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リレーエッセー
つながれインフォプロ 第5回
加藤 文彦
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2014 年 56 巻 11 号 p. 794-796

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今回紹介するLinkedData.jp(http://linkeddata.jp)は,Web上でデータを公開・共有するための手法であるLinked Data(およびLinked Open Data:LOD)について興味がある研究者や開発者を中心としたコミュニティである。Linked DataはSemantic Webで培われた技術を応用しており,データをWeb上でどのように流通させると再利用しやすくなるかがよく考えられたうえで作られている。最近はオープンデータの動きもあり,改めてデータの流通や再利用性に注目が集まっているが,Linked Dataはその中でも有望な手段の1つであり,イギリス政府などさまざまなところに採用されるようになってきている。Linked Dataについてはトム・ヒースらの「Linked Data: Webをグローバルなデータ空間にする仕組み」1)を参照されたい。

LinkedData.jpの発端は,2010年4月に有志で行ったSemWeb & LOD勉強会である。今でこそLinked Dataは名前を知られるようになってきたが,当時は日本語主体のデータセットがLOD cloud diagram2)には載っておらず,日本ではほとんど認知されていなかった。そこで,日本でもLinked Dataを中心とした話題を共有したり議論したりする場を設けることで,まずはLinked Dataに関する日本語の資料を増やし,ひいては日本語のLinked Dataを増やしていきたいという思いから,LinkedData.jpを立ち上げることとなった。

現在のLinkedData.jpの活動は,主に不定期開催のLinkedData勉強会からなる。2011年1月に行った第1回をはじめとして,これまでに計7回のLinkedData勉強会を開催した。開催場所は東京都内で,毎回40名ほどの参加者がいる。勉強会は,毎回大体のトピックを決めて,それについて話す人を自薦・他薦を問わず募るという形式で行う。他薦でコミュニティ外の人にお願いするときもある。これまでのトピックは,RDF変換ツール,SPARQL,データ設計・運用,データプラットフォーム,オープンライセンスなど,Linked Dataに関わるものから手広く選んでいる。それぞれの資料はLinkedData.jpのサイトで閲覧可能である。

Linked Dataに関心のある実務者が調べたいことや話したいと思っていることを中心にトピックを取り上げているため,Linked Data自体をあまり知らない人にとっては多少とっつきにくい会になっているかもしれない。この点は,2011年度から行われているLinked Open DataチャレンジJapan(http://lod.sfc.keio.ac.jp)などとうまくすみ分けをするようにしている。

LODチャレンジは今年で3回目を迎えるLODを題材としたコンテストであり,LinkedData勉強会も後援している。LODチャレンジの会期中には,LODチャレンジデーというイベントが週末に開催されており,その中で初学者向けのセミナーやハンズオン(体験学習)も行われている。また最近は,人工知能学会主催のAIツール入門講座においても,入門向けセミナーが開催されている3)。このようにLinked Dataについて学ぶ機会は他にあるためお任せすることにして,LinkedData勉強会はより実践的な内容を話してもらったり,各自で使えそうなツールを調査したり,実務者の普段の悩みなどを共有したりする会という位置付けにしている。初学者を排除しているわけではなく,Linked Dataについて所属組織の枠を超えてこんなに議論している人たちがいるのだということを肌で知ってもらうことが重要だと考えている。とはいえ,LinkedData勉強会としても入門資料は作っておくべきではないかという話になり,第7回の勉強会は入門的な内容を扱う回として行った。

勉強会を開くうえで工夫している点としては,(1)発表者を固定化しないようにする,(2)発表資料をWeb上に公開してもらう,(3)参加者にはTwitterで発言してもらう,(4)会の後に必ず懇親会を開く,といったことがあげられる。

(1)については厳密に行っているわけではないが,なるべく今まで話していない人にも話してもらうようにしている。そのために,Linked Dataに関係するトピックを幅広く取り上げようとしている。また,同じ場所で何度も開催すると発表者も参加者も固定化してしまうところがあるので,たまに会場を変えて開催するようにもしている。そうすることで,さまざまな人たちの立場や興味対象がわかるようになるし,常に新しい話題が入るようにもなる。

(2)の発表資料については,発表者が各自でWeb上にあげてもらうようにお願いしている。それを運営側で集めて,開催後にまとめとしてLinkedData.jpのブログに載せている。発表資料はWeb上に載せてもらえればどこでもよいが,運営側としてはSlideShareのようなプレゼンテーション共有サイトを使用することを推奨している。これらのサイトはHTMLへの埋め込みをサポートしているので,LinkedData.jpに勉強会のまとめを作成する際に,それを埋め込むだけで済むからである。もちろん個人のWebサイトなどにあげてもらっても構わない。勉強会の目的の1つはLinked Dataに関する資料を増やして広く共有することなので,Web上に置いてもらうことが第一である。

(3)のTwitterについては,会場にWi-Fiを用意して,#lodjpというハッシュタグで参加者につぶやいてもらうようにしている。今となっては会議開催において珍しくない形式であるが,「Togetter」でまとめるだけで開催時の雰囲気や内容を共有できるので,とてもよい方法である。TwitterはUstreamとも相性がよい。

(4)については,コミュニティ作りや情報共有の一環として,懇親会は重要だと考えているので,勉強会の後にはできる限り懇親会を開くようにしている(1)。Ustreamや資料公開をするとその場に行く必要がないのではないかと問われることもあるが,やはりface to faceのコミュニケーションは重要であり,その一番の場が懇親会であると今でも考えている。

図1 懇親会の様子

また,今後のLinkedData.jpの方向性として,勉強会を続けていく一方で,コミュニティ作りの新しい試みも必要であると考えている。最近の試みとしては,日時と場所だけを決めて集まり,各自の作業をする作業会というのを始めている4)。これは他のコミュニティでは「もくもく会」とも呼ばれたりしているが,基本的には集まった後に自分のしたいことを実行し,他の人との相談や議論,共同作業をしたいときには適宜できる場所を作るということである。理想は,とりあえずそこに来ればコミュニティの誰かがいて,ゆるくつながることができる場を設けられるとよい。

そのほかには,開発合宿を行えないかと考えている。勉強会や作業会で少しずつ進める一方で,まとまった時間をとって作業するのもLinked Dataを推進するうえでは重要である。生命科学分野のLinked Dataを推進している人たちは,毎年BioHackathon5)6)というイベントを行っている。これは1週間合宿して,グループを組んで議論や開発をするというもので,それぐらい時間をとって作業をすると,よいアウトプットを出すことができる。1週間はなかなか難しいとしても,週末に1泊か2泊程度で集中して作業することができると,成果が出せるのではないだろうか。

Linked Dataは日本において,ようやく認知されて使われはじめた段階である。これから本格的に普及していくためには,さらに多くの人たちが実際にデータを出したり,利活用したりする事例を増やしていく必要がある。LinkedData.jpがその一助となればうれしい。LinkedData.jpの活動に興味がある方は,まずGoogle Groups7)に参加していただければ幸いである。

執筆者略歴

加藤 文彦(かとう ふみひろ)

大学共同利用機関法人 情報・システム研究機構 特任研究員。NPO法人リンクト・オープン・データ・イニシアティブ理事。LODACプロジェクトやDBpedia Japanese,CKAN等,Linked DataやOpen Dataに関する研究開発に従事。

参考文献
 
© 2014 Japan Science and Technology Agency
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