2013 年 56 巻 9 号 p. 622-635
連載の最終回となるこの回では,前回「第14回 英米法情報」1)に引き続き,外国法情報の調べ方の各論として紙媒体資料,有料・無料のWeb情報を活用して,大陸法系の連邦国家であるドイツ,中央集権国家であるフランス,国際機関であると同時に超国家機関であるヨーロッパ連合(EU)の法情報(法令,判例,立法過程,法律文献)の調べ方を紹介する。「第13回 外国法情報の世界」2)で述べられたように,統治機構,法系,法文化等に違いがあることを前提に,調査の足掛かりを提示する。なお,ドイツは連邦,フランスは国について主に説明することをお断りしておく。
ドイツは,固有の憲法と国家権力と領域をもつ主権国家である16の州(Land)注1)で構成される「民主的かつ社会的連邦国家」(「基本法(Grundgesetz)」第20条第1項)であり,連邦と州は立法・行政・司法の各分野で権限を分担する。ただし,州憲法は基本法にいう共和的・民主的・社会的法治国家原則に合致しなければならない。
2.1 法律情報とその探し方法律情報として重要なのは,法令,判例,学説である。ドイツはローマ法の系譜をもつ大陸法(Zivilrecht)系の国であり,「実定法源としての法令も,あるいは判例・先例も,学問的理論枠組みの何処かに位置付けて理解される。それゆえ,ドイツ法を知るための素材としてまず紐解くべきものは,法令・判例ではなくて,学問的体系書だ」とされる注2)。
(1) 法令連邦の立法を担うのは,小選挙区比例代表併用制による直接選挙により選出される議員で構成される連邦議会(Bundestag)と各州政府代表で構成される連邦参議院(Bundesrat)である注3)。行政を担うのは主に州である。連邦が下部組織を組織して直接執行する外交,防衛等を除き,連邦行政も州に委任されている。
① 法令の種類憲法上,連邦議会で議決されたもののみが法律(Gesetz)とされる注4)。連邦議会で可決された法律は,必要な場合は連邦参議院の同意を得た上で,連邦大統領が認証(Ausfertigung)し,『連邦法律公報』第1部(Bundesgesetzblatt(BGBl)Teil I)への掲載をもって公布される注5)。法律の執行のために連邦行政機関が発する命令類注6)には,①議会制定法の委任を受けて,行政機関が制定し,法律と同様に国民を直接に拘束する法規命令(Rechtsverordnung)(政令レベル),②行政機関が定め,行政機関を拘束する行政命令(Verwaltungsverordnung)(省令レベル),③法令に基づく,上級官庁から下級官庁への指示である通知類(Mitteilung, Rundschrift,Erlaß,Runderlaß,Richtlinie)(告示レベル)がある。
② 法令の探し方インターネットを通じた法令・判例の情報源が有料・無料を問わず普及しているが,電子媒体のテキストが正統的なものと認められていないものもあり,その場合は,紙媒体により確認する必要がある。
インターネットでは,『連邦法律公報』が1949年創刊から「連邦法律公報 市民アクセスサイト(Bundesgesetzblat(t BGBl)Online Burgerzugang)(」http://www.bgbl.de/Xaver/start.xav?startbk=Bundesanzeiger_BGBl)で無料で閲覧(印刷不可)できる注8)。同じWebサイトで『現行法令索引』(PDF)も閲覧できる。また,連邦の命令類は『連邦官報』の検索WebサイトElektronischer Bundesanzeiger(http://www.bundesanzeiger.de/ebanzwww/)と連邦政府の各省庁とその所属機関のWebサイトでも閲覧できる注9)。
法律や行政命令の制定過程で発生する情報は,その立法趣旨を理解し,法文を解釈するために有益である。連邦議会と連邦参議院に提出された法律案は,連邦議会と連邦参議院の議事資料Drucksache-Drs.)注13)と本会議録(Plenar Protokolle)(議事速記録 Stenographischer Bericht)に収録される。各会期ごとに刊行される『索引(Register)』(事項索引,発言者索引)と『連邦立法状況総覧(Übersicht über den Stand der Bndesgesetzgebung)』(『連邦官報』「非政府機関編」掲載)で議事資料と審議状況が把握できる。これらは,連邦議会のWebサイトDokumente & Recherche (http://www.bundestag.de/dokumente/index.jsp)と連邦参議院のWebサイトParlamentsmaterialien (http://www.bundesrat.de/cln_340/nn_43984/DE/parlamentsmaterial/parlamentsmaterial-node.html?__nnn=true)で議事資料と議事速記録で閲覧ができる。また連邦議会「議会資料情報システムDIP (Dokumentationsund Informationssystem für Parlamentarische Vorgänge)」(http://dipbt.bundestag.de/dip21.web/searchDocuments.do)により検索できる。
