2013 年 56 巻 1 号 p. 36-42
今回は,前回の「2. 判例とは」を踏まえ,最広義での判例(過去の裁判例すべて)の探し方を説明する。判例を探すことは,判例の意味を理解し検討していくことと重なるが,その資料となる判例評釈・判例解説等については,次回扱うこととする。
判例を探すのはどのような場合だろうか。法律の本や雑誌に出てくる判例を調べたい(=特定の判例を探す),身近に生じた法律問題を解決するために判例を調べたい(=特定の事項に関する判例を探す),最近の新聞やテレビ,インターネットなどで報道された裁判の判決を知りたい等が考えられる。その際には,前回説明した「4.2 判例が収録される資料やDBの種類と特徴」を踏まえて,的確に探すことが大切だ1)。
判例の調べ方について,巻末の参考文献・資料のほか,国立国会図書館「リサーチ・ナビ」<関西でしらべる:判例>(http://rnavi.ndl.go.jp/research_guide/entry/post-341.php)や法学教員によるホームページやブログでの紹介も参考になる注1)。
特定の判例を探す場合, 裁判年月日,裁判所名,事件番号などがわかっていれば早く確実に探すことができる。事件番号は各裁判所に訴えが提起された年,事件の種類の符号,番号が組み合わされたもので,1事件につき1つ付与され同じ番号は存在しない。同じ事件でも審級が変われば番号も変わる。法律書や論文に引用された判例には事件番号がないことも多く,略語で表記されるため,その読み方を知っておく必要があるので紹介する(図1)。
<判例の引用例>
最大i)判ii)昭51.3.10iii) 昭42年(行ツ)第28号iv)民集30・2・79v)
⇒ i) 裁判所名:「最高裁判所大法廷」
そのほか,大審院→大,最高裁判所第二小法廷→最二小,東京地裁立川支部→東京地立川支などと略される。
ii) 裁判の種類:「判決」
決定→決,命令→命と略される。
iii) 裁判年月日:昭和51年3月10日
iv) 事件番号注2):昭和42年最高裁判所に申立てられた28番目の行政上告事件。
v) 出典:最高裁判所民事判例集30巻2号79頁以下に掲載。
(1)判例掲載資料がわかる場合裁判所名,裁判年月日,事件番号などをもとに出典にあたる。文献は通常略語で示される。例えば,公的刊行物である『大審院民事判決録』(司法省,1875(明治8)~1887(明治20)年,1891(明治24)~1895(明治28)年を「民録」,『最高裁判所刑事判例集』(判例調査会,1947(昭和22)年(1巻)~)を「刑集」,『裁判所時報』(最高裁事務総局,1948(昭和23)年(1号)~)を「裁時」,私的刊行物である『判例時報』(判例時報社)を「判時」,『判例タイムズ』(判例タイムズ社)を「判タ」などと略す注3)。
(2)判例掲載資料がわからない場合判例が掲載されている資料がわからない場合には,①データベース(DB)を利用する②主題別判例集や判例雑誌などで調べる③新聞記事,雑誌記事,インターネット情報などで探すといった方法がある。
①DBを利用する無料のものと有料のものがある。有料DBにはいくつかあるが,本稿では国立国会図書館東京館で利用できるものを主に紹介する。
<無料>
裁判所のWebサイトの「裁判例情報」では最高裁判所判例集,高等裁判所判例集,下級裁判所判例集,行政事件裁判例集,労働事件裁判例集,知的財産裁判例集の6種類の判例(裁判例)集に区分されて掲載されており,それぞれの判例集に対する検索機能と,横断的に検索する全判例統合検索機能がある。各判例集は検索項目に従い検索する。統合検索画面では,裁判所名,事件番号,裁判年月日,全文キーワードを用いて検索する。キーワード項目には同義語を読み込む機能がないので,曖昧な検索には不向きである。「最近の判例一覧」には判決当日から3か月以内の判例が登載されうる。
「判決紹介」では「裁判所Web」よりも知財判決検索をより詳細に行え,最近の審決取消訴訟や侵害訴訟等控訴事件を一覧できる。
「審判検索」には審決公報DB,審決速報,審決取消訴訟判決集がある。
