2014 年 57 巻 2 号 p. 109-119
情報ネットワークとWeb環境において,著作物またはコンテンツが活用されている。それは,著作物(著作物を伝達する行為を含む)とメディアのかかわりから,アナログ環境とデジタル環境の諸相と対比される。わが国では,その権利の関係には,「コンテンツの創造、保護及び活用の促進に関する法律」と「著作権法」および「著作権等管理事業法」が関与する。それら3つの法律が対象とする権利は,「著作権」,「著作権と関連権」,「著作権等」と表記が異なっている。本稿は,著作権,著作権と関連権,著作権等の権利管理の対象の違いについて解説する。それら3つの権利と権利管理との関係は,わが国の著作権法における映画製作者の3つの権利の帰属に見いだすことができる。
情報ネットワークとWeb環境において,デジタルコンテンツが活用されている。著作物のデジタル化・ネットワーク化とマルチメディア,そしてユビキタスとクラウド,さらに全Web化へというデジタル環境の諸相における活用は,著作物のアナログ環境の活用との対比による。しかし,それらの対比は,原則,不要である1)。
創作的に表現された著作物は,無方式主義をとる著作権法において,創作時,著作者に原始的に権利が発生する。無方式主義とは,著作権法における原則であり,権利の享有には登録,作品の納入,権利の表示などのどのような方式も必要としないとするものである。著作者は,自然人だけでなく,職務著作であれば法人等でも可能である。著作者に発生する権利は人格的権利と経済的権利からなり,経済的権利は人から人へと何回でも自由に転々流通する。著作物を伝達する行為についても,無方式主義をとる著作権法において,著作物に対する著作者の権利とは別の著作隣接権が実演,音の固定,放送と有線放送によって発生し関与する。さらに,著作権者である複製権者は,著作物を出版するために,出版者または発行者に出版権を設定することができ,著作権者は著作物の利用の許諾ができる。なお,著作物または著作権および著作物を伝達する行為である著作隣接権は,信託譲渡により,著作権等管理事業者へ委託できる。
上記の権利の管理は,製作に多数の人間や組織がかかわるコンテンツでは権利者が多数になり,権利処理が複雑になって二次利用が阻害されるという問題が生じることになろう。わが国では,2000年11月に,著作権の仲介業務を行う団体についての法律「著作権等管理事業法」2)が公布され,続いて2004年5月に,「コンテンツの創造、保護及び活用の促進に関する法律」3)(以下,コンテンツ促進法という)が成立した。コンテンツ促進法と著作権法および著作権等管理事業法の権利管理の対象は,それぞれ「著作権」と「著作権と関連権」および「著作権等」となる。情報ネットワークとWeb環境の著作物と著作物を伝達する行為は,コンテンツ促進法,著作権法,著作権等管理事業法において,権利管理の対象には違いがある。本稿は,コンテンツ促進法,著作権法,著作権等管理事業法における権利管理の対象の違いについて述べる。
コンテンツ促進法は,知的財産基本法の基本理念により,「国、地方公共団体及びコンテンツ制作等を行う者の責務等を明らかにするとともに、コンテンツの創造、保護及び活用の促進に関する施策の基本となる事項並びにコンテンツ事業の振興に必要な事項を定めること等により、コンテンツの創造、保護及び活用の促進に関する施策を総合的かつ効果的に推進し、もって国民生活の向上及び国民経済の健全な発展に寄与すること」を目的とする(コンテンツ促進法1条)。
2.1 コンテンツコンテンツ促進法の定義によるコンテンツとは,おおむね著作権法で保護する著作物である。コンテンツ促進法は,いわゆるデジタルコンテンツ注1)を規定する(コンテンツ促進法2条1項)。それは,2類型に分けられる。第1は,「映画、音楽、演劇、文芸、写真、漫画、アニメーション、コンピュータゲームその他の文字、図形、色彩、音声、動作若しくは映像若しくはこれらを組み合わせたもの」をいう。第2は,「電子計算機を介して提供するためのプログラム」である。上記の例示によるコンテンツは,人間の創造的活動により生み出されるもののうち,教養または娯楽の範囲に属する。