(2) 判例連邦司法を担うのは,国家のすべての行為の合憲性を審査する連邦憲法裁判所,民事・刑事事件を管轄する連邦通常裁判所,連邦行政裁判所,連邦税務裁判所,連邦社会裁判所,連邦労働裁判所である。それぞれ下級裁判所があり,それらは主として州の裁判所である。審級も多岐にわたり,判例が収録されている資料も種類が多い注14)。
1949年以降の連邦憲法裁判所の判決は『連邦法律公報』で無料で閲覧でき(印刷不可),1992年以降の連邦税務裁判所の判例は『連邦税務公報』(Online Bundessteuerblatt)(http://www.bundessteuerblatt.de/)で有料で提供されている。すべての連邦最高裁判所もそれぞれのWebサイトで最近の判例を公開している。判決日付や判決中のキーワードによる検索が可能である注16)。
学説と判例の把握には,個別の法律の逐条解説書であるコンメンタール(注釈書)と特定主題の体系的解説書であるハンドブックが不可欠である。概説的な解説書である教科書,特定の論点についての学問的研究であるモノグラフもある。大学教授資格取得のために著された「大学教授資格取得論文」も高いレベルのモノグラフである。【判例速報】で挙げた法律雑誌も総合的なものと特定の分野のものとを問わず,最新の論点についての論文を収録する。
村上淳一;守矢健一;ハンス・ペーター・マルチュケ『ドイツ法入門 改訂第8版』(有斐閣, 2012)は入門と銘打っているが,最新のドイツ法の概説である。末尾に参考文献とレファレンスのためのアドレス一覧がある。また実定法を中心とした解説として,山田晟『ドイツ法概論(1)(2)(3)』(有斐閣, 1985, 1987, 1989),『ドイツ連邦共和国法の入門と基礎:ドイツの憲法および民法 改訂版』(有信堂高文社, 1991)がある。
(2) 日本語文献ドイツの法律情報を探す手掛かりとして日本語文献の参照も有益である。『日独法学』(日独法学会),『比較法研究』(比較法学会, 有斐閣)をはじめとする学会誌や図書等に掲載されるドイツ法に関する文献の検索は『法律判例文献情報』(第一法規出版)(外国法に関する文献の表示あり)が有効である。『法律時報』(日本評論社)の「特集 学界回顧」(ドイツ法)も毎年刊行される。
(3) ガイドブック海老原明夫「ドイツ法」(北村一郎編『アクセスガイド 外国法』東京大学出版会, 2004, p. 151-185)はやや古いが,本格的なガイドブックである。本山雅弘「第4章 ドイツ法に関する法律情報の調べ方」(小林成光ほか『やさしい法律情報の調べ方・引用の仕方』文眞堂, 2010, p. 119-131)は初学者のためのコンパクトなガイドである。米丸恒治「ドイツ連邦共和国」(指宿信;米丸恒治編『インターネット法情報ガイド』日本評論社, 2004, p. 149-158)はインターネット上の法律情報のリサーチガイドである。インターネットで公開されているリサーチガイドでは,国内では,京都大学大学院法学研究科附属国際法政文献資料センター「外国の法律・政治行政資料の調べ方・文書の入手方法」の「ドイツの法律文献・政府文書などを調べる」(http://ilpdc.law.kyoto-u.ac.jp/manual-d.htm),外国ではRita Exter & Martina Kammer, Update by Sebastian Omlor, Update:Legal Research in Germany between Print and Electronic Media: An Overview published July/August 2012 GlobaLex Foreign Law Research(New York University, School of Law)(http://www.nyulawglobal.org/Globalex/Germany.htm)等がある注18)。
(4) 法律用語辞典・法律百科事典法制度や法律用語の意味を理解するには法律用語辞典や法律百科事典が必要となる。
