2014 年 56 巻 10 号 p. 685-696
日本版NIHや製薬企業における,政策決定・戦略立案に資するエビデンス提供のため,新しい指標に基づいた医薬品産業の現状俯瞰・将来予測を試みた。今回は,パイプラインを有する事業主体の規模や種類に着目し,医薬品開発のカギを握る事業主体について分析した。その結果,米国の強みは中小企業・ベンチャー企業にあること,また一方で,日本の中小企業・ベンチャー企業は米国のような働きを担っていないことが明らかとなった。
「日本版NIH創設に向けた新しい指標の開発(2)」において,各製薬企業が有する研究開発パイプラインについて,今後の成長が期待されるバイオ医薬品に着目し,各テクノロジーの観点から医薬品開発の現状俯瞰・将来予測を試みた1)。その結果,バイオ医薬品における米国の現在および将来にわたる優位性が明らかとなった。また,日本は細胞治療において,「非臨床試験」数,特許出願数,および論文数などが多く,基礎研究はトップクラスにあるなど,日本の研究開発においても,一部の分野で期待が持てることを示した。
本稿では前2回とは異なる切り口,すなわち,パイプラインを有している事業主体に着目し,低分子並びにバイオ分野のパイプラインの事業主体別動向を把握する。
従来,化学合成に強みを持つ日米欧の大手製薬メーカーにおける研究開発体制は,自社研究所で生み出されたシーズを自社内で磨きあげ,製品化して市場に出し,その利益を再度自社の研究開発に回すといった「自前主義」が主流であった。しかしながら,十数年に及ぶ期間,増加の一途をたどる研究開発費を要する近年の開発状況に対処するため,新たなビジネスモデルの確立が必要となってきている。たとえば,海外ではメガファーマ同士の水平合併による資本力の拡大や,ベンチャー企業との機能分担が図られている。また,近年は,パイプラインを社外に求め,リスクを軽減しながら効率的に創薬を行う「オープンイノベーション」が注目されている2)。
そこで今回は,パイプラインを有する事業主体の規模や種類に着目した分析を行うことで,複数段階にわたる医薬品開発のプロセス,特に開発段階においてカギとなり得る事業主体の把握を試みる。
なお本稿は,著者の私見であり,著者が所属する機関の意見・見解を表明するものではない点にご留意願いたい。
「オープンイノベーション」とは,新技術や新製品の開発に際して,知識や競争力のある技術につき,組織の枠組みを超えて幅広く結集を図る新しいビジネス戦略のことである3)。オープンイノベーションは,他組織の優秀な人材と協働して外部の研究開発力を吸収しようとするため,各ステークホルダーの役割分担,開発費負担,製品化までの過程,知的財産権などの調整が複雑になる。一方,新しい発想や研究資源,技術を効率よく活用でき,会社単体で抱えるリスクが軽減される利点がある。
医薬品開発において,オープンイノベーションの様式は多様であり,どの事業主体が主導するかにより性質が異なる。表1に創薬におけるオープンイノベーションの例を列挙する4)。
表1のように海外のみならず日本においても,創薬におけるオープンイノベーションは進みつつある。次の章から,われわれの分析データを用いて全体像を把握したい。
実施機関 | オープンイノベーション事業 | 事業要旨 |
---|---|---|
アステラス製薬 | ・a-cube | 企業がアカデミアの研究者に課題を公表する公募型。 |
第一三共 | ・TaNeDS | 企業がアカデミアの研究者に課題を公表する公募型。 |
塩野義製薬 | ・FINDS ・シオノギ科学プログラム |
企業がアカデミアの研究者に課題を公表する公募型。国を特定した海外向け公募を2011年度から開始 |
GlaxoSmithKline (グラクソ・スミスクライン) |
・トレスカントスオープンラボ ・外部機関連携薬剤探索センター(ceedd) |
[トレスカントスオープンラボ] マラリアや結核等の発展途上国疾患の治療薬の開発。研究資金提供,ヒット化合物の「オープン・ソース」制度,連携団体に有利な知財管理体制。 [ceedd] アカデミアやバイオベンチャーと連携。研究資金と社内外の研究資源の供与で標的探索から臨床POCまでを支援。 |