無料DBについては「2.3 インターネット情報などを探す」でも言及する。
<有料>
「判例体系」を要旨・本文フリーワード,事項(講学・実務キーワード),参照法令,基本項目(裁判年月日・裁判所・事件番号),出典名,裁判官名,民事・刑事区分,法編,判例IDの項目で検索し,判例要旨・全文が読める。法律・政令・省令・規則・条約等の現行法令を収録した「現行法規」,明治以降の公刊判例を分類・整理した「判例体系」,法律に関する図書・雑誌記事等の書誌情報および判例情報を検索できる「法律判例文献情報」等からなる。
「LEX/DBインターネット」の「判例データベース」をフリーキーワード,裁判年月日,裁判所名,事件番号,民刑区分,法編,法条文,裁判種別,掲載文献,LEX/DB文献番号の項目で検索し判例全文が読める。1875(明治8)年の大審院判例から今日までの判例,特許庁審決,国税不服審判所裁決,税務判決要旨等を収録し,『法律時報』に掲載された文献情報と判例評釈情報を中心とする「法律文献総合INDEX」や「新・判例解説Watch」等からなる。
「判例検索」「大審院判例検索」を任意語,裁判所,裁判日付,事件番号,法令条文,掲載誌,裁判官名の項目で検索し,全文をPDF形式で読める。1948(昭和23)年以降に発行された公式判例集や判例雑誌に掲載された約20万件に加え,大審院判決録・大審院判例集に掲載された約2万件の判例を収録している。判決文中に別表として添付された図表も収録している。法律雑誌(『最高裁判所判例解説』『判例タイムズ』『ジュリスト』『判例百選』『法学教室』『旬刊金融法務事情』『金融・商事判例』『銀行法務21』『労働判例』『邦文法律雑誌記事索引』)を本文画像(PDFファイル)で読むことができる。教育機関では「判例秘書アカデミック版LLI」として契約されることも多い。
ⅰ~ⅲのDBは国立国会図書館東京本館での利用が可能であるが,その他にも主要なDBとして「Lexis AS ONE」(レクシスネクシス・ジャパン),「WESTLAW JAPAN」(ウエストロー・ジャパン)などがある。有料DBは判例集,判例雑誌,裁判所Webサイトなどからの登載のほかにDB各社で独自の判例収集も行っているので,複数を利用してよい結果を得ることもある。有料DBでは判例の上級審・下級審や判例評釈,関連法規等の情報も検索できる。
②主題別判例集や判例雑誌などで調べる『重要労働判例総覧』(産労総合研究所)『交通事故民事裁判例集』(ぎょうせい)などの主題別判例集にはDBにない判例が見つかることもあり,実務に役立つ。
「裁判所Web」には,判決当日から2週間後,『裁判所時報』(最高裁判所事務総局,月2刊)には2週間~1か月後,『判例時報』(判例時報社,月3刊)『判例タイムズ』(判例タイムズ社,月2刊)や分野別雑誌(『Law & Technology』(民事法研究会,年4刊)『判例地方自治』(ぎょうせい,月1刊)『金融・商事判例』(経済法令研究会,月2刊)ほか)には1~6か月後,公式判例集には6か月~1年以降に掲載される。収録した判例が有料DBに反映されるまではさらに時間がかかるため,その間は直接判例雑誌を調べる必要がある。『判例タイムズ』ではインターネットで簡易な目次検索ができるほかデジタル版の販売もある(http://www.fujisan.co.jp/product/2065/)。『Law & Technology』では目次がPDFファイルで公開されている(https://www.vplab.org/lt/)。『消費者法ニュース』(消費者法ニュース発行会議)には「判例和解速報」に載せた判決の写しをコピーするサービスがある。
③新聞記事,雑誌記事,インターネット情報などで探す裁判が報道されても公表されない判例は多い。判例の公刊・公開数は微々たるものである2)。裁判所・事件番号がわかれば記録を保管する裁判所で閲覧(謄写可の場合もある)できるが,事件によって制限がある(民訴91条,刑訴53条)。社会に影響があり注目された事件や重要な裁判では,事件の概要や判決要旨などが新聞記事や雑誌記事に載る場合がある。署名入り記事であれば,担当者に裁判について事件番号ほかを尋ねる方法も考えられる。弁護団や支援者などがインターネットで裁判の概要や判決を公開する場合もある。