ドイツの法律用語の中で特に注意すべきものとして略語がある。法令,裁判所をはじめとする政府機関,雑誌等の名称には頻繁に略語が使用されるので,ドイツ法の調査に不可欠な辞典としてHildeberd Kirchner & Dietrich Pannier/Abkurzungsverzeichnis der Rechtssprache,/7., vollig neu bearbeitete und erweiterte Aufl./De Gruyter,/2013がある。また,Clara-Erika Dietl, Egon Lorenz, Wiebke Buxbaum/Wörterbuch für Recht, Wirtschaft und Politik: mit erlauternden und rechtsvergleichenden Kommentaren / Teil 1. Englisch-Deutsch,/7.vollig neu bearbeitete und erweiterte Aufl./C.H.Beck,/2007, Ibid./T. 2. Deutsch-Englisch : einschliesslich der Besonderheiten des amerikanischen Sprach Gebrauchs/ 5. vollig neu bearbeitete und erweiterte Aufl./C.H.Beck,/2005は,独英・英独の法律・経済・政治用語辞典であるが法文を用例とし英米法の法律用語との比較も可能であり極めて有益である。
ドイツ語の標準的な法律用語辞典としてCarl Creifelds, Klaus Weber , DieterGuntz [et al.]/Rechtswörterbuch.,/20. Neubearbeitete Aufl./C.H.Beck /2011,学生向けのAnnegerd Alpmann-Pieper et al. (Hg.)/Alpmann Brockhaus Studienlexikon Recht/3. Aufl./C.H.Beck /2010がある。
加除式の法律百科事典として,Adolf Reifferscheid hrsg./Ergänzbares Lexikon des Rechts/Neuausgabe /Luchterhand /1981,やや大部の百科事典としてHorst Tilich & Frank Arnold (Hg.),/Deutsches Rechts-Lexikon. /3 Bd.,/3. Aufl /C.H.Beck/2001-2003がある。
1958年憲法により,フランスは国民の直接選挙によって選出され,立法・行政・司法三権にわたって強大な権限と安定した地位(任期7年)にある大統領制の国(République française)(第五共和政)となった。行政を担うのは,大統領によって指名される首相が組織する政府と国家行政官庁である。18歳以上の有権者による直接選挙で選出される下院たる国民議会(Assemblée Nationale)と,間接選挙で選出される上院たる元老院(Sénat)で構成される二院制議会がある。1958年憲法により,立法権の中核である法律制定権が大きく制限されている(後述)注19)。
3.1 法律情報とその調べ方ローマ法を継受した大陸法系(Droit continental)の国で,法源は厳密な議会制定法中心主義(Légalisme)であり,裁判はその適用にすぎないと考えられてきたが,判例,慣習法,法の一般原則も法源とされている注20)。
(1) 法令 ① 法令の種類命令は,①大統領宣言(Proclamation),②オルドナンス(Ordonnance)(議会から立法権の授権を経た上で政府が制定し,または政府が制定後に,追認法律により議会が事後承認する),③デクレ(Décret)(大統領または首相が制定する)④アレテ(Arrêté)(各省大臣,知事,市長村長が制定),⑤通達(Circulaire)・訓令(Instruction)(上位行政機関が制定)に分けられる。EUの「規則(Réglement)」は直接適用され,「決定(Decision)」や「指令(Directive)」については国内法を制定し,命令事項に関する国際協定類・EU規則はデクレ(Décret)により公布される。
② 法令の調べ方インターネットでは,法律・行政情報局(La direction de l'information légale et administrative -DILA)が主宰している総合的な法令・議会・政府情報Webサイト「Legifrance」(Legifrance, le service publique de l'accès au droit)(http://www.legifrance.gouv.fr/)注26)の『官報 法令編』のサイトから当月および当年の『官報 法令編』の閲覧,1990年以降の『官報 法令編』の簡易検索・詳細検索等の方法による検索・閲覧ができる。また,『電子版正文官報 法令編』(Journal officiel électronique authentifié)(http://www.journal-officiel.gouv.fr/lois_decrets_marches_publics/journal-officiel-electronique-authentifie.htm)では,2004年6月1日付以降の『官報 法令編』の正統な法令テキストの無料閲覧,有料契約による検索・閲覧・印刷ができる。
