最近,わが国の貿易赤字の拡大やTPP交渉参加問題など,貿易にかかわる話題が関心を集めている。本連載ではこれまで各国・地域別に貿易統計を含む各種統計をどのように利用できるかを扱ってきた。今回は各国・地域の貿易統計を横断的に扱うことができる国際的な貿易統計のデータについて,その特徴や利用上の注意点を中心に述べたい。
貿易統計は通関統計とも呼ばれる。各国・地域の諸外国・地域と貿易を行う港湾,空港などに設置された税関で申告された貿易取引を,各国・地域の政府機関が取りまとめて集計したものである。一般的に貿易統計の基本項目は,(1)貿易を行う相手国・地域,(2)品目,(3)取引金額,(4)数量単位,(5)取引数量,からなる。このうち品目には大きく分けて2種類の国際標準の分類体系がある。1つは国連が定める「標準国際貿易分類」(Standard International Trade Classification: SITC),もう1つは世界税関機構(World Customs Organization: WCO)が定める「商品の名称および分類についての統一システム」(Harmonized Commodity Description and Coding System: HS)である。現在ほとんどの国ではHSの品目を使って税関申告が行われており,貿易統計も同様である。HSの基本構成を表1にまとめた。HSの品目は桁数が6桁まであり,品目の先頭から2桁部分が類(Chapter),先頭から4桁部分が項(Heading),6桁すべてが号(SubheadingまたはHS code)と呼ばれる。また,類を大きく21分類にまとめたものが部(Section)と呼ばれる。部と類は変更されないことになっているが,項と号はWCOにより4~5年に一度改訂される注1)。
部 | 類 | 品目表の記述 | 号の数 |
---|---|---|---|
1 | 1-5 | 動物(生きているものに限る。)及び動物性生産品 | 336 |
2 | 6-14 | 植物性生産品 | 304 |
3 | 15 | 動物性又は植物性の油脂及びその分解生産物,調整食用脂並びに動物性又は植物性のろう | 48 |
4 | 16-24 | 調整食料品,飲料,アルコール,食酢,たばこ及び製造たばこ代用品 | 211 |
5 | 25-27 | 鉱物性生産品 | 148 |
6 | 28-38 | 化学工業(類似の工業を含む。)の生産品 | 787 |
7 | 39-40 | プラスチック及びゴム並びにこれらの製品 | 211 |
8 | 41-43 | 皮革及び毛皮並びにこれらの製品,動物用装着具並びに旅行用具,ハンドバッグその他これらに類する容器並びに腸の製品 | 69 |
9 | 44-46 | 木材及びその製品,木炭,コルク及びその製品並びにわら,エスパルトその他の組物材料の製品並びにかご細工物及び枝条細工物 | 94 |
10 | 47-49 | 木材パルプ,繊維素繊維を原料とするその他のパルプ,古紙並びに紙及び板紙並びにこれらの製品 | 141 |
11 | 50-63 | 紡織用繊維及びその製品 | 796 |
12 | 64-67 | 履物,帽子,傘,つえ,シートステッキ及びむち並びにこれらの部分品,調整羽毛,羽毛製品,造花並びに人髪製品 | 47 |
13 | 68-70 | 石,プラスター,セメント,石綿,雲母その他これらに類する材料の製品,陶磁製品並びにガラス及びその製品 | 142 |
14 | 71 | 天然又は養殖の真珠,貴石,半貴石,貴金属及び貴金属を張った金属並びにこれらの製品,身辺用模造細貨類並びに貨幣 | 53 |
15 | 72-83 | 卑金属及びその製品 | 563 |
16 | 84-85 | 機械類及び電気機器並びにこれらの部分品並びに録音機,音声再生機並びにテレビジョンの映像及び音声の記録用又は再生用の機器並びにこれらの部分品及び附属品 | 771 |
17 | 86-89 | 車両,航空機,船舶及び輸送機器関連品 | 130 |
18 | 90-92 | 光学機器,写真用機器,映画用機器,測定機器,検査機器,精密機器,医療用機器,時計及び楽器並びにこれらの部分品及び附属品 | 211 |
19 | 93 | 武器及び銃砲弾並びにこれらの部分品及び附属品 | 18 |
20 | 94-96 | 雑品 | 118 |
21 | 97 | 美術品,収集品及びこっとう | 7 |
号の総数 | 5,205 |
*(出所)日本関税協会[2012]より筆者作成。「号の数」列は,各々の部(Section)に含まれる6桁の品目である号(Subheading)の数を示し,WITSより取得したHS2012の表より算出した。
HSの号にさらに各国・地域の政府機関が詳細な分類を付加して8桁から11桁の品目として使用することが認められている。これはHSの個別品目の重要性が国・地域によって異なり,関税率をHSの号レベルより詳細な品目で定義する必要があるためである。例えば日本の場合,輸出入別にHSの号に3桁の分類を付与して9桁の詳細品目としており,毎年改訂が行われている注2)。
