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研究・実務に役立つ!リーガル・リサーチ入門
第14回 英米法情報
中網 栄美子
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2013 年 56 巻 8 号 p. 536-544

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1. はじめに

前回「第13回外国法情報の世界」1)では大陸法文化圏と英米法文化圏とについて解説があった。2つの法文化圏の主たる相違点は判例を法体系の中でどのようにとらえ位置づけるかという点にあるといえよう。幕末の開国に始まり,明治政府は近代化を推し進めるが,日本は最初にフランス法を,次いで,ドイツ法を積極的に継受し,法文化圏としては大陸法文化圏に属することとなった。

それでは今回取り上げる英米法文化圏は日本と遠いところにあるかというと決してそんなことはない。明治日本において英米法は基本法典の母法にこそならなかったものの,学理としては影響を与え続けてきた。例えば,1890(明治23)年に公布された旧民法が法典論争によって施行延期になったことも,施行を主張するフランス法派のグループと施行延期を主張するイギリス法派グループという学派の対立があったことなどが挙げられる。また,戦後においてアメリカ法が日本国憲法をはじめ,刑事訴訟法,労働法,会社法,独占禁止法などのビジネス法など多分野に影響を与えていることは前回述べたとおりである。さらに最近では司法制度改革の一環として米国ロー・スクール制度を手本として,法科大学院がスタートしたことも記憶に新しい。

今回は,以上のことを留意しつつ,英米法情報をいかにリサーチすればよいか,基本となる法制度や法概念を踏まえつつ述べていきたい。

2. 英米法情報のリサーチ・ガイド

ロンドンの大英博物館,ニューヨークの自由の女神といえば誰もが知る観光名所であり,実際に行ったことがなくとも何となくおなじみという印象がある。しかしこれが英米「法」となると,その制度,用語,概念,どれをとっても戸惑うことが多い。例えば,制度について述べると,英米法文化圏と一口に言っても,英国はイングランド,ウェールズ,スコットランド,北アイルランドの4地域から成る連合王国である。このうち,スコットランドは厳密な意味では英米法文化圏とは言えず,18世紀初頭までは大陸法文化圏に属する国であった。イングランドと連合した後は,イングランド法の影響を受けることになり以降は大陸法と英米法のハイブリッドとなった。

用語について述べれば,法的拘束力は“doctrine of stare decisis”,判決の核心部分(法的拘束力が認められる裁判所の判断部分)を“ratio decidendi:レイシオ・デシデンダイ”,判決の傍論部分(核心部分以外の部分)を“obiter dictum:オビタ・ディクタム”という。ラテン語由来の下線部の法律専門用語を見るだけで,単に英語の得意不得意だけではない学習が必要になるのがわかる。

制度について述べれば,米国が「合衆国」である意味を日本人である私たちはなかなか理解できない。筆者はかつて米国ロー・スクールの学生数名に「アメリカでは何歳から結婚できるのか」という質問をしたことがある。日本の大学生であれば誰もが即答できるような初歩的な問いに法曹の卵である彼らはなぜか困惑していた。しばらくして得られた回答は「それはstate matterだから」というものだった。愚かなのは彼らではなく下手な質問をした筆者の方であった。米国では連邦法と州法があり,婚姻年齢は州法の管轄である。つまり州によって婚姻年齢は異なり,大抵は18歳であるが,中にはニューヨーク州のように基本18歳以上,16~17歳の場合は両親の同意が必要,14~15歳の場合は両親の同意に加えて裁判所の許可が必要(しかし,この要件を充たせば男女関係なく14~15歳でも婚姻できる)という州もある。

こうしてみると,「英語は結構得意な方だ」とか「日本の法や法制度に照らして考えればよい」という“思い込み”が大いなる勘違いを生む危険性があることがわかる。それではどうすればよいのか。