法律・行政情報局(DILA)が逐次発行する小冊子の現行法令集(Brochures)も法典と主題別法令集を収録している。民間出版社であるDalloz社(Editions Dalloz)からは,法典を中心とする主題別法令集シリーズPetits Codes Dallozが刊行されている。
インターネット上の「Legifrance」の法令編では,憲法(Constitutions),現行法典(Les codes en vigueur)(1990年1月現在の法典および法典化された法令およびそれ以降に制定された法典および法典化された法令),その他の現行法令(法典化されていない法令)にアクセスできる注28)。重要法律の英訳(Traductions du droit français)(http://195.83.177.9/code/index.phtml?lang=uk)も収録されている。『官報 法令編』未掲載の命令類も同じく「Legifrance」から各省庁公報(Bulletin officiel)Webサイト(http://www.legifrance.gouv.fr/Droit-francais/Bulletins-officiels)にアクセスして閲覧できる注29)。
③ 立法情報議会における法律案とその審議経過については,国民議会と元老院の『議事文書』(Documents parlementaires)と『議事速記録』(Débats parlementaires)がある。それぞれの会期ごとの索引(発言者・事項)(Tables)により検索できるが,より簡便な方法として『官報 法令編』と国民議会の『制定法律・決議集』(Recueil des lois et des résolutions adoptées)(Assemblée nationale)(年刊)に掲載されている法律の末尾にある法律の審議経過の参照をお勧めする。法律番号や公布日により,『官報 法令編』の法律の掲載箇所を知れば,法案,審査報告書,会議録等の議事文書を参照することができる。インターネットでは,前述の「Legifrance」の立法情報(Les Dossiers legislatives)(http://www.legifrance.gouv.fr/dossiers_legislatifs.jsp)から2002年以降に成立した法律とオルドナンスの審議経過にアクセスすることができ,極めて有益である。
(2) 判例司法権を担うのは民事・刑事事件を管轄する司法裁判所注30)であるが,裁判所としてはその他に,行政事件を管轄する行政裁判所注31)と行政最高裁判所に相当する国務院(Conseil d' Etat),法律の合憲性を審査する憲法院(Conseil constitutionnel)等がある注32)。
判例集としては,公撰の控訴院判決公報,私撰の行政裁判所判例集「ルボン判例集(Recueil Lebon; Recueil Lebon des Décisions du Conseil constitutionnel)」(Edition Dalloz)等があるが,民間の総合法令・判例雑誌Recueil Dalloz de jurisprudence et de legislation(Edition Dalloz)と総合法律週刊誌La Semaine juridique(Juris-Classeur périodique)(LexisNexis France)にも憲法,司法,行政の各裁判所の最新の判例が掲載される。
インターネットでは,控訴院の公報(民事・刑事)(Bulletin)(http://www.courdecassation.fr/jurisprudence_2/),国務院の行政裁判所判例の検索サイト(http://www.conseil-etat.fr/fr/base-de-jurisprudence/),憲法院判決(Décisions du Conseil constitutionnel)(http://www.conseil-constitutionnel.fr/conseil-constitutionnel/francais/les-decisions/les-decisions.95486.html)等,各裁判所のWebサイトに最近の判例が掲載される。
そのほかには「Legifrance」の判例(Jurisprudences)(http://www.legifrance.gouv.fr/initRechJuriConst.do)で検索することができる。
(3) 学説(文献)すでに法令と判例の調べ方で挙げた総合法律雑誌や特定の分野の法律雑誌が,最新の論点についての論文を収録している注33)。また,法律百科事典や法律用語辞典には主要な学説(文献)が紹介されており(3.2 法律情報リサーチガイド「(4)法律用語辞典・法律百科事典」参照),これらは各社Webサイトでも有料で提供されている注34)。