各国・地域で作成された貿易統計はさらに国連へ報告されてとりまとめられる(OECD加盟国はOECDを通じて国連へ報告される)。いわゆる国連貿易統計(International Merchandise Trade Statistics: IMTS)である。出版物としては『International Trade Statistics Yearbook』,『Monthly Bulletin of Statistics』などが定期的に発行されている。これらの出版物で概要は把握できるが,詳細な品目(SITCなら5桁,HSなら6桁)別のすべての相手国・地域を含む情報は,1990年代までは機械可読データとして国連が直接注文に応じる形で磁気テープやフロッピーディスクで販売していた注3)。
機械可読データは高額だったこともあり一般の利用には敷居が高かった。しかし1990年代末頃にInternational Trade Centre(ITC)がTrade Analysis System on Personal Computer(PC-TAS)として国連貿易統計の一部を収録したCD-ROMの販売を始めた。さらに2003年に国連統計局がUnited Nations Commodity Trade Statistics Database(UN Comtrade:以下Comtradeと略記)として国連貿易統計のすべてのデータが入手できるWebサイト(http://comtrade.un.org)を開設したことにより,国連貿易統計が飛躍的に利用しやすくなった。Comtradeは基本的に無償ですべてのデータがダウンロード可能である。ただし無償の場合,技術的な理由により1回の検索で5万件までという制約がある。有償の購読契約を行えば検索データ件数の制約なくダウンロード可能である注4)。
まずComtradeのWebサイトの基本的な操作方法を紹介しよう。トップページから「database」を選択すると,検索画面の入口になる。画面上部の[Data Query]タブからいくつかある検索画面を選択できる。例えば[Basic Selection]を選択すると,最初に品目分類(HSかSITCのいずれか,その改訂版のいずれか)を選択するところがある。次の項目で品目(Commodities),報告国・地域(Reporters),相手国・地域(Partners),年(Years),その他条件(Others)を選択する注5)。品目はキーワードで検索することができ,品目,国・地域,年はよく使うお気に入りを登録することができる。その他条件では輸入(Import),輸出(Export),再輸出(re-Export),再輸入(re-Import)を1つ以上選択する。そして,[Submit Query]ボタンをクリックすると,検索条件と検索結果が表示される。[Direct Download]リンクからファイルとしてダウンロードすることも可能である。ただし検索結果の件数が多すぎる場合(画面表示件数は1,000件まで,Direct Downloadは5万件を超える場合),結果が得られないので,[Modify Selection]リンクで検索画面に戻り,件数が少なくなるように検索条件を設定し直す必要がある注6)。
[Data Availability]タブからは,Comtradeから現在得られるデータの範囲を知ることができる。例えば[by Reporter]を選択すると,各国・地域の品目分類改訂版ごとの収録年の一覧を見ることができる。この一覧画面において灰色で示された年はその国・地域が国連に報告したデータ,青色で示された年は他の改訂版のデータから国連が推計したデータであることを示している。
[Metadata & Reference]タブ以下にある[Reference Tables]からは,Comtradeで使われている品目や国・地域のコード表をファイルでダウンロードすることができる。また[Knowledge Base]はComtradeについてのさまざまな情報が収録されており有用である。
次にComtradeの利用上の注意点について説明したい。Comtradeは各国・地域から報告された貿易統計データを元に作られているが,UN Comtradeと銘打たれていることからも明らかなように,各国・地域の政府機関が作成し国連に提出した貿易統計に対して国連が独自に編集を行っているデータベースである。そのため利用する上で特に注意が必要な点がいくつかある。
第1の注意点は品目分類の改訂版の異なるデータ間の変換が行われていることである。各国・地域の品目はかつてはSITC,現在はHSで報告されている。これらのSITCやHSは過去数回改訂されており,現在,SITCにはRevision 1から4まで,HSには1988年版から2012年版まで品目の改訂を伴う5つの改訂版がある。これらの品目分類の改訂版には基本的に互換性がなく,各国の報告する貿易統計ではある一時点では1つの改訂版のデータしかないことが,長期に貿易統計を整合的に利用する上で大きな障害となっていた。そこで国連はWCOによる品目分類の隣り合う改訂版間の対応表を基に,品目分類の任意の異なる改訂版間の対応表を作成し,それらを使って品目分類の改訂版を変換したデータを独自に付け加えている。国連はこれをカスケード方式と呼んでおり,この方式を用いて長期にわたる貿易統計の利用を容易にし,利便性を大きく向上させた。例えばある国のオリジナルデータの品目分類の改訂版が1996年から2001年までがHS1996,2002年から2006年までがHS2002,2007年から2011年までがHS2007で報告されていたとする。ComtradeではHS2007のデータとHS2002のデータをHS1996に変換してComtradeに追加し,HS1996のデータが1996年から2011年まで得られるようにしている。