Eli Lilly and Company (イーライリリー) |
・FIPNet ・PD2&TargetD2 ・コーラス ・ファンド |
[FIPNet] 一極集中ではなく完全統合化された製薬ネットワーク企業に変革 [PD2&TargetD2] 大学の化合物を入手してEli Lilly and Companyが評価 [コーラス] 独立した評価部門 [ファンド] 中立的ベンチャーファンドへの投資 |
東京大学創薬イノベーションセンター | ・創薬等支援技術基盤プラットフォーム | 化合物のスクリーニングを実施。企業にも実費で化合物を提供。 |
京都大学次世代免疫制御を目指す創薬医学融合拠点 | ・AKプロジェクト | 京都大学と企業の一対一の共同研究で,京大17,アステラス3の研究グループが大学構内の研究所一棟を占有。 |
出典:研究資源委員会調査報告書. “創薬におけるオープンイノベーション -外部連携による研究資源の活用-”. 財団法人ヒューマンサイエンス振興財団. 平成25年3月を基に作成(http://www.jhsf.or.jp/paper/report/report_no78.pdf)
Evaluate社のデータベースEvaluatePharmaを用い,パイプラインを有する事業主体を,「中小企業・ベンチャー」,「大企業」,「ジェネリック企業」,「製薬関連企業」,「大学」,「非営利団体」,「政府機関」,および「その他」の8分類に振り分けた。なお,EvaluatePharmaにおいて,事業主体はより詳細かつ複雑に分類されているが,視覚的に分かりやすくするため,本稿においては上記のレベルにとどめた。
なお,本稿においては,事業主体の分類のうち「大企業」,「中小企業・ベンチャー」,「ジェネリック企業」,および「製薬関連企業」は表2の定義とする。
事業主体分類 | 説明 |
---|---|
大企業 | 新薬を開発及び販売する大企業。なお,新薬開発に加えて,ジェネリック医薬品を製造および販売する大企業や有効成分以外の開発も行う大企業もこの分類に含まれる。 |
中小企業・ベンチャー | 新規医薬品を開発する企業であり,大企業に属さないもの。なお,新薬開発に加えて,ジェネリック医薬品を製造および販売する中小企業・ベンチャーや有効成分以外の開発も行う中小企業・ベンチャーもこの分類に含まれる。 |
ジェネリック企業 | 新薬開発のための研究を行っていない企業。これらの企業はジェネリック医薬品を製造および販売する。ジェネリック医薬品の製造および販売に加えて,有効成分以外の開発も行い,かつ,新薬開発を行わない企業もこの分類に含まれる。 |
製薬関連企業 | 投与経路の改良・剤形の変更など,医薬品の有効成分以外の開発を行う企業。 |
図1に,低分子医薬品について,パイプラインを有する事業主体を上記分類別に整理したものを国全体に対する比率で表示した。「日本版NIH創設に向けた新しい指標の開発(1)」5)および「日本版NIH創設に向けた新しい指標の開発(2)」1)では新薬創出数の多い先進国だけに焦点を当てていたが,本稿では,ジェネリック医薬品注1)開発の観点からBRIICS注2)も加えている。
低分子医薬品について,米国では,「非臨床試験」において中小企業・ベンチャーおよび大学が有するパイプラインが全体の80%近くを占めている。開発段階が進むにつれ割合は減少し,「市販」では約10%を占めるに過ぎない。また,他の先進国に比して,米国では大企業の割合が低いのに対し,中小企業・ベンチャーや製薬関連企業の割合が高く,これらの企業が低分子医薬品開発を担っているといえる。また,米国の大学が有するパイプラインは,「非臨床試験」の段階で全体の約20%であり,開発段階が進むにつれて割合が減少する。さらに,「市販」の約40%はジェネリック医薬品が占めており,米国ではジェネリック医薬品の普及が進んでいることがわかる。