3.2 法律情報リサーチガイド (1) 概説・入門書滝沢正『フランス法 第4版』(三省堂, 2010)はフランス法の教科書としてまとめられた概説書で,フランス法全般についてわかりやすく解説されている。特に「第3編 法源 第3章 法資料の手引」と「邦語参考文献」はきわめて有益である。より詳細な概説書として,山口俊夫『概説フランス法(上)(下)』(東京大学出版会, 1978, 2004)もある。大山礼子『フランスの政治制度』(東信堂, 2006),新倉俊一他編『事典 現代のフランス(増補版)』(大修館書店, 1997)は政治制度を含むフランス全般の理解に有益である。
(2) 日本語文献フランスの法律情報を探す手掛かりとして日本語文献の参照も有益である。『日仏法学』(日仏法学会),『比較法研究』(比較法学会, 有斐閣)をはじめとする学会誌や図書等に掲載されるフランス法に関する文献の検索には『法律判例文献情報』(第一法規出版)(外国法に関する文献の表示あり)が有効である。『法律時報』(日本評論社)の「特集 学界回顧」(フランス法)も毎年刊行される。
(3) ガイドブック北村一郎「フランス法」(北村一郎編『アクセスガイド 外国法』東京大学出版会, 2004, p. 89-149)を利用することが不可欠である。町村泰貴「フランス共和国」(指宿信・米丸恒治編『インターネット法情報ガイド』日本評論社, 2004, p. 138-148)はインターネット上の法律情報のリサーチガイドである。インターネットで公開されているリサーチガイドとしては,国内では,京都大学大学院法学研究科附属国際法政文献資料センター「外国の法律・政治行政資料の調べ方・文書の入手方法」の「フランスの法律文献・政府文書などを調べる」(http://ilpdc.law.kyoto-u.ac.jp/manual-f.htm)外国では,Stéphane Cottin & Jérôme Rabenou, UPDATE: Researching French Law, GlobaLex, Foreign Law Research(New York University, School of Law),(http://www.nyulawglobal.org/globalex/France1.htm)がある。
(4) 法律用語辞典・法律百科事典法制度や法律用語の意味を理解するには法律用語辞典や法律百科事典が必要となる。
【法律百科事典】Collection des Juris-Classuer(LexisNexis France)は法分野や主題ごとに数巻ないし十数巻のシリーズで構成されている民間版の加除式総合法律事典である。各シリーズは体系的に配列された項目ごとに法源(根拠法),関連文献,制度概説が収録され,制定法,判例,行政実例等の総合的な理解,特定主題に関連する制度の全体像,根拠法を知るために不可欠である。また,Encyclopédie juridique Dalloz:Repertoir de droits(Editions Dalloz)は,法分野ごとのシリーズで,主題キーワードのABC順に配列された加除式総合法律事典(法律総覧)である。
すでに述べた通り2),ヨーロッパ連合(The European Union,以下「EU」)は,現在,EU基本条約(いわゆる「リスボン条約」により改正されたEU条約とEU機能条約および関連議定書と附属文書)によって設立・運営されている超国家機関である。基本条約により,欧州議会(European Parliament),欧州理事会(European Council),理事会(Council),委員会(Commission),EU司法裁判所(Court of Justice of the EU),欧州中央銀行,会計検査院などの機関によって運営されている。欧州議会は統一選挙規程に従って,加盟各国ごとに,欧州市民の直接選挙で選出された,政党会派として活動する議員により構成される。欧州理事会は加盟各国の首脳とEU各機関代表,理事会は加盟各国の閣僚級代表,委員会は加盟国籍を有する独立した職員により構成される注35)。
4.1 法律情報とその調べ方EU法の法源は,一次法たるEU基本条約(いわゆる「リスボン条約」により改正されたEU条約とEU機能条約および関連議定書と附属文書),二次法たるEUの諸機関が制定する各種法令と判例である注36)。
(1) 法令 ① 法令の種類基本条約とそれと同一の価値を有するとされる「欧州基本権憲章」に基づいて,理事会と欧州議会が共同で立法権を行使する。法令には,一般的に適用され,義務を課す(拘束力を有する)ものとして,加盟国の国内立法を待たずに直接適用される「規則(Regulation)」,施行には加盟国の国内立法を必要とする「指令(Directive)」,個別の行政処分に当たる「決定(Decision)」がある。それぞれ,委任または実施のための法令もある。他に,拘束力を持たない「勧告(Recommendation)」,「意見(Opinion)」がある注37)。
