情報管理
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リレーエッセー
つながれインフォプロ 第2回
清田 陽司
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2013 年 56 巻 8 号 p. 549-551

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マイニング探検会(通称マイタン)は,図書館や出版業界など,知識情報産業に携わるメンバーを中心として,情報マイニングや検索,Webサービスの技術にフォーカスして新たな図書館の未来を探ることを目的とした勉強会である。岡本真氏(アカデミック・リソース・ガイド株式会社)と清田の両名を発起人として2010年4月に発足し,おおむね月1回のペースで開催している。2013年4月からは,東京と京都での隔月開催となり,関東・関西地方を中心に,約40名のメンバーが参加している。

マイタンの活動は,主に月例の勉強会と,不定期に開催する合宿,図書館総合展などでの成果報告などから成っている。月例の勉強会は,おおむね以下の内容である。毎回の内容については,マイタンWebサイト1)の議事録,USTREAMによる録画やTogetterなどから見ることができる。

  • (1)清田による話題の紹介

図書館の情報サービスのあり方に大きな影響を与えている商用の検索エンジンや情報推薦システムの分野で注目されている話題についての紹介を行っている。2013年度は,利用者の行動を把握するために欠かせない行動心理学に関する話題にフォーカスして紹介している。

  • (2)メンバーによる活動報告

メンバーがそれぞれの所属組織で行っている先進的な取り組みや,マイタンで学んだ知識の応用事例などについてのシェアを行っている。

  • (3)ディスカッション

上記の内容を受けて,メンバー同士でディスカッションを行う時間を設けている。

勉強会の終了後には,毎回必ず懇親会を開くことで,メンバー間の交流の活発化を図っている。一方,合宿については,これまで泊まり込みで3回の合宿を行った。1回目の合宿は,「共生プログラミング」の実践として,エンジニアも交えた開発合宿を神奈川県真鶴町で2012年7月末に行った(成果についてはマイタンのWebサイト1)に掲載しているのでご覧いただきたい)。また,2012年9月,12月に,山中湖,京都で企画合宿を行った。3つのチームに分かれて新たなサービス企画をつくり,企画のブラッシュアップを続けている。

マイタンという勉強会の特色の1つは,メンバーの多様さにあると考えている。メンバーの大半を占めるのはライブラリアンだが,大学図書館,公共図書館,専門図書館,学校図書館など,さまざまな館種の方が参加している。また,出版社,図書館システムのベンダーやベンチャー企業の方も参加している。

図1 企画合宿(2012年9月,山中湖情報創造館

マイタンでは,メンバーの多様さという特徴を生かして,組織間で個人の活動をベースとした緩やかな連携関係を構築している。それによって,現実世界に影響を与える方向で,専門性の価値を生かすための新たな方法論を生み出していくことを目指した取り組みを続けている。

ここでは,専門性をもったメンバー同士が「つながる」ことの意味を,「組織」と「個人」という観点から考察した上で,マイタンを運営するために行っている工夫について述べたい。

専門性と組織

情報を扱う専門家としての図書館員にとっても,専門分野をもつ研究者にとっても,「この仕事で食べていけるかどうか」は重大な関心事であろう。「食べていく」源泉としての専門性を積み重ねていくためには,「専門性を発揮する」という行為を続けるしかないが,専門性を生かし,継続できる環境をどうやって得るかは,専門家を志す者にとって永遠のテーマなのかもしれない。夏目漱石による講演録『道楽と職業』や,日比谷公園を設計した本多静六博士の『私の財産告白』を読むと,明治時代の先人たちも,「継続できる環境」を作る(=稼ぐ仕組みを作る)ために,大変な苦労と,多くの工夫を重ねていたことがわかる。