2.1 概説・入門書

まずは前回に挙げた各国法の手引きを参照願いたい。田中和夫『英米法概説 再訂版』(有斐閣,1981年)および田中英夫『英米法総論 上・下』(東京大学出版会,1980年)は法学部で英米法を学ぶ際によく教科書または参考書として読まれた基本書である。ただし,出版から30年以上が経過しており,英米法の基本概念を理解するうえで有用でも,近時の改正には残念ながら対応していない。実務に利用するという意味では,やはり出版年の新しいもので,前回紹介した伊藤正己・木下毅『アメリカ法入門 第5版』(日本評論社,2012年)ほか,丸山英二『入門アメリカ法 第3版』(弘文堂,2013年),あるいは植田淳『国際ビジネスのための英米法入門:英米法と国際取引法のエッセンス50講 第2版』(法律文化社,2012年)を最初に手に取った方がわかりやすいかもしれない。ただし,国際貿易の緊密度から米国法中心の記述であることは否めない。

2.2 ガイドブック

英米法リサーチの手助けとなるガイドについては前回の参考文献にリストアップしてある。紙媒体資料として英米法に限定したものではないが,北村一郎編『アクセスガイド外国法』(東京大学出版会,2004年)や指宿信・米丸恒治編『インターネット法情報ガイド』(日本評論社,2004年)が比較的最近出版されたものとして便利である。前者は英米仏独の各法ほかロシア法・中国法・イスラム法など多様な国や地域の基本的な法文献の調べ方(インターネット等の電子媒体資料を含む)を紹介している。後者は「インターネット」と冠されているとおり,第1部でインターネットと法律学の総論的な記述があり,第2部で日本はもちろん,アジア,ヨーロッパ・ロシア,アメリカ大陸など世界のエリア別にインターネット上の法情報源が紹介されている。両書を併用することが望ましいだろう。

電子媒体として前回紹介された東京大学法学部研究室図書室外国法令判例資料室(旧外国法文献センター)のWebサイト注1)では米・英・仏・独各法の主な法令集・判例集に関するガイドが掲載されている。京都大学大学院法学研究科附属国際法政文献資料センターのWebサイト注2)には「インターネットの利用を軸にした外国の法律・政治行政資料の調べ方・文書の入手方法」一覧がある。また,国立国会図書館リサーチ・ナビ「政治・法律・行政」の中には国・地域別の資料の紹介があり,英国や米国の法令・判例・議会資料注3)について簡潔にまとめられている。

海外のものでは,英国法であれば大学法学部図書館のWebサイト,米国法であればロー・スクール注4)図書館のWebサイトが新入生向けのリーガル・リサーチガイドを載せていることが多く,参考になる。例えば,英オックスフォード大学ボードリアン・ロー・ライブラリーのWebサイトには研究者や学生向けのさまざまなサービス案内がある。主として学内者向けだが,学部新入生向けの「資料の調べ方」ビデオ(約15分)注5)などは誰でもインターネットから視聴できる。また,ライブラリー・ガイドの中にリーガル・スキルとリサーチの情報注6)もあり,こちらも公開されている(学内用データベースなどを除く)。米ハーバード大学ロー・スクール・ライブラリーのWebサイトには法分野ごとのリサーチ・ガイド注7)や電子媒体情報(E-Resource)が掲載されている。また無料で利用できるリーガル・リサーチ注8)のWebサイト一覧もある。同一覧では,一次資料(連邦法・連邦政府文書,州法),条約,外国法・国際法,二次資料(書籍・ジャーナル・辞典・専門書・学位論文など),統計データについて主要なものが紹介されている。

2.3 法律用語辞典・法律百科事典

例えば,スーツ(suit),バーゲン(bargain),ダメージ(damage)などもはや日本語になっている用語でも,法の世界ではまったく違う意味を持つ。suitは紳士服ではなく,「訴訟」(lawsuitともいう。judgment of the suit=訴訟の判決など)を指す。bargainは特売品ではなく「取引」の意で,米国の法廷ドラマにしばしば登場する「司法取引注9)」はplea bargainという。damageは通常「被害」や「打撃」を意味するが,法律用語としては「損害賠償」であり,claim the damages(損害賠償を請求する)のように用いる。

このように一般英語で理解しようとするとまったく違う意味に取り違えてしまう危険性を回避するために,英語で書かれた資料に疑問を感じたら法律用語辞典を活用すること勧めたい。