② 法令の調べ方EUの立法過程は複雑である注39)が,主なものは法令案が確定されるまでの検討内容がわかる委員会文書(いわゆる「COM Documents」)(http://ec.europa.eu/transparency/regdoc/),欧州議会の議事録(Annex to Official Journal of the European parliament; Debates of the European Parliament)(http://www.europarl.europa.eu/plenary/en/debates.html),議会報告書等(Working Documents of the European Parliament)(http://www.europarl.europa.eu/RegistreWeb/search/typedoc.htm?language=EN)である。EUR-Lexでは規則案等の審議状況が検索できる(Search in preparatory acts)(http://eur-lex.europa.eu/RECH_actes_preparatoires.do?ihmlang=en)。
④ インターネット法令と判例の総合検索サイト「EUR-Lex」(Access to European Union Law)(http://eur-lex.europa.eu/en/index.htm)からは無料で,1952年創刊から最新までの『官報』(法令編,通知編),条約類,現行法令(Legislation in Force),すべての改正法令を読み込んだ法令(Consolidated Legislation),委員会ドキュメント,EU司法裁判所の判決等の閲覧と検索ができる注40)。新しい「新EUR-Lex」のWebサイト(http://new.eur-lex.europa.eu/oj/auth-direct-access.html)では,『官報 電子版』(the electronic edition of the Official Journal(e-OJ)に掲載された,2013年7月以降の法令の法文が一部を除き,正統かつ証拠能力のあるものとして認められた。EUのホームページのEU Lawのサイト(http://europa.eu/eu-law/index_en.htm)では,英文による解説を参照しながら法令,立法情報,判例の検索等ができる。
(2) 判例EU司法裁判所は,司法裁判所,総合裁判所,職員裁判所から構成され,EU基本条約に関する一般的管轄権を有し,EU加盟国,EU諸機関または私人が提起する訴訟(直接訴訟)についての判決と加盟国裁判所の要請によるEU法の解釈またはEU諸機関の効力についての先決判決(先決付託手続),EU基本条約に規定されているその他の訴訟に対する判決を行う注41)。
EU司法裁判所の判例を掲載する公式判例集(European Court Report)は加盟国の言語で刊行され,EU司法裁判所のWebサイト(http://curia.europa.eu/jcms/jcms/j_6/)にも「判例(Case-Law)」が掲載され,判例索引(Repertoire de Jurisprudence) (http://curia.europa.eu/jcms/jcms/Jo2_11765/repertoire-de-jurisprudence)もある。判決の要旨は,『官報 通知編(Official Journal of the EU(Informations&Notices)』に掲載されている。EUR-Lexでも,EU司法裁判所の判決等の閲覧(http://eur-lex.europa.eu/JURISIndex.do?ihmlang=en)と検索(http://eur-lex.europa.eu/RECH_jurisprudence.do)が可能である注42)。
(3) 学説(文献)Common Market Law Review(M. Nijhoff),Revue Trimestriele de Droit Européen(Editions Sirey),Europarecht (Nomos Verlagsgesellschaft)等,EU法の専門雑誌もあるが注43)これらの記事を含むEU法に関する文献を調査する際の書誌として,EU司法裁判所図書館編纂のLegal bibliography of European Integration(Bibliographie juridique de l'intégration européenne),その電子版であるBibliographie Courante Parte A(Publications juridiques concernant l'intégration européenne),EU委員会中央図書館の書誌データベース(http://ec.europa.eu/libraries/)がある。
