「条例案概要」を参照することもできる。また,都議会ホームページ(http://www.gikai.metro.tokyo.jp/)には会議録検索システム(http://asp.db-search.com/tokyo/)があり,ここから本会議や委員会の議事録を参照できるようになっている。

3.2 行政資料センター・文書館

本稿でこれまで紹介してきたインターネットによるリーガル・リサーチには限界がある。例規集については現行例規に限定されるため,廃止や改正前の法令については参照できない。公報や会議録も電子媒体で遡及できるものは限られている(東京都公報は過去5年分,東京都議会本会議録は昭和56年2月以降)。紙媒体で調査をする場合にどこへ行けばよいのか。各自治体には名称はさまざまであるものの,行政情報の提供窓口を設けているところが多い。幾つか例を挙げると,東京都の「都民情報ルーム」,北海道の「行政情報センター」,宮城県の「県政情報センター」,愛知県の「中央県民生活プラザ」,大阪府の「府政情報センター」,広島県の「行政情報コーナー」,福岡県の「県民情報センター」などがある。

国が国立公文書館を設置しているのと同様に地方公共団体が(公)文書館を設置している所もある。地方自治体の「歴史資料として重要な公文書」は各(公)文書館にきちんと移管し,保存・公開すべきものであるが,残念ながらその整備状況は自治体ごとに格差がある。全国の(公)文書館については国立公文書館ホームページにリンク集がある注14)。これによると47都道府県といえど,公文書館を設置していない所もあり,20政令指定都市では川崎市公文書館や大阪市公文書館など数か所の設置に留まっている。国の行政機関から国立公文書館への資料移管率が低いことも問題だが,地方公共団体の行政資料保存・公開についても将来的な課題となっている。

3.3 情報公開

国と同様,地方公共団体に対しても情報公開請求が可能である。自治体ごとに情報公開条例が定められているので,内容は各「例規集」で確認する。情報公開窓口については自治体のホームページから確認できる。東京都の場合を例にとると,前述した「都民情報ルーム」に情報公開の総合的な窓口である「情報公開コーナー」が設置されている。また,東京都の情報公開制度の運用状況については「年次報告」が掲載されており,別に「公文書開示決定等件数報告」もある注15)。資料検索には「文書目録」(PDF版)注16)や「情報公開用システム」注17)が有用である。

4. まとめ

国や地方公共団体の発する行政情報のうち,リーガル・リサーチでよく利用されると思われるデータベースおよびコンテンツを中心に紹介した。国や地方から発信されインターネット上に公開される法情報は量,内容ともに増大しつつある。より便利になるかに思える一方で,情報が豊富であるがゆえに逆に自分が探したい資料の所在を特定するのが難しい場合がある。また,公文書の保存・公開という点では国も地方もなお多くの課題を抱えており,「探せない資料もある」という点を留意しておかなければならない。

本文の注
注1)  法制審議会:信託法部会,会社法制部会,被災関連借地借家・建物区分所有法制部会,刑事法(自動車運転に係る死傷事犯関係)部会,生殖補助医療関連親子法制部会,民法(債権関係)部会,少年法部会,新時代の刑事司法制度特別部会

注2)  法務省 http://www.moj.go.jp/shingi1/shingi04900184.html

注3)  厚生労働省 http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r9852000002xeb3.html

注4)  金融庁 http://www.fsa.go.jp/news/24/sonota/20130326-3.html

注5)  「政府刊行物(白書類)の取扱いについて」昭和38年10月24日事務次官等会議申合わせ

注6)  文化庁 http://www.bunka.go.jp/kokugo_nihongo/joho/kijun/sanko/koyobun/index.html

注7)  「平成23年度における行政機関及び独立行政法人等の情報公開法の施行の状況について(概要)」http://www.soumu.go.jp/main_content/000195624.pdf

注8)  「情報公開制度 教えてぺンゾー先生!」や「情報公開制度と個人情報保護制度のガイドブック」など。本文中の総務省ホームページよりPDFダウンロード可能。

注9)  「行政機関の保有する情報の公開に関する法律」および「独立行政法人等の情報の公開に関する法律」。各第5条に不開示情報に関する規定あり。

注10)  http://www8.cao.go.jp/jyouhou/tousin/index_t.html

注11)  移管・廃棄の判断指針については「行政文書の管理に関するガイドライン(平成23年4月1日内閣総理大臣決定・平成24年6月29日一部改正)」(http://www8.cao.go.jp/chosei/koubun/hourei/kanri-gl.pdf)別表第2の1

注12)  国立公文書館の所蔵する歴史公文書については同館のデジタルアーカイブ(http://www.digital.archives.go.jp/)から目録情報検索,一部はインターネット上からの閲覧もできる。

注13)  「平成23年度における公文書等の管理等の状況について(ポイント)」(2013年2月15日開催 公文書管理委員会委員懇談会配布資料1-2)http://www8.cao.go.jp/koubuniinkai/iinkaisai/2012/20130215haifu.html

注14)  全国公文書館 http://www.archives.go.jp/links/index.html#Sec_04

注15)  東京都情報公開制度 http://www.metro.tokyo.jp/POLICY/JOHO/kouhyou.htm

注16)  http://www.metro.tokyo.jp/POLICY/JOHO/KOUHYOU/BUNSHO/mokuroku.htm

注17)  http://aps.johokokai.metro.tokyo.jp/aps/kensaku.cgi

参考文献
 
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