日本語で書かれた英米法辞典で,最も著名なものは田中英夫編集代表『英米法辞典』(東京大学出版会,1991年)である。同辞典に関連して,1993年には基本語2,700語と基本資料をコンパクトに収録した『BASIC英米法辞典』(東京大学出版会)が,2005年には電子辞典版も出ている。最近のものとしては小山貞夫編著『英米法律語辞典』(研究社,2011年)が見出し項目約35,000とローマ法・ヨーロッパ大陸法・アングロサクソン法との関係も含めて幅広く収録されており定評がある注10)

英語で書かれた辞典でよく利用されているものは“Black's Law Dictionary”注11)(第9版,West Publishing,2010)で,45,000を超える用語を収録している。同書も従来の印刷版のほか,スマートフォンなどで利用できる電子版が販売されている。このほか10,000語もの法律専門用語を収録したポケット版(第4版)も出されている。このほか法律百科事典として,“Halsbury's Laws of England”(LexisNexis)があり,イングランドとウェールズの制定法や判例,行政実例等を総合的に調査する際に便利である。現在完成版としては第4版があるが,2008年から第5版の刊行が開始されており,既刊分については毎年出版される追録(Cumulative Supplement)と毎月のサービスによって情報が更新されている。

3. 法令

3.1 英国法令

前述のとおり,英国は4つの地域から成る連合王国で,中央に上院(貴族院:House of Lords)と下院(庶民院:House of Commons)によって構成される二院制議会(The UK Parliamentいわゆるウェストミンスター議会)がある。

これ以外に,1998年の各地方分権法に基づき設置された地域議会(スコットランド議会:The Scottish Parliament,ウェールズ議会:National Assembly for Wales,北アイルランド議会:Northern Ireland Assembly)があるが立法権限は議会ごとに異なる。

議会制定法(Acts of Parliament)を調べる場合,国がインターネット上で公開するものとしては,英国国立公文書館(The National Archives)が運営する制定法Webサイト(legislation.gov.uk)がある。同Webサイトではウェストミンスター議会における制定法のほか,各地域議会における制定法も参照できるが,収録範囲は年代・地域によって異なる注12)。よく参照される一般法律(Public Act)注13)については,1988年より前の制定法は部分収録のみにとどまるが,以後の制定法についてはすべて収録している。例として,2013年の最新法令の中にはイングランドおよびウェールズにおいて同性婚を認めた婚姻法(Marriage (Same Sex Couples) Act 2013)などがあり,その全文を参照できる。

なお,日本には法律,政令,条約等の公布を行う『官報』があるが,英国にはこれに相当するものがない。英国では法案は議会で可決された後,国王の裁可(royal assent)を経て法律となる。はじめ法律名の入った小冊子(slip law)として刊行され,後に制定年ごとにまとめられた法律集“The Public General Acts and General Synod Measures”として刊行される。したがって,インターネット上で最新法令や現在審議中の法案(bills)を調べたい場合は,議会WebサイトからBills & Legislation注14)を参照するのが便利である。

なお,英国とアイルランドの法情報を無料で提供している民間団体“British and Irish Legal Information Institute”(BAILII)注15)があり,上記議会制定法だけでなく委任立法(statutory instruments)や判例(case law)などを網羅的に収録している。

3.2 米国法令

前述のとおり,米国は連邦制であるため,法令も連邦法と州法に大別される。前者は上院(Senate)と下院(House of Representatives)から成るニ院制の連邦議会(Congress)で制定され,後者は各州の議会で制定される。連邦法と州法とがどのように区分されているのかわかりづらいが,連邦議会の立法権限は関税・輸入税および消費税,諸外国との通商,統一的な帰化に関する規則,貨幣の鋳造など合衆国憲法第1章第8条注16)において規定されており,それ以外の権限は合衆国憲法修正第10条において「各々の州または国民」に留保されている注17)。各州は合衆国憲法とは別に州独自の憲法を制定しており,日本の国会-法律と各都道府県-条例の関係と比較すると,はるかに強大な権限をもって州法があると理解してよい。

連邦法は議会で可決された後,大統領の署名によって効力を持つ。各法律ははじめ小冊子(slip law)として刊行され,後に制定年ごとにまとめられた法律集“United States Statutes at Large”として刊行される。