しかし本来WCOの対応表では新改訂版の品目から旧改訂版の品目への対応関係が複数存在するところを,Comtradeの品目分類対応表では金額の大きな旧改訂版の品目へ無理に一元化しているところがあり,利用方法によっては問題が生じる場合がある注7)。対応表が不完全であることは国連自身が認めており,Comtradeでは国連が品目分類を変換したデータか,報告されたオリジナルの品目分類のデータかを利用者自身が選択できるようにしている。すなわち,Comtradeの検索画面で品目分類の改訂版を“As reported”として検索すると各国・地域が本来国連へ報告した改訂版を自動的に検索対象とすることができる。
第2の注意点は,欠損している数量の推計を行っている場合があることである。前述のとおり各国・地域ではHSの場合6桁よりも下位の品目で集計している。ある6桁品目の下位の品目に対応する数量単位が複数あり,それらの数量を上位の6桁品目に集計できない場合,その6桁品目の数量単位と数量は欠損値とならざるを得ない。Comtradeではこういった場合,他の情報から基準単価を算出し,金額と基準単価から6桁品目の数量を推計するという処理を行っている。推計された数量は一般的には参考情報として有用なものだろうが,Comtradeの金額と数量を,それらから単価を求めるような用途に用いる場合には問題が生じる。Comtradeでは個別のデータごとに数量が推計されているかどうかを数量推計区分(estimation flag)という項目で明示的に表しており,利用者が推計された数量の情報を使うかどうかを自ら選べるようになっている注8)。
第3の注意点は,Comtradeでは輸出(export)の値に再輸出(re-export)の値が含まれていることである。再輸出とは,いったん海外から輸入された物品が保税区等を経由して輸入時の原形を大きく変えずに再び海外へ輸出されることを指す。すなわち,輸出の値は通常の輸出である地場輸出(domestic export)と再輸出(re-export)の値の合計値である。輸入にも同様に再輸入の値が含まれている。また,従来国連貿易統計には報告地域として台湾のデータを含まなかったが,Comtradeも同様である。一方,相手地域としてはその他アジア(Other Asia, nes)の値に台湾の値が含まれている。
国連貿易統計以外の国際貿易統計として古くからあるものとして,IMFのDirection of Trade Statistics(DOTS)が挙げられる。定期的に冊子体と電子媒体(CD-ROM)で刊行されているほか,eLibraryというIMFのWebサイトから利用することもできる(有償購読契約が必要)。DOTSは相手国別の取引総額のデータベースである(品目別にはなっていない)。データの頻度が年次だけでなく四半期と月次まであること,欠損した期間や相手国の取引額を一定の方法で推計していること,1948年からの歴史的データが入手可能なことなどが特徴である。
また,世界銀行が国連や世界貿易機関(World Trade Organization: WTO)などと協力して運営しているWorld Integrated Trade Solutions(WITS)は貿易や関税率のデータベースへのゲートウェイツールであり,Comtradeのデータ入手手段として研究者によく使われている(http://wits.worldbank.org/WITS/index.html)。WITSのバルクダウンロード機能を使うとComtradeのWebサイトを使うよりも高速にComtradeのデータを検索することが可能である(おそらく世界銀行が管理するサーバーにデータを置いているのであろう)注9)。ただしWITSからダウンロードされた貿易統計データにはComtradeに含まれている数量推計区分が含まれていない。WITS自体は利用者登録をすれば無料で利用可能だが,ComtradeのデータをダウンロードするためにはComtradeの有償購読契約が前提となる。また,WITSが提供する産業分類と商品分類の変換表は国連が公開していないものも含まれており有用である注10)。