一方,日本では,どの開発段階においても比較的大企業が高い割合を占めている。欧州諸国も大企業が占める割合が高いものの日本のそれが最も高い。その反面,日本では中小企業・ベンチャーの占める割合が低い。また,日本の大学が有するパイプラインは,非臨床試験では全体の約20%であるものの,フェーズ1の段階では割合が極端に低下している。米国とは異なり,日本の大学は治験段階までそのパイプラインを保持していない。
また,韓国はどの開発段階においてもジェネリック医薬品が占める割合が比較的高い。「日本版NIH創設に向けた新しい指標の開発(1)」では,韓国は低分子医薬品において,欧州諸国と同程度の「市販」数を有していたものの(第1回記事の図7参照)5),それらの約40%はジェネリック医薬品である。
さらに,BRIICSに目を向けてみると,南アフリカを除くいずれの国もジェネリック医薬品の割合が比較的高い。特に,低分子医薬品は,製造が比較的簡単であることから,途上国等の参入が容易であり,BRIICSや韓国が参入していることがわかる。
また,いずれの国も,後掲のバイオ医薬品に比べて,製薬関連企業の割合が高い。低分子医薬品においては,ドラッグデリバリーシステム注3)に代表される有効成分以外の研究開発が行われているものと考えられる。
次に,バイオ医薬品について,パイプラインを有する事業主体を分類別に整理したものを国全体に対する比率で表示した(図2)。
米国では,非臨床試験において中小企業・ベンチャーと大学が有するパイプラインが実に全体の90%近くを占めている。また,開発の後期でも中小企業・ベンチャーの占める割合が高く,米国では中小企業・ベンチャーがバイオ医薬品開発を担っているといえる。「市販」の段階となると大企業の占める割合が増え,ジェネリック企業の参入は少ない。米国の大学が有するパイプラインは,「非臨床試験」の段階で全体の約15%であり,開発段階が進むにつれてパイプラインの割合が緩やかに減少してゆく。
一方,日本,英国,スイスなどでは,大企業が高い割合を占めており,中小企業・ベンチャーの占める割合は比較的低い。また,日本の大学が有するパイプラインは,「非臨床試験」では全体の約20%であるものの,それ以降の段階では割合が極端に低下している。低分子医薬品の場合と同様に,日本の大学は治験段階までそのパイプラインを保持していない。
ドイツは,大企業の占める割合が低く,ジェネリック医薬品の占める割合が比較的高い。これは他の先進国にはみられない特徴である。
また,BRIICSにおいては,低分子医薬品ではジェネリック医薬品を開発していたインドと中国に目を向けてみると,インドでは引き続きジェネリック医薬品を開発しているのに対し,中国では政府機関による研究開発が行われている。バイオ医薬品に関しては,インドと中国の間で政策に違いがみてとれる。
次に,バイオ医薬品の各テクノロジーについて,パイプラインを有する事業主体を上記分類別に整理したものを国全体に対する比率で表示する。本稿では,第2回の記事で日本の研究開発にも期待がもてると述べた,モノクローナル抗体(図3),細胞治療(図4),および複合モノクローナル抗体(図5)について示す。
モノクローナル抗体について,先進国諸国では各国ともバイオ医薬品全体(図2)で示したものと同様の傾向を示している(図3)。中でも,モノクローナル抗体の開発は,各国とも比較的大企業に依存する傾向がみられる。また,モノクローナル抗体はバイオ医薬品の第2世代に当たる技術であるが注4),インド等は既にジェネリック医薬品開発を進めている。
次に,細胞治療について,先進諸国では各国とも中小企業・ベンチャーや大学が占める割合が高く,大企業はまだ参入を検討している段階にあるといえる。
また,細胞治療について,日本の非臨床試験では,大学の有するパイプラインが全体の実に約65%を占めている。「日本版NIH創設に向けた新しい指標の開発(2)」で,当分野の日本の優位性について記載したが注5),その優位性は大学によるところが大きいことがわかる。その一方で,「フェーズ1」以降は,大学はその姿を消しており,大学が有するパイプラインの所在が気がかりである(この点は次章「4. ライセンスの実績」で論ずる)。
最後に,複合モノクローナル抗体については,米国は中小企業・ベンチャーの占める割合が高いのに対し,他の先進国は大企業の占める割合が高いのは,先ほどのモノクローナル抗体と同様の結果である。