インターネット上で調べる場合,最近の法令については米国政府印刷局(U.S. Government Printing Office: GPO)が提供するデジタル・システムによって第104議会(1995~1996年度)以降の制定法注18)を参照することができる。併せて,同じくGPOから現行法律集として毎年法分野別に再編された“United States Code”(USC)が刊行されており,1994年以降のものは上記システムから参照することができる注19)。また,GPOは連邦政府の公報である“Federal Register”注20)を刊行しており,日本の『官報』のように法律は登載されないが,大統領の命令や布告,連邦機関の規則などが同公報によって公示される。公示された連邦機関の規則は毎年機関別に再編され規則集“Code of Federal Regulations”(CFR)として刊行されており,こちらも前述システムから参照可能である。このほか,議会図書館(Library of Congress: LC)の立法情報WebサイトTHOMAS注21)からは法案,決議案,最新法令などが参照できる。

各州法については各州のオフィシャル・サイトから調べるのも1つの方法であるが,全米州議員協議会(National Conference of State Legislatures: NCSL)が州別・項目別に選択できるリンク集注22)を公開しており調査する際に便利である。なお,米国50州がそれぞれ異なる憲法および州法を有しているわけだが,特に商取引の場面などで各州の規定が大きく違ったり,複数州にまたがったりするような時に混乱が生じる危険性がある。そのため各州法をなるべく統一しようという動きが19世紀末からあり,統一州法委員会(Uniform Law Commission: ULC)注23)や米国法律協会(American Law Institute: ALI)注24)が統一法やモデル法を作成している。例えば,米国統一商法典(Uniform Commercial Code: UCC)はULCとALIとが共同事業として作成したものである。これを連邦法として制定し全州に施行するのではなく,モデル案として提示し,各州に採択させることによって実質的に統一商法典としての機能を持たせるものである。同商法典は時代の変化に応じて修正されていくが,あくまでモデル案であるため,各州で採択されて初めて各州の制定法となる。

4. 判例

4.1 英国判例

英国は連国王国である歴史的背景から,その裁判制度も統一されておらず,イングランド・ウェールズ(両地域は裁判管轄において同一のものとして扱われる),スコットランド,北アイルランドの3つに分かれている。英国最高裁判所(Supreme Court of the United Kingdom)は民事事件において上記3地域の最終審となるが,刑事事件においては,イングランド・ウェールズ,北アイルランド2地域のみの最終審となっている。スコットランドの刑事事件についてはスコットランド最高法院(High Court of Justiciary)が最終審となっている注25)。なお,現在の最高裁は,それまで上院の中にあった司法機能を完全に分離させ,これにより裁判官の独立および議会と裁判所との透明性を確保する目的で2009年に設立された。最高裁判例は同裁判所Webサイトから参照できる注26)が,設立以前の判例については議会Webサイト注27)や前述BAILIIのWebサイトから参照できる。

公的判例集としてはICLR(The Incorporated Council of Law Reporting for England and Wales)の刊行する“Law Reports”注28)がある。リーガル・リサーチにおいて判例を引用する際,同判例集に掲載されている場合は,他の判例集に優先して引用する。同判例集は高等法院(High Court)と控訴院(Court of Appeal)注29)の主要判例を掲載している。現在は紙媒体で刊行されるとともにオンラインでも提供されているが有料である。民間の判例集としては“The All England Law Reports”(All ER)があり,現在LexisNexis Butterworthsから刊行されている。

4.2 米国判例

米国の裁判所は連邦裁判所(Federal Court)と各州裁判所(State Court)の2つに分かれている。法令の違憲性が争われる場合,前者の管轄は,連邦法や条約に関わる事件,大使や公使に関わる事件,複数の州にまたがる事件,海事法に関わる事件,破産に関わる事件などに限定されており,この他は各州裁判所の管轄となっている。例えば,婚姻や離婚,養子などの家族法に関わる問題は州の管轄であり,各州の最高裁に相当する裁判所が最終審となる。ただし,連邦法や合衆国憲法の解釈に関わる問題が生じた場合,州内だけで結審せず,連邦最高裁に事件が上がる場合もある注30)

