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リレーエッセー
つながれインフォプロ 第1回
江草 由佳
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2013 年 56 巻 7 号 p. 473-476

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凡人1人では解決できないことも3人集まれば解決できるという「三人寄れば文殊の知恵」ということわざがある。このことわざとは少し異なるが,凡人1人ではわからなかったことも,何人か集まればわかるようになる。もしくは,何人か集まって考えても,わからない難しいことなのだということがわかるのが勉強会の良いところの1つだと思う。また,ディスカッションを通して,メインのテーマについての理解が深まるだけでなく,他のテーマについての事柄にも理解が深まったりするところも複数人が集まって勉強する勉強会ならではの良いところだろう。また,お互いに教えあうことで,教えるという行為を通して理解が深まるのも自分以外の人がいるという勉強会ならではの良いところだろう。誰でも参加できる公開型の勉強会であれば,勉強会の副次的な効果として,今まで知らなかった人と知り合いつながれるところも勉強会の良いところだろう。勉強会の中には,お互いに知り合いつながるための手段として勉強会を使っていることもあるくらいだ。

私は,RDA(Resource Description & Access)注1)やFRBR(Functional Requirements for Bibliographic Records)注2)を勉強しようと思い立ち,そのことをきっかけに,高久雅生さん(筑波大学),田辺浩介さん(物質・材料研究機構)とともに,FRBR&RDA勉強会を始めた(1)。RDAは一言でいえばネット時代の新しい目録規則,FRBRはネット時代の新しい書誌データモデルである。勉強会を始めることは誰でもできる簡単なこと,続けることもちょっとした工夫があればできることを本稿で知っていただければ幸いである。

図1 FRBR&RDA勉強会の風景(2013年8月22日撮影)

FRBR&RDA勉強会は,2012年6月20日に始めてから1年以上たち,気付けば,2013年8月時点で35回を数えるまでになった。この勉強会の特徴について紹介する。

勉強会を続けていくコツは,なんのためにその勉強会をやっているのか,目的をはっきりすること。そして,その目的のためになにが必要か目的を意識しながら勉強会のやり方を選んでいくことが重要だと思う。

FRBR&RDA勉強会の目的は「FRBRやRDAを図書館システムやWebサービスに採用するための実践的な理解」である。

この目的を達するために,もしくはこの勉強会をうまく進める,継続していくために,いくつかの原則を定めた。(1)この勉強会への参加そのものが勉強であると割り切る(予習・復習を前提としない・宿題はない),(2)誰でも参加可能とする(参加者に制限は設けない),(3)参加できるときに参加する(飛び飛びで参加してもよい,初参加も歓迎する),(4)わからないことは質問する(たとえ今までの勉強会で出てきたかもしれないことについても質問してよい,むしろ歓迎する),(5)わかる人が答える,(6)勉強会についての情報は公開する(FacebookやWebサイトなどで公開する)。

(1)は,1人ではなかなか時間がとれず,勉強が進められないからこそこの会があるからである。(2)は,より多くの方・とくに日頃話さない方に参加していただいたほうが勉強会に張りができて勉強会を継続していけるという理由からである。(3),(4),(5)はこの勉強会のユニークなところかもしれない。この原則を設定した理由は,たとえ以前やったことのある内容でも,質問されて答えられなければそれは理解していないことがわかる,人に説明しようとしてもっと理解を深めようという気になれる,人に説明して理解が深まると考えるからである。そのためにも初めて参加したり,飛び飛びで参加してくる人がいることこそ必要で,素朴な疑問こそ必要だと私は考える。また毎回参加するのが難しい,忙しい方でも参加して欲しい,この勉強会を継続するには不可欠だという考えからこの原則を設定した。(6)は,(2)や(3)により,参加できなかった会の内容を知ることができるように,また,新たに参加しようと考えている人の参考のために必要となった原則である。

勉強会は,当初は毎週,最近は隔週でやっている。仕事が終わってから参加できるように平日の19:00~21:00に行っている。この勉強会は1つの文献を全員で読み進めるのがメインであるが,RDAの講習会や研究発表会の参加報告,RDA関連文献の紹介なども適宜行っている。会の流れは,復習,メイン,まとめとなる。始めの15分でこれまでの復習を行う。たとえはじめての参加者でも,飛び飛びの参加者でもこの復習を聞いて,今回の勉強会の最低限の理解のとっかかりになるように配慮している。また,毎回参加する参加者にとっても,この復習をもとに議論を進めたりして理解が促進されるため,この復習のセッションはどの参加者にも好評のようである。はじめて参加される方がいる場合は,この復習の後に,参加者全員による簡単な自己紹介を行い,どういうバックグラウンドでこの勉強会に参加したのか相互にわかるようにしている。次の85分はFRBRやRDAの基本文献(英語)を参加者全員で一文ずつ理解しながら進める。題材の文献は英語であるが,勉強会は日本語で進めている。日本語に翻訳するわけではなく,あくまでも,その文が言いたいことは何か,文意がわかるように,読解を進める。教材を単に読んでいくだけでなく,さらに読解にあわせて,例えば,RDA本文そのものの関連事項を参照してみたり,専門用語の説明を相互に説明しあったり,FRBRのER図をホワイトボードに描いてみたり,CiNii BooksやWikipediaを検索して具体例を見てみたりなど,理解を進めるための実習や議論もする。最後の20分間程度で,その日に読み進めた内容のまとめメモを投影して全員で見ながらまとめる。これにより参加者全員の理解を共通認識にする。この際に,適宜,修正,補足して,メモを完成させる。ちなみに,最初の復習は私が,読み進めは田辺さんが,メモの作成は高久さんが担当している。

