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リレーエッセー
つながれインフォプロ 第6回
堀越 節子
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2014 年 56 巻 12 号 p. 875-877

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日本では,1990年から特許の電子出願が開始された。これに付随して,1993年から電子公報が発行されマージナルコストでデータが提供されるようになったことで,特許情報分野に大きな変化がもたらされた。つまり,1992年までは抄録ベースでの検索であったが,1993年以降は公報テキストが全文検索できるようになった。また,2000年には初めて概念検索を提供するシステムが登場した。それ以後,テキストマイニングによるクラスタリングや可視化,経過情報の投入による特許価値評価と,データ・システムともに充実していった。

ちなみに,Webサービスではなかったが,米国特許では1980年代にすでに全文検索,概念検索,ともに提供されている。

筆者は,入社後,知財関連の調査に携わってから,社外のユーザー会や勉強会などにいろいろな形で参加してきた。なぜなら,3年目までに先輩方がすべて退職され,社内でOJDを通した実務ノウハウ継承が途切れたからだ。経験が浅かったこともあり,諸先輩のノウハウを一部しか吸収できなかった。

そのため,知財関係の業務に携わる皆さんも同様と推測するが,日本知的財産協会(JIPA)の各種研修に参加しつつ,サーチャーとしてのノウハウや情報収集のために,最初は情報科学技術協会(INFOSTA)主催の合宿やOUG特許分科会に参加した。データベース検索技術者認定(現情報検索応用能力)試験2級合格後はサーチャーの会にも参加した。その後,1級も取得した。分野に関係なく,さまざまな業種の方々と交流することが多い時期であった。その後,もう少し,電気分野に纏(まつ)わる事項に特化した情報収集や勉強をしたいと思い,日本EPI(Engineering Patents Information)協議会(JEA)に参加することになった。すでに弊社からは1名参加していたので,補助的な立場であったが,その後専任者となり,現在に至っている。

その間,日本知的財産協会(JIPA)の特許情報検索委員会に5年間参加し,国立情報学研究所が主催しているNTCIRプロジェクト1)で特許テストコレクションの作成に携わるという貴重な経験をした。ここでの経験は,のちに社内でASPサービスの導入にあたって,概念検索機能のベンチマークを行う際にとても役に立った。

ここからは,現在も継続して参加しているJEAについて,もう少し詳しくご紹介する。

JEAは,1981年に,英国Derwent社が発行するElectrical Patent Index(EPI)の資料購読者のユーザー協議会として設立された。また,データベースDerwent World Patents Index(DWPI)では,電気分野の会員専用分類(EPIマニュアルコード)が有料で提供されており,分類表の日本語化,抄録の評価・提案等を行ってきた。

2000年代初めにEPIマニュアルコードが一般に開放されたことで,JEAの位置付けが変わり,DWPIを中心とした活動から,その他のデータベースや分析ツール,各国特許庁の無料DBなど,その対象テーマは広がった。

現在は,会員数約20社で,隔月(奇数月)にWGや定例会を開催している。昨年度からは,会員企業での導入サービスや知財・調査教育等について,意見交換を行っている。

国内・海外を含め,また,有料・無料を問わず,提供サービスが多く,機能アップなどが盛んに行われていることから,定期的な情報交換は有効である。利用ユーザーの生の声を聞くことができるのは,ベンダー主催のユーザー会では希少である。

活動テーマは1年単位で切り替わるが,深く掘り下げたいテーマについては,数年間にわたり継続して取り上げている。

また,1人では太刀打ちできないような内容でも,提案し活動テーマとして取り上げられれば,メンバーの協力を得て情報収集や検討できる点がよい。

JEAの最近の活動テーマについては,Webサイト2)に掲載している(1)。

入れ替わりはあるが参加メンバーはエネルギッシュな会員が多く,創立の区切りとなる10周年,20周年,30周年には,それぞれ外部に向けたシンポジウムを企画・開催している。実は筆者は,10周年記念シンポジウムを聴講したのがきっかけで,JEAに参加することになったのである。