2.2 特定の事項(法令条文・テーマなど)に関する判例を探す特定の事項(法令条文・テーマなど)に沿って判例を探す方法として判例検索資料,DB,インターネットの利用を紹介する。
(1)判例検索資料で検索する ①ある法律の条文に関連する判例を探す印刷体の判例検索資料には,判例要旨集(判決要旨・判決理由)や判例索引集(法条別・裁判年月日別の判示事項)などがあり,多くが法令条文別に編集されている。特定の法分野の判例要旨・判示事項・掲載誌などを一覧でき,裁判年月日や裁判所名から判決要旨などを検索できる。
『別冊判例タイムズ 判例年報』(判例タイムズ):年度版の刊行(現時点では2010(平成22)年度版が最新)で条文ごとに判示事項・判決要旨が載る。各年度刊行の『最高裁判所判例集』『家庭裁判月報』『判例タイムズ』『判例時報』『金融法務事情』『金融・商事判例』に載った判例を収録する。
加除式資料の場合は,1巻の巻頭にある追録加除整理一覧表でいつの時点の資料であるかを確認し,それ以降の判例については別の資料で補う必要がある。
『判例体系 知的財産権法』(第一法規,加除式):特許法・実用新案法・意匠法・商標法・不正競争防止法・著作権法・種苗法等,知的財産関係法令や実務に有用な1985(昭和60)年以降の判例を中心に収録され,知財高裁・東京地裁知財部の裁判官や知財訴訟の実務家が要旨を作成している。
『知的財産権判例要旨集』(新日本法規,加除式):特許法・実用新案法,意匠法,商法・商標法,不正競争防止法,著作権法など知的財産権について争われた裁判例の要旨を収集および分類整理し,判例・評釈の出典や上級審・下級審の審級関係も表記している。
その他にも『新判例体系民事法編』(新日本法規,加除式),『判例医療過誤』(新日本法規,加除式),『行政判例集成』(ぎょうせい,加除式)などが出版されている。
②テーマ(内容)に関連する判例を探す内容から検索する場合,それがどのような法令条文と関連するのか見極めることができれば,上記①の検索資料を使い判例を探すことができる。法令条文がわからない場合は,主だった六法(模範六法,ポケット六法ほか)の巻末にある総合事項索引を引いたり,各種法律用語辞典や概説書・教科書の該当ページを読んで調べることができる。判例付き六法で主要判例を知ることもできる。
重要な判例については,『別冊ジュリスト判例百選』シリーズやジュリスト臨時増刊『重要判例解説』(有斐閣)などの学習者向けの判例解説書があるが,その中から探しているテーマ(内容)に関連する判例を見つけ,調査を広げることができる。
(2)DBで検索するDBが利用できるなら,実際にはDBで判例を探すことを優先するだろう。その際には,各DBの特徴(判例の収録範囲や収録誌,更新頻度ほか)や検索方法(検索項目,上級審・下級審・法令・解説へのリンク機能ほか)に注意する。検索の際には,正確な情報(裁判所名,裁判年月日など)および適切なキーワードの選択と組み合わせ(and,or,not)が望まれるので,図書・論文・判例評釈やインターネットなどで調べた的確な情報があれば効率が良い。
2.3 インターネット情報などを探す民事/刑事裁判以外の裁決(弾劾裁判所・行政裁判所(戦前)の判決,不当労働行為事件命令,土地収用裁決,国税不服審査審決,海難審判庁裁決など)は,該当する審決集,命令集などで探す。インターネットで公開されているものの例を以下に挙げる注4)。
また,判例を調べる上で役立つWebサイトも多いが,利用する際には,運営者や更新状況に気をつけて信頼できる情報であるかを吟味する必要がある。
Webサイト上で公開されている判例調査に役立つ無料DBにどんなものがあるか検索できる。
国民生活センターが判例集などから収集した消費者関係判例のうち,注目され,かつ消費生活や消費者問題に関して参考になるものを,消費者問題を専門とする学者や弁護士による解説等をつけて紹介している。