連邦最高裁の公的判例集としては“United States Reports”が刊行されており,最高裁Webサイトからは現在502巻(1991年10月7日~1992年2月24日迄)から554巻(2007年6月16日~2008年10月3日迄)までが参照できる注31)。最新判例は同最高裁Webサイトからも参照することができる注32)。日本でも話題となった最近の判例としては,黒人差別をなくすために制定された1965年投票権法(The Voting Rights of Act of 1965)の条項がもはや時代にそぐわないものとして違憲となった判例注33)や,同性婚を禁じた結婚保護法の条項が違憲とされた判例注34)がある。

下級審の判例集としては“Federal Reporter”注35)や“Federal Supplement”注36),“Federal Rules Decisions”注37)などが刊行されている。いずれも米国の法律情報会社ウエスト(West)社注38)が刊行している。民間の判例集ではあるが,これに相当する公的判例集がないため,利用されることは多い。

州の判例については,各州裁判所のWebサイトを参照するほか,民間の判例集としては上記ウエスト社が“National Reporter System”として米国50州およびコロンビア特別区(首都ワシントンD.C.)を太平洋,北西部,南西部,北東部,南部,南東部,大西洋の7地域に分け,各地域の主要判例集を刊行している注39)

5. 法律文献と引用

法律文献の引用(citations)には,しばしば略語(abbreviations)が使われ,これらを正しく理解しないと目的の文献にたどりつけない。例えば,英国判例で“AC”や“QB”,“Fam.”と出てきたらこれらは何を意味するのか。調べる方法としては,英カーディフ大学が提供するWebサイト“Cardiff Index to Legal Abbreviation”注40)が便利である。略語と正式名称の対応をいずれからでも調べることができる。例にあげた“AC”を検索フォームに入力すると,前述した“Law Reports”の控訴事件についてだとわかる。同Webサイトは英国の法律文献だけではなく,米国,オーストラリア,カナダ,ニュージーランドほか英語で書かれた法文献の引用について広く網羅している。

なお,英国判例の引用方法につき,従来の紙媒体による判例集だけではなく,各裁判所のWebサイトから電子媒体として公開することが増えるにつれ,ニュートラル・サイテーション(neutral citations)と呼ばれる方式も用いられるようになった。この場合,判決年+裁判所の略称名+通し番号+(裁判所の部門)で構成されており,例えば[2004]EWCA Civ 5であれば2004年に控訴院(England and Wales Court of Appeal)民事部(Civil Division)でなされた5番目の裁判という意味となり,[2006]EWHC 5(Fam)であれば2006年に高等法院(England and Wales High Court)家事部(Family Division)でなされた5番目の裁判という意味になる。この他にオックスフォード大学が文献の引用方法についてルール作りをしており注41),公的な資料ではないが,英国内外のロー・スクールや法律関係書籍の出版社に広く用いられている。現在2012年に公表された第4版が同大学Webサイトからダウンロード可能である。

米国では法律文献の引用に際して“The Bluebook”注42)がよく利用されている。こちらも公的な資料ではないが,コロンビア大学,ハーバード大学,ペンシルべニア大学の各“Law Review”やイェール大学の“Law Journal”などの法律論文集の編集者によって編纂されており,定評がある。1926年の初版から数年ごとに改訂され,現在は2010年の第19版が最新であり,紙媒体で刊行されているほかオンライン版もある(有料)。

6. リーガル・データベース:おわりに代えて

以上,インターネット上から利用できる公的Webサイトを中心に英米の法令・判例の調べ方を紹介したが,最後に法律情報を総合的に検索できるリーガル・データベース(DB)について触れておく。無料で利用できるWebサイトとして,英国については前述したBAILIIがあり,米国についてはコーネル大学ロー・スクールの“Legal Information Institute(LII)”注43)や民間の“Find Law”注44)がある。