4.2 法律情報リサーチガイド (1) 概説・入門書庄司克宏『新EU法 基礎編』(岩波テキストブックス)(岩波書店, 2013)はEU法の教科書としてまとめられた概説書で,リスボン条約以降のEUとEU法全般についてわかりやすく解説している。特に「序章 EU法入門」は新しいEUの機構とEU法の構造を図解で簡潔に解説し,参考文献とEU法律情報を知る手掛かりを提供しており,極めて有益である。同じ著者の『欧州連合 統治の論理とゆくえ』(岩波新書, 岩波書店, 2007)は,拡大EUの到達点と課題を示すとともに,EU関連の判例を例に挙げることにより,EU法の機能の理解を深める上で有益である。ドイツの定評ある教科書の翻訳であるM.ヘルデ-ケン(中村匡志訳)『EU法』(ミネルヴァ書房, 2013),中西優美子『EU法』(新世社, 2012)(参考文献あり)も新しい。辰巳浅嗣編著『EU:欧州統合の現在 第3版』(創元社, 2012)は文字通り,EU全般の理解に有益である注44)。
(2) 日本語文献EUの法律情報を探す手掛かりとして日本語文献の参照も有益である。『日本EU学会年報』(日本EU学会, 有斐閣電子版あり),『比較法研究』(比較法学会, 有斐閣)をはじめとする学会誌や図書等に掲載されるEU法に関する文献の検索には『法律判例文献情報』(第一法規出版)(外国法に関する文献の表示あり)が有効である。『法律時報』(日本評論社)の「特集 学界回顧」(EU法)も毎年刊行される。
(3) ガイドブック伊藤洋一「ヨーロッパ法」(北村一郎編『アクセスガイド 外国法』東京大学出版会, 2004, p.187-256)を利用することができる。中村民雄「EU」(指宿信;米丸恒治編『インターネット法情報ガイド』日本評論社, 2004, p.184-200)はインターネット上の法律情報のリサーチガイドである。インターネットで公開されているリサーチガイドでは,国内では,京都大学大学院法学研究科附属国際法政文献資料センター「外国の法律・政治行政資料の調べ方・文書の入手方法」の「EU資料(EU・EC法)を調べる」(http://ilpdc.law.kyoto-u.ac.jp/manual-kokusai.htm#eudoc),外国ではDuncan E. Alford, UPDATE: European Union Legal Materials: An Infrequent User's Guide Published January 2011, GlobaLex Foreign Law Research (New York University, School of Law)(http://www.nyulawglobal.org/Globalex/European_Union1.htm)とPatrick Overy, UPDATE: European Union: A Guide to Tracing Working Documents Published May 2013 (http://www.nyulawglobal.org/Globalex/European_Union_Travaux_Preparatoires1.htm)がインターネット情報を中心にして詳細である注45)。
(4) 法律用語辞典・法律百科事典日本語文献では,EU法に特化したものは見当たらない注46)。2.2,3.2,4.2の「(1)概説・入門書」で紹介した文献の目次や索引によるのが適切であろう。外国語では「2. ドイツ」,「3. フランス」であげた独仏文献に加えて,David Phinnemore, Lee McGowan, A Dictionary of the European Union 6th Edition Routledge, 2013とEuropa Publications European Union Encyclopedia and Directory 2013 13th Edition Routledge, 2012がある。
実際の調査に当たっては,言語の制約上,邦文資料や英文資料を利用する場合でも,原語の資料の存在に留意されたい。また,インターネットを活用することが多いが,まだテキストの正統性が認められない等の制約もあり,紙媒体資料の利用が求められることもある。
執筆に当たっては,本文および注に掲げた文献を大いに活用させていただいた。文献の著者の方々に深く感謝いたします。
連載「研究・実務に役立つ!リーガル・リサーチ入門」は,ローライブラリアン研究会(http://ameblo.jp/lawlibrarian/)のメンバーが交代で執筆を担当した。研究会でその構成,分担を考え,各回の原稿を読み合うなどを経てきた。わかりやすさに徹したいと考えてきたが,実現できたであろうか。当研究会は,法分野のライブラリアンで構成しているのではなく,人の暮らしにも密接にかかわる法,その情報を収集するローライブラリーに必要とされるものは何かを考える研究会から始まり,さまざまなバックグラウンドの,さまざまな年代,経験の者から構成されている。これまでに図書館総合展でフォーラムを開催し,図書館員向けにリサーチ方法を伝えたり,図書館振興財団の助成を受けて出前講義を全国で開催してきているが,このたびの連載でメンバーがさらに知識を深め,これを読者と共有できたならば幸いである。ますます研鑚を積み,リサーチに必要なこの分野の背景知識やツール,その使い方を広め,役に立ちたいと考え行動する予定である。多謝