公開でFRBR&RDA勉強会を実施するにあたって,開催情報の通知と広報には,Facebookグループ(2)とそのイベント機能を使っている。FRBR&RDA勉強会のFacebookイベント招待用グループ注3)に入ると,各勉強会の開催要項のお知らせ注4)が送られてくるようになる。これはFacebookイベントの招待機能を使っている。原則(2)にあるように誰でも参加可能なので,このFacebookグループへの参加申請があれば,だれでも追加している。

図2 Facebookグループ

Facebookイベントは,このFacebookグループ経由,かつ公開モードで作成している。そうすることで,たとえ,Facebookグループに入っていなくても参加できるようになっている。また,記録と広報をかねて,Project Next-LのWebサイトにこのFRBR&RDA勉強会のページ注5)を設けており,そこにこれまでの開催時の開催要項,復習スライド,本日のまとめ等をのせている。

Facebookイベントで,開催情報を作っておくだけで,参加,不参加がボタン1つでできるようになり,参加者名簿が自動的に作成され閲覧できるのが大変便利である。また,Facebookグループのコメント投稿機能を使って,RDAの関連発表会や関連文献の情報を参加者同士で気軽に共有でき,大変便利に使っている。FacebookグループとFacebookイベントの組み合わせは運営が大変楽で助かっている。問題は,Facebookを使うのは嫌だ,参加者名簿が公開されるのが嫌だという人を排除してしまうことであるが,運営コストとのトレードオフでしょうがないとあきらめている。

開催場所は,参加者の無理のない範囲で借りられる場所で,多くの方が参加しやすそうな場所としている。最近は私の職場の会議室でやることが多い。頻繁に参加していた方が東北の職場へ移られたので,現在は,Google+ハングアウトを使って遠隔地との開催もやってみたりしている。

開始した当初の参加者は勉強会を始めた3人だけであったが,徐々に参加者が増え,最近は毎回10人を超えるようになってきた。参加者は多様な人がいる。オープンソースの図書館システムNext-L Enju注6)のエンジニアや運用企業の方,大学図書館の目録担当の方,研究者,学生,CiNii担当の方,出版社の方,博物館関係の研究者などである。システム開発者と目録担当者両方がいるので,相互に詳しく知っていることを教えあうということができているのは本当にラッキーである。また,博物館や出版社の方など別の視点も大変参考になる。

FRBR&RDA勉強会は,私にとって大変ありがたい存在である。私は研究者なので,図書館における,実際の業務フローや図書館システムへのニーズを知ることは難しい。RDAで出てくるさまざまな専門的な事柄の理論はわかってもなかなか具体例がわからない。しかし,図書館の目録を担当されている方から,実際の経験にもとづく具体例等を教えていただけるのは貴重な機会だ。いろいろな観点からディスカッションしRDAについて一面的な理解でなく深く理解がすすんでいると思う。

本稿では,FRBR&RDA勉強会について紹介した。このテーマに限らず,勉強会は誰でも気軽に始めることができ,知識を増やすだけでなく,ネットワークを広げるなど,さまざまなことで大いにプラスになるので,ぜひ多くの方に実践してもらいたいと思う。

執筆者略歴

江草 由佳(えぐさ ゆか)

国立教育政策研究所総括研究官。情報検索,情報探索行動などを専門とする。Enju開発ワークショップや,Code4Lib JAPANのワークショップなども開催している。

本文の注
注1)  "RDA Toolkit". http://www.rdatoolkit.org/, (accessed 2013-08-15).

注2)  "FUNCTIONAL REQUIREMENTS FOR BIBLIOGRAPHIC RECORDS", http://archive.ifla.org/VII/s13/frbr/, (accessed 2013-08-15).

注3)  "FRBR&RDA勉強会", https://www.facebook.com/groups/423112671068341/, (accessed 2013-08-15).

注4)  "FRBR&RDA勉強会:イベント", https://www.facebook.com/groups/423112671068341/events/, (accessed 2013-08-15).

注5)  "FRBR&RDA勉強会", http://www.next-l.jp/?page=FRBRWorkshop, (accessed 2013-08-15).

注6)  "Project Next-L", http://www.next-l.jp/, (accessed 2013-08-15).

 
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