図1 日本EPI協議会Webサイト

シンポジウムでは,「概念検索の可能性」(10周年)や「特許情報検索システムの将来像」(20周年)についてパネルディスカッションを行った。その後の「引用特許分析」(2004年),「特許情報解析」(2009年),「特許価値評価」(30周年)では,企業としてそれぞれのツールを活用して,どのように事業や経営に生かすかの検討が求められており,その事例として,ツールの提供ベンダーを一同に介して,紹介していただく機会を提供した。

また,20周年記念の一環として,有志ではあるが,韓国特許情報事情視察を実施した(2)。

図2 韓国特許庁訪問(2002年5月)

当時は,特許庁から無料の検索サイトが公開されたものの,関連情報が少なかったため,百聞は一見にしかずの諺(ことわざ)どおり,韓国特許庁(KIPO),韓国特許情報院(KIPI)などを訪問し,韓国特許庁が提供する韓国特許データベース(KPA)についてデータの作成等についてヒアリングし,意見交換を行った。この時に収集した情報は,参加メンバーを通じて,INFOSTAのOUG特許分科会等の他のユーザー会にも展開された。

最近の話題としては,PCTのPatentSCOPEなどで一部実現されているが,多言語による検索ができるようになり,特許の世界でも,翻訳の機能向上にともなって,DBにおいても言語の境界がなくなってきていると感じる。

今後は,ファミリー単位の特許情報を対象に,検索言語を気にせずに調査できるデータベースが普通になっていくだろう。しかし,まだ道半ばであるので,しばらくの間はいろいろな工夫をしながら現在のデータベースを使いこなしていくことになる。そのためには,同業メンバーと知恵を出し合いながら進めていくこととなろう。

社外活動を通して,何をしなければいけないかを多く学ばせていただいたと感謝している。このような社外活動は,積極的に参加することで,参加している会の活動も活発になり,得るものが多くなる。また,師匠や仲間ができ,各種ツールやサービスの情報交換や使い勝手などの評価を伺う機会をもつことができるので,有益である。いずれにしても,give & takeの精神で,情報を持ち帰るだけでなく,提供することを心掛けたい。

えてして,日常業務の忙しさに紛れて,自己研鑽(けんさん)の機会を逸してしまいがちだが,時には,社外に出て,刺激を受けることも必要である。

30代の頃に,上司に言われたことであるが,「世の中はどんどん進歩しているので,ついていく努力をしないと,あっという間においていかれる」と。まさにそのとおりである。技術・情報の進展は早い。現状維持は,何もしないことではない。新しいことにチャレンジする精神と興味をもって接する心意気はいつまでも継続したいものである。

以前,会社のトップから「他流試合(研究者は学会発表など)を通して個の価値を高める努力をしなさい」とのメッセージがあった。私たちにとっては,INFOPROなどでの発表や講師・執筆などがそれに相当するだろう。いろいろな機会に1歩踏み出し,どんどんチャレンジし,1つひとつこなすことで,自分の勉強にもなり,個を高めることに繋(つな)がる。

最後に,人脈が広がることで,社内の業務ではできない貴重な経験を得られることもある。皆さんも興味ある活動をしている会を探して参加してみませんか?

執筆者略歴

堀越 節子(ほりこし せつこ)

現在,研究所の知財戦略策定に向けた環境整備,調査・分析等の支援を行っている。また,日本知的財産協会,鹿児島大学大学院,WIPO expert missionでタイに派遣されるなど,先行技術調査や特許情報の活用などについての講義を行っている。好奇心旺盛で機会があれば比較的なんでもトライ。社会人になってからチャレンジした珍しい趣味は,フェンシング,染色(藍染め,紅型染め,草木染め),そして着物コンサルタントなど。

参考文献
 
© 2014 Japan Science and Technology Agency
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