コンテンツの創造形態は,印刷本を電子化したものから,音楽や映像が一緒にマルチメディア化されたものまでみられる。マルチメディア化されたものは,人工的な表現として,音楽や映像は,電子音楽,コンピューターグラフィックス(CG)や3Dなどにより表現が可能である。それらは,プログラムの著作物になり,また視聴覚著作物として音楽の著作物や映画の著作物になりうる。
コンテンツは,(1)アナログコンテンツをもとにデジタル化により制作・著作するもの,(2)最初からデジタル形式で制作・著作するもの,という2つの態様からなる。具体的に例示すれば,(1)のケースがたとえば中国の精品課程(図1)4)であり,(2)のケースがたとえば初音ミク(図2)注2),5)である。
精品課程は,1つの器の中に,テキスト,映像,関連リンクの情報を収める。図1は国家級精品課程であり,中国の山東大学副校長(副学長)が編著者の『中国審美文化史』である。山東画報出版社が『中国審美文化史』という印刷本を出版し,そのビデオの製造を監督するのが山東大学教務処であり,そのビデオを制作したのが山東艾迪数碼有限公司(山東艾迪デジタル有限会社)という関係を有する。
初音ミクは,クリプトン・フューチャー・メディアから発売されている音声合成・デスクトップミュージック(DTM)ソフトウェアの製品名であり,キャラクターとしての名称でもある。初音ミクは,ヤマハの開発した音声合成システム「VOCALOID2」を採用したボーカル音源の1つであって,メロディと歌詞を入力することで歌声合成によるボーカルパートやバックコーラスの作成が可能である。声に身体を与えることで,より声のリアリティーが増すという観点から,女性のバーチャルアイドルのキャラクターが設定できる。
2.2 著作権コンテンツ制作等とは,コンテンツの制作,コンテンツの複製,上映,公演,公衆送信その他の利用注3),そしてコンテンツにかかわる知的財産権の管理である(コンテンツ促進法2条2項)。知的財産権の管理とは,知的財産が著作物であり,その知的財産権が著作権の管理になる(知的財産基本法2条1項,2項)。
2.3 コンテンツ制作等を行う者による権利管理 2.3.1 コンテンツ事業者による権利管理「コンテンツ事業」はコンテンツ制作等をなりわいとして行うことをいい,「コンテンツ事業者」とはコンテンツ事業を主たる事業として行う者をいう(同法2条3項)。
コンテンツ事業者は,国内外におけるコンテンツに係る知的財産権の侵害に関する情報の収集その他のその有するコンテンツの適切な管理のために必要な措置を講ずるよう努めるものとする(コンテンツ促進法22条1項)。コンテンツの適切な管理の対象の知的財産権はおおむね著作権であり,著作者の権利の経済的権利の著作権というよりも米国のcopyrightに対応する著作権がコンテンツ事業者による権利管理の対象といえよう。
2.3.2 国が委託して制作されたコンテンツの権利管理国と独立行政法人等は「コンテンツの制作を他の者に委託し又は請け負わせるに際して当該委託又は請負に係るコンテンツが有効に活用されることを促進するため、当該コンテンツに係る知的財産権について、その知的財産権を受託者又は請負者」から知的財産権を譲り受けないことができるとする(コンテンツ促進法25条1項,2項)。それは,国と独立行政法人等が知的財産権の権利者とはならずに,コンテンツの活用の促進の観点から,コンテンツ事業者が権利管理するという関係になろう。
コンテンツ制作等を行う者による権利管理は,たとえば“Copyright (c) 2014 Japan Science and Technology Agency. All Rights Reserved.”の意味と類似する。ただし,わが国の著作権法の著作権と著作者人格権との関連から言えば,“All Rights Reserved.”の表記は,明らかに不適切である。たとえば,『情報管理』誌に掲載された記事の著作権がたとえ科学技術振興機構に帰属したとしても,著作者人格権は掲載された論文等の著作者に留め置かれている。科学技術振興機構は,コンテンツ事業者または独立行政法人として,Webページのコンテンツに関しては“except where noted, all rights reserved.”または“Some Rights Reserved.”の権利管理に関与することになろう。