次に,各事業主体のライセンス実績を調べた。EvaluatePharmaにおける,2006年1月から2013年5月までのIn-licensed注6)データおよびOut-licensed注7)データを集計し国別・事業主体別に整理した。なお,データは現時点でアクティブのもの(研究開発を続けているパイプラインまたは市販に至った医薬品)であり,研究開発が中断したものは含まれていない。また,当項目のデータは,低分子医薬品とバイオ医薬品を合計したものである。
図6に,国別のライセンス実績を示した。横軸はライセンス取引にあたりパイプラインを自社に導入した企業(ライセンシー)の国籍を表し,縦軸は自社のパイプラインを他社に提供した企業(ライセンサー)の国籍を表している。
まず,米国同士の取引が最も多いことがわかる。また,米国と各国との取引も多い。これは,米国が有するパイプラインが最も多く注8),また米国市場も大きいためといえる。その中であっても,ライセンシーとしての日本(横軸の日本)は米国との取引以上に日本同士の取引が多い。日本は,他国に比して日本企業同士でライセンス取引が行われるという比較的閉じた市場であることがわかる。
次に,米国のライセンス実績をみてみる。図7は,前述の図6のうち横軸を米国に限定したデータを,事業主体別に整理したものである。すなわち,ライセンシーとしての米国が,どの事業主体からパイプラインを導入しているかを示したものである。なお,パイプライン導入元の国籍は米国に限定していないものの,図6から取引相手は米国の企業が大半を占めるといえる。
図7をみると,大学の有するパイプラインは,中小企業・ベンチャーに最も多く導入されている。また,ライセンシーとしての中小企業・ベンチャー(横軸の中小企業・ベンチャー)は,ライセンサーとしての中小企業・ベンチャーとの取引が活発である。一方,ライセンシーとしての大企業(横軸の大企業)も,ライセンサーとしての中小企業・ベンチャーとの取引が活発である。
このことから米国での取引においては,次のことが推定される。
1. 大学の有するパイプラインは,中小企業・ベンチャーに導入される。
2. 中小企業・ベンチャーのパイプラインは,他の中小企業・ベンチャーに導入される。
3. 中小企業・ベンチャーのパイプラインの一部は,大企業に導入される。
すなわち,大学の有するパイプラインは,まずは中小企業・ベンチャーに導入され,その後大企業へと導出される傾向にあり,大学の研究成果を実用化するには,中小企業・ベンチャーの役割が大きいことがわかる。
次に,大学のライセンス実績をみてみる。図8は,前述の図6のうちライセンサー(縦軸)の事業主体を大学に限定したものである。すなわち,各国の大学の有するパイプラインは,どの国の事業主体にライセンスされているかを示したものである。
図8をみると,米国の大学(縦軸の米国)は,主に米国籍の事業主体と取引をしており,一部は他国籍の事業主体とも取引をしている。一方,米国以外の大学(縦軸の米国以外)は,基本的に自国籍の事業主体と取引をするか,または一部米国籍などの事業主体と取引をしている。このことから,大学のパイプラインは,その大学が所属する国の事業主体に導入される可能性が高いといえる。
図7および図8から,大学の研究成果を実用化へと向かわせるには,その大学が属する国の中小企業・ベンチャーの存在が重要といえる。
次に,日本のライセンス状況を見てみる。図9は,前述の図6のうち横軸を日本に限定したデータを,事業主体別に整理したものである。すなわち,ライセンシーとしての日本が,どの事業主体からパイプラインを導入しているかを示したものである。なお,パイプライン導入元の国籍は日本に限定していない。
図9をみると,日本では大企業は積極的にライセンス取引を行っているのに対し,中小企業・ベンチャーの取引実績は少ない(横軸の大企業,中小企業・ベンチャーを参照)。