しかしながら,英国においても米国においても法曹,研究者,法学生など法律に携わる者に最も利用されているのはLexisNexis注45)およびWestlaw注46)の2大商用法律DBである。大学図書館や法律事務所など機関ごとに契約して利用するほか,各利用者にIDおよびパスワードを配布して利用する方法もある。前述の英国の“Halsbury's Laws of England”はLexisNexisから利用できるし,米国の“National Reporter System”はWestlawから参照できる。いずれも個人でたまにしか利用しないのであれば高価なDBだが,国立国会図書館や各大学図書館で利用できる場合も多く,法令・判例・文献を網羅的に収集する際に利用するとよい注47)

本文の注
注1)  http://www.j.u-tokyo.ac.jp/lib/gaise/how-to.html参照。学外者の同室利用については,http://www.j.utokyo.ac.jp/lib/etsuran/gakugai.htmlを参照のこと。

注2)  http://ilpdc.law.kyoto-u.ac.jp参照。

注3)  国立国会図書館 リサーチ・ナビ イギリス-法令・判例 http://rnavi.ndl.go.jp/politics/entry/UK.phpほか参照。アメリカ合衆国-法令 http://rnavi.ndl.go.jp/politics/entry/USA.phpほか参照。

注4)  米国の法学教育は,学部レベルではなく大学院レベルで行われる。したがって,日本の「法学部」に相当するものが米国にはない。

注5)  “Finding reading list materials: How to understand your reading list to get materials quickly and easily” The Bodleian Law Library http://www.bodleian.ox.ac.uk/law/using-this-library/students/undergraduates参照。

注6)  Legal Skills and Research: Information and resources on legal skills and legal research techniques http://www.ox.libguides.com/law-legalskills参照。

注7)  Harvard Law School Library: Research a Topic http://www.law.harvard.edu/library/research/topics/index.html参照。

注8)  Harvard Law School Library: Free Legal Research Resources http://guides.library.harvard.edu/free参照。

注9)  米国の刑事事件に特徴的な制度で,被告人が無罪を争わない代わりに,量刑を軽くしてもらえるよう検察官と取引すること。

注10)  同辞典も2012年にLogoVistaから電子版が出されている。

注11)  Black's Law Dictionary http://www.blackslawdictionary.com/Home/Default.aspx参照。なお,同Webサイト中において,同辞典の概要や最新第9版の特徴,フリーW e bサイトとの違いなど,同辞典の編集長であるBryan A. Garner氏がビデオスクリプトで語っている。

注12)  同Webサイト http://www.legislation.gov.uk/browse参照。

注13)  一般的な効力を有する一般法律のほか,特定の個人や特定の機関・団体に適用される個別法律(Private Acts)がある。

注14)  The United Kingdom Parliament > Bills & Legislation http://www.parliament.uk/business/bills-andlegislation/参照。例えば,同Webサイトの“Bills before Parliament” をからは2013 ~ 2014年度の法案の審議状況を調べることができる。

注15)  British Legal Information Institute(BAILII)http://www.bailii.org/参照。

注16)  駐日米国大使館Webサイトより,合衆国憲法正文(英語)は http://aboutusa.japan.usembassy.gov/e/jusa-majordocs-constitution.htmlを,日本語版(参考のための仮翻訳)はhttp://aboutusa.japan.usembassy.gov/j/jusaj-constitution.htmlを参照。合衆国憲法修正条項。

注17)  合衆国憲法修正条項正文(英語)は米国公文書館Webサイトより http://www.archives.gov/exhibits/charters/bill_of_rights_transcript.html参照。日本語版(参考のための仮翻訳)は前述駐日米国大使館Webサイトよりhttp://aboutusa.japan.usembassy.gov/j/jusaj-constitution-amendment.htmlを参照。

注18)  GPO Federal Digital System(http://www.gpo.gov/fdsys/search/home.action)より“Public and Private Laws” 参照。

注19)  同システムより“United States Code” 参照。

注20)  Federal Register https://www.federalregister.gov/参照。

注21)  The Library of Congress > THOMAS http://thomas.loc.gov/home/thomas.php参照。収録範囲については http://thomas.loc.gov/home/abt_thom.html参照。同立法情報Webサイトの名前はアメリカ独立宣言起草者の一人で,後に第3代大統領となったト-マス・ジェファ-ソンにちなんだもの。