国際機関ではないが,フランスの国際経済研究所(Centre d'Études Prospectives et d'Informations Internationales: CEPII)が作成するBACIは国際経済の研究者が好んでよく利用する貿易統計データである(http://www.cepii.fr/CEPII/en/bdd_modele/presentation.asp?id=1)。BACIはComtradeをベースに作成されているが,独自の方法で輸出と輸入を調整して一本化していることに大きな特徴がある。Comtradeでは輸出と輸入のデータが含まれるが,例えばA国が報告するX年のB国への輸出額とB国が報告するX年のA国からの輸入額は同一の貿易の流れであり本来値が一致するべきものである。しかしComtradeではこれらの値が一致しないことがしばしばみられ,大きく乖離することもある。国際貿易統計におけるこの問題はかねてから指摘されており,過去には米国の大学や全米経済研究所(National Bureau of Economic Reasearch: NBER)が独自に推計データを公表したことがある。CEPIIはそれらの試みとは異なる方法で輸出と輸入の乖離を調和させる推計を試みている。それはまず(1)輸入額に含まれる運賃と保険料の割合(CIF率)を推計してそれらを控除する,次に(2)報告国・地域の報告の正確度を推計して正確度の高さをウェイトとして輸出データの金額と輸入データの金額を按分する,という方法である注11)。BACIは利用者登録をすれば無料で利用できるがComtradeの有償購読契約が前提になる。
貿易統計の商用データベースとしては,Global Trade Information Services社が提供するGlobal Trade Atlas(GTA)が挙げられる。GTAは各国・地域の政府機関が作成した最も詳細な品目,数量を含む月次および年次の貿易統計データを収録している点が他にはない優れた特徴であり,199か国・地域(うち政府機関統計をデータソースとする国・地域が82,Comtradeをデータソースとする国・地域が117)をカバーしており,台湾およびEU(15,25,27か国)を含む。
Global Trade Information Services社がGTAよりも前から提供していたのがWorld Trade Atlas(WTA)である。GTAはWebブラウザからデータベースへアクセスするのに対し,WTAは専用の検索ソフトウェアをパソコンにダウンロード・インストールしてアクセスする違いがある。WTAは各国・地域の政府機関統計をデータソースとする54か国・地域をカバーしている。同一条件のすべての過去データを同一画面で表示できる,現地通貨の金額データを得られるなど,GTAより優れた点がある。
GTA/WTAをComtradeと比較すると制約がいくつかある。まず,国・地域にもよるが収録期間は1995年頃以降に限られる。また一度の検索でまとめて表示,ダウンロードできる範囲は相手国・地域,4桁までの品目を特定したデータに限られる。複数の相手国・地域,6桁以上の詳細な品目のデータをまとめてダウンロードすることはできない。GTA/WTAは各国・地域の統計をそのまま収録しており,数年ごとに変わる詳細な品目の時系列的な接続は行っていない。
これまで述べた国際貿易統計はGTA/WTAを除けば品目の詳細度はHS6桁までである。より詳細な品目の,しかも月次などの高頻度の貿易統計データは各国・地域の統計を管轄する政府機関から直接入手できる場合がある。貿易統計の基本的な仕組みはどの国・地域でも共通だが,公表される各国の貿易統計データの内容は国・地域により若干の相違がある。なかでも中国の貿易統計データは他の国・地域の貿易統計にはない独自の項目として,発・着地(財の製造者・消費者),輸出入者(商社)の所在地,国有・私有・外資などの企業種別などの有用な情報を含んでいる注12)。驚くべき早さで最大の貿易国となった中国の詳細な貿易データは世界中の研究者の関心を集めている。詳細な個別企業の情報などを含む貿易データを使用した論文も現れているが,政府機関によるデータの公開方法は一般には明らかではない。他の国・地域の一般に入手可能な貿易統計データも価格はまちまちであり必ずしも安価ではない注13)。今後,オープンデータの趨勢により各国・地域の貿易統計データの利用可能性が高まることを期待したい。
国連はこれまで各国・地域の政府機関の貿易統計担当者向けに国連貿易統計の基準書である「International Merchandise Trade Statistics: Concepts and Definitions」を作成してきたが,その最新版である2010年版(IMTS 2010)1)において革新的な方針を打ち出している。例えば,運賃・保険料を含まない輸入額の報告の推奨や,輸入における直接的な出荷元(中継地など)を第二相手国・地域として報告することの勧告などである。この2つの項目だけでも各国・地域の政府機関が実施するようになれば,長らく問題となっていた輸出額と輸入額の乖離の縮小につながる可能性がある注14)。
また,最近ComtradeのWebサイトでは「UN Monthly Comtrade」と銘打ったページが開設されており,一部ではあるが月次の貿易統計データが入手できるようになった。月次のような高頻度データを使い,例えば時系列分析を用いた高精度な経済分析を行うことも可能になる。国連を中心としたこれらの取り組みにより,貿易統計の精度が大きく向上していくことが期待されている。
本稿で紹介したComtrade,DOTS,GTA/WTAはアジア経済研究所図書館やジェトロ・ビジネスライブラリー等が有償定期購読しているので利用可能である(表2)。ぜひご利用いただきたい。