私は現在,情報ナビゲーションシステムや情報推薦システムの研究者として,Web情報サービスを運営する民間企業に所属し,研究開発に従事している。専門性の発揮を継続するためには,組織に所属することでアクセスできる組織内の有形無形の資産は,きわめて魅力的であることを痛感する。例えば,月あたり数百万人が利用するWebサービスのログデータは,ユーザーの行動の裏に隠れた本質的なニーズを研究するための強力なツールである。しかし,継続的に給与が支払われる仕組みが確立されていることもまた,組織に所属することのメリットであることは否定できない。これは,専門性を生かそうとする職業人の多くが組織に所属する大きな理由ではないだろうか。

一方で,専門性を「世の中の役に立てる」ということを目指そうとするとき,所属している組織が「壁」になってしまうことも多いように感じる。例えば,大学の研究活動の成果を社会に還元していくことを目指す場合には,ビジネスモデルの構築などはもちろんのこと,民間企業などの外部組織との連携を図っていく必要があるが,一方で利益相反や秘密保持の課題などをクリアしていかなければならない。また,個々の図書館でのメタデータ整備やレファレンス事例の集積の価値を世の中に広めていこうとすれば,組織間での情報交換が重要になるが,組織同士で連携関係を構築・維持するには高いコストがかかる。

組織の壁を乗り越え,専門性を生かすということは,個人の「伝える」力の向上と切り離せない関係にあるのではないだろうか。私自身も,専門分野である情報検索や情報推薦に関する技術を,専門外のメンバーの方にもできるかぎりわかりやすく伝える工夫をする中で,多くのことを学べているように思う。

マイタン運営の工夫

マイタンでは,メンバーそれぞれに個人として参加していただくことを基本方針としている。ほとんどのメンバーは組織に所属しているが,マイタンという場では,発言の責任はあくまで個人に帰属するものとし,合宿で作り上げた成果物についても個人に帰属することとしている。

また,異なる組織に属するメンバー同士でノウハウを共有し,ゆるやかな連携を作り出すためには,お互いに手の内をさらすことは避けては通れない。そのために,勉強会へのフリーライダーを生まないための運営方針を堅持し,メンバーの方には勉強会運営への明確なコミットメント(関与)を求めている。メンバー間の連絡や出欠管理はFacebookグループを利用しているが,月例の勉強会には必ず出欠の表明をしていただくようにお願いしている。また,議事録作成や懇親会会場の予約などをメンバーの持ち回りで担当していただいたり,USTREAM中継などの運用にかかる費用として,年あたり数千円の会費の負担をお願いしたりしている。これらの方針は,参加のハードルを高くしてしまうデメリットはあるが,「組織の壁を乗り越えて,新たな価値を創り出す」という目的のためにはやむをえないと考えている。

おわりに

ここでは,マイタンという勉強会で行っている取り組みと,その背景にある運営の考え方について紹介した。これまで,合宿なども含めると40回以上の集まりを継続してきているが,運営のコストは必ずしも小さくはない。それにもかかわらず継続できているのは,Facebookグループの活用などによってコミュニケーションのコストを下げる工夫を行っていることもあるが,活発に自らの活動内容をシェアしていただいているメンバーの方々の熱意に支えられているからではないかと考えている。中には,青森県などの遠方から参加している方々もいらっしゃる。多大な時間と費用を投資して参加している理由には,自らの専門性を磨くための投資という考え方があるように感じている。

図2 第14回図書館総合展での成果報告フォーラム(2012年11月,パシフィコ横浜)

マイタンの活動についてはFacebookページ2)やTwitter(ハッシュタグ #mitan)などを通じて発信しているので,フォローしていただけると幸いである。また,新たに参加を検討されている方は清田または岡本氏まで個人的に連絡をいただきたい。

執筆者略歴

清田 陽司(きよた ようじ)

株式会社ネクスト HOME'S事業本部 リッテルラボラトリーユニット 主席研究員。専門分野は,自然言語処理アプリケーション,情報推薦システムなど。図書館分野では,国立国会図書館リサーチ・ナビなどの開発に携わった。

参考文献
 
© 2013 Japan Science and Technology Agency
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