注22)  National Conference of State Legislatures > State Legislatures Internet Links http://www.ncsl.org/about-us/ncslservice/state-legislative-websites-directory.aspx参照。

注23)  Uniform Law Commission(The National Conference of Commissioners on Uniform State Lawsとも呼ばれる)http://www.uniformlaws.org/Default.aspx参照。同委員会によるモデル法案一覧はhttp://www.uniformlaws.org/Acts.aspx参照。

注24)  American Law Institute http://www.ali.org/参照。

注25)  英国の裁判制度についてはhttp://www.supremecourt.gov.uk/docs/supreme-court-and-the-uks-legalsystem.pdf参照。

注26)  The Supreme Court > Decided cases http://www.supremecourt.gov.uk/decided-cases/index.html参照。

注27)  議会WebサイトよりHouse of Lords Judgments: archive http://www.publications.parliament.uk/pa/ld/ldjudgmt.htm参照。なお,同Webサイトで参照できるのは1996年11月14日から2009年7月30日までのもののみ。

注28)  ICLR http://www.iclr.co.uk/参照。

注29)  イングランド・ウェールズの高等法院,控訴院ほか各裁判所の役割については司法部(Judiciary of England and Wales)WebサイトよりIntroduction to the justice system http://www.judiciary.gov.uk/about-the-judiciary/introduction-to-justice-system参照。

注30)  両裁判所組織の相違点については合衆国裁判所WebサイトよりComparing State & Federal Courts http://www.uscourts.gov/educational-resources/get-informed/federal-court-basics/comparing-statefederal-courts.aspx参照。

注31)  Supreme Court of the United States > Bound Volumes http://www.supremecourt.gov/opinions/boundvolumes.aspx参照。

注32)  Supreme Court of the United States > Opinions http://www.supremecourt.gov/opinions/opinions.aspx参照。

注33)  上記Webサイト Shelby County v. Holder(2013年6月25日)参照。

注34)  同 Hollingsworth v. Perry(2013年6月26日)参照。

注35)  合衆国控訴裁判所(United States Court of Appeals)と合衆国連邦請求裁判所(United States Court of Federal Claims)の主要判例を収録。

注36)  合衆国地方裁判所(United States District Courts)の主要判例を収録。

注37)  Federal Supplementに収録されない連邦民事訴訟規則や連邦刑事訴訟規則などに関わる合衆国地方裁判所の主要判例を収録。

注38)  ウエスト社はトムソンロイター社は傘下に入ったため,法律関係の刊行物詳細はトムソンロイター社WebサイトのLegal Solutions http://legalsolutions.thomsonreuters.com/law-products/参照。

注39)  どの州がどの地域に含まれるかは,West's National Reporter System http://lawschool.westlaw.com/federalcourt/nationalreporterpage.asp参照。

注40)  Cardiff Index to Legal Abbreviations http://www.legalabbrevs.cardiff.ac.uk/参照。

注41)  The Oxford University Standard for Citation of Legal Authorities(OSCOLA) http://www.law.ox.ac.uk/publications/oscola.php参照。

注42)  The Bluebook : A Uniform System of Citation https://www.legalbluebook.com/default.aspx参照。

注43)  Legal Information Institute(LII)http://www.law.cornell.edu/参照。

注44)  Find Law http://www.findlaw.com/参照。なお,同Webサイトは多くの法情報を無料で公開しているが,2001年に前述ウエスト社の傘下に入り,現在はトムソン・ロイター社の一部門となっている。より法実務家向けには“Find Law For Legal Professionals”(http://lp.findlaw.com/)がある。

注45)  LexisNexisの英国Webサイトは http://www.lexisnexis.co.uk/en-uk/home.page,米国Webサイトはhttp://www.lexisnexis.com/en-us/home.page参照。

注46)  Westlawの英国情報は http://www.westlaw.co.uk/,米国情報は http://www.westlaw.com/参照。なお,英米の法律情報を幅広く収録したWestlaw Internationalがよく利用されている。同DBの詳細(日本語)については http://www.westlawjapan.com/products/westlaw-international/contents/参照。

注47)  例えば国立国会図書館では館内の利用者端末設置エリアでLexisNexisを利用することができる。

参考文献
 
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