全国労働基準関係団体連合会が運営している。1948(昭和23)年以降に言い渡された判決のうち,労働基準法に関連するものを各種判例集などから調査収集して加工・公開している。「体系項目」と「ID番号」による検索ができ,また判決理由の要旨も見ることができる。
2012年12月6日朝日新聞朝刊1面に「建設現場労働者の石綿被害 国の責任 初認定 東京地裁;建設現場でアスベスト(石綿)を吸って健康被害を受けたとして,首都圏の元労働者とその遺族ら337人(患者308人)が国などに総額約120億円の損害賠償を求めた訴訟で,東京地裁は5日,170人について総額10億640万円(患者1人あたり約917万~約48万円)の賠償を命じる判決を言い渡した」「建設労働者の石綿被害について,国の責任を認めた判決は初めて」という記事が出た。37面には判決要旨が載っている。判決全文を読むことはできるだろうか。
3.1 DBで探すまずは無料DB「裁判所Web」で探してみる。新聞記事から裁判年月日2012年12月5日(新聞記事では当日か前日の裁判年月日であることが多い)と東京地裁を検索項目に入力しても該当裁判例はないと出る。このように注目する判例が必ず掲載されるとは限らない。次に全裁判所を対象にキーワード【(アスベストor石綿)and損害賠償】検索をすると39件がヒットし,最高裁判所判例が1件ある(筑豊じん肺訴訟)。多くの事件が下級裁判所で審理されていることがわかる。判例の中身を精査し検索結果を絞り込む際に,判示事項・要旨や判例評釈情報もわかる有料DBが役立つ。例えばTKCローライブラリー(LEX/DBインターネット)で検索対象を書誌に限定して検索すると40件がヒットする(2013年2月7日検索)。
3.2 図書・論文・判例評釈やインターネットで探すアスベスト訴訟事件の背景や経緯,裁判の争点,判例・学説の整理などがわかれば,判例の理解に役立つさらなる判例検索を行うことができる注5)。
石綿(アスベスト)による健康被害(石綿肺,肺がん,中皮腫)は曝露後10数年から平均約40年を経て生じる上,アスベストを扱う工場労働者や運送業・建設業従事者等が罹患する労災型や工場周辺住民が罹患する公害型等があり,現在各地で被害者およびその遺族の方々が,企業や国の賠償責任を求める裁判を進めている。今後,阪神淡路大震災と東日本大震災により破壊された多くの建築物や機械製品に含まれていたアスベストによる新たな環境問題が予想されている。「中皮腫・じん肺・アスベストセンター」(東京)や「関西労働者安全センター」(大阪),アスベスト弁護団,首都圏建設アスベスト訴訟原告団ほかでもインターネット上で,訴訟状況を掲示している。泉南アスベスト訴訟第一陣の大阪地裁判決,同高裁判決,泉南第二陣の大阪地裁判決,横浜建設アスベスト訴訟の横浜地裁判決,クボタ尼崎アスベスト訴訟の神戸地裁判決の大型訴訟を検索し,いずれも上訴中であることがわかる注6)。
前回説明された資料やDBを中心に,判例を調べる方法を概説した。判例についてどれくらいの情報を得ているかによって利用するツールに違いがあることを理解いただいたと思う。裁判所年月日・事件番号など特定した判例ならば入手の道がある。判例雑誌やDBを利用してテーマなどに関連した判例を探す方法もある。
アスベスト訴訟については,事件全体を知り,争点となっている国や企業の責任がどう判断され,被害者の救済がどのように実現されうるのか,社会全体で取り組むべき重要な問題であり,今後の行方に注目したい。東京地裁2012(平成24)年12月5日判決(首都圏建設アスベスト訴訟)が判例雑誌やDBに早く登載されることを待っている注7)。
次回は判例を理解する上で重要な判例評釈や判例解説を探す方法を説明する。
<追記>
本稿執筆後,東京地裁平成24年12月5日判決(首都圏建設アスベスト訴訟)について,TKCローライブラリー「LEX/DBインターネット」に書誌情報が登載され,事件番号が「平20年(ワ)第13069号」「平22(ワ)第15292号」であることがわかった。またD1-Law.com「判例体系」に判決全文が登載された(2013-02-26)。