米国のライセンス実績(図7)と比較すると,日本では中小企業・ベンチャーの活動が極端に少ないことがわかる。大学の有するパイプラインについて,米国では中小企業・ベンチャーが活発に導入しているのに対し,日本では導入が行われていない。大学の研究成果を導入するのは自国の中小企業・ベンチャーである傾向があることから(図8),データを見る限り,日本の大学のパイプラインは中小企業・ベンチャーや大企業には導入されていないものと考えられる。
「日本版NIH創設に向けた新しい指標の開発(2)」で,日本は細胞治療において,「非臨床試験」数が群を抜いており,特許出願数や論文数でもトップクラスにある旨注9)を述べたが,中小企業・ベンチャーが活発でない日本においては,このままでは大学の有するパイプラインが死蔵される可能性がある。日本版NIHの創設にあたっては,大学の有するパイプラインを,中小企業・ベンチャーおよび大企業へ円滑に橋渡しをすることが課題の1つではないだろうか。
最後に,日米のライセンス実績を開発段階別に整理することで,各事業主体がパイプラインをライセンスする開発段階を明らかにした。
図10は,米国籍の事業主体に対して,どの開発段階にあるパイプラインがどの事業主体からライセンスされたのかを整理したものである。なお,視覚的に分かりやすくするため,ライセンサーとして大学,中小企業・ベンチャー,および大企業の3種類に,ライセンシーとして大企業および中小企業・ベンチャーの2種類に限定した。
図10から,米国の大企業に対しては,中小企業・ベンチャーが有するパイプラインが「非臨床試験」,「フェーズ1」,および「フェーズ2」の段階でライセンスされていることがわかる。また,大企業同士のライセンスは「市販」の段階でのライセンスが多い。
一方,中小企業・ベンチャーに対しては,大学が有するパイプラインが「非臨床試験」の段階でライセンスされ,また中小企業・ベンチャーが有するパイプラインが「非臨床試験」,「フェーズ1」,および「フェーズ2」の段階でライセンスされている。さらに特徴的なのは,中小企業・ベンチャーに対しては,大企業が有するパイプラインが「フェーズ2」の段階でライセンスされていることである。米国では,パイプラインの大学 → 中小企業・ベンチャー → 大企業といった一方的な流れだけでなく,大企業から中小企業・ベンチャー,または,中小企業・ベンチャーから他の中小企業・ベンチャーへという多方向への流れがある。このように多方向の流れを成立させる,中小企業・ベンチャーを中心とした「創薬のラウンドアバウト(円形交差点)」注10)が開発の初期および中期段階に存在することが,米国の強みといえる。
図11は,日本国籍の事業主体に対してどの開発段階にあるパイプラインがどの事業主体からライセンスされたのかを整理したものである。図10と同様に事業主体を限定している。
日本の大企業に対しては,中小企業・ベンチャーが有するパイプラインが「非臨床試験」および「フェーズ2」の段階でライセンスされている。また,大企業同士では「市販」の段階でのライセンスが多い。
一方,中小企業・ベンチャーは全体的に取引数が少なく,大学が有するパイプラインが「非臨床試験」の段階でライセンスされた実績,および中小企業・ベンチャー同士間のライセンスなど,米国でのそれの役割を日本では担っていない。前述の「2. 医薬品開発におけるオープンイノベーション」で,大企業と他の事業主体とのオープンイノベーションについて述べたが(表1),大学 → 中小企業・ベンチャー → 大企業といったパイプラインの流れにとらわれない実施形態も考慮に入れるべきではないだろうか注11)。
われわれは,パイプラインを有する事業主体の規模や種類に着目した分析を行うことで,複数段階にわたる医薬品開発のプロセスにおいて,開発段階におけるカギとなり得る事業主体の把握を試みた。その結果,以下の事項を示した。
なお,本研究の一部は独立行政法人科学技術振興機構(JST)戦略的創造研究推進事業(社会技術研究開発)「科学技術イノベーション政策のための科学」(プログラム総括:森田 朗・学習院大学法学部教授)における研究課題「未来産業創造にむかうイノベーション戦略の研究」(山口栄一・同志社大学大学院総合政策科学研究科教授 研究期間:平成23~平成26年度)の支援を受けて行われたものである。