わが国の著作権法では,著作者の権利とこれに隣接する権利を保護の対象としている(著作権法1条)。著作者の権利とそれに隣接する権利は,著作権と関連権と呼ばれる。
3.1 著作物と著作物を伝達する行為わが国の著作権法は,著作物と著作物を伝達する行為が権利管理の対象となる。著作物は,思想又は感情を創作的に表現したものであり,文芸,学術,美術又は音楽の範囲に属するもの(著作権法2条1項)である。具体的には,言語の著作物・音楽の著作物・舞踊又は無言劇の著作物・美術の著作物・建築の著作物・図形の著作物・映画の著作物・写真の著作物・プログラムの著作物(同法10条1項),二次的著作物(同法11条),編集著作物(同法12条1項),データベースの著作物(同法12条の2)がある。ただし,編集著作物とデータベースの著作物は,それぞれアナログとデジタルを示している。編集著作物とデータベースの著作物はデータの編集物(compilation)で表される対象である(WIPO著作権条約5条)。したがって,編集著作物とデータベースの著作物との区分けは不要のはずである。
著作物を伝達する行為は給付になり,それは,実演,すなわち著作物を,演劇的に演じ,舞い,演奏し,歌い,口演し,朗詠し,又はその他の方法により演ずること等(著作権法2条1項3号),レコード,すなわち蓄音機用音盤,録音テープその他の物に音を固定したもの(同法2条1項5号),公衆送信,すなわち公衆によって直接受信されることを目的として無線通信又は有線電気通信の送信を行うこと(同法2条1項7の2号)になる。公衆送信の中で,放送,すなわち公衆送信のうち,公衆によって同一の内容の送信が同時に受信されることを目的として行う無線通信の送信(同法2条1項8号),有線放送,すなわち公衆送信のうち,公衆によって同一の内容の送信が同時に受信されることを目的として行う有線電気通信の送信(同法2条1項9の2号)が著作物を伝達する行為である。
なお,公衆送信のうち,自動公衆送信,すなわち公衆送信のうち,公衆からの求めに応じ自動的に行うもの(同法2条1項9の4号)と出版または発行は,著作物を伝達する行為とはなっていない。前者は,検討段階といえる。後者は,文化庁の答申7)で出版者の権利を著作隣接権として結論付けられていたが,規定されるに至っていない注4)。
3.2 著作権と関連権8)権利管理の対象の著作物と著作物を伝達する行為は,わが国の著作権法では著作権と関連権である。その著作権と関連権は,人格的権利と経済的権利との関係でとらえておく必要がある。
3.2.1 著作権と関連権における人格的権利の構造とその相互の関係著作者人格権は,公表権,氏名表示権,同一性保持権からなる。これらの権利のうち,氏名表示権と同一性保持権は実演家人格権の規定に含まれる。著作隣接権者の権利の中で実演家の権利には,限定された実演家人格権が認められる(WIPO実演・レコード条約5条,著作権法90条の2)。著作者人格権は,実演家人格権を内包する権利の構造を有する。
なお,ベルヌ条約は,公表権の規定をもたない。それは,著作権法の保護の対象は,本来,公開を前提とすることによる。また,氏名表示権は,最初に発明または発見した者に与えられるエポニミー注5)とみなせる名誉の証しといえる。公表権と氏名表示権は,他法を含めて制約されうるが,同一性保持権の制約はみられない。ここに,同一性保持権は,人格的権利の特性といえよう。
3.2.2 著作権と関連権における経済的権利の構造とその相互の関係著作権は,権利の束(bundle of rights)といわれ,支分権からなる。支分権は多様性があり,支分権の多様性は以下の関連をもっている。
(1) 複製権と公衆送信権インターネットによる著作物の流通と利用において,複製権(著作権法21条)と公衆送信権(同法23条)が一緒にとりあげられる。その中で,公衆送信権が単独でとりあげられることがある(京都地判平16.11.30)。公衆送信権は,放送権,有線放送権,自動公衆送信権を含む。また,自動公衆送信権は,送信可能化権を含む。公衆送信という要素は,放送,有線放送,自動公衆送信という要素を包含し,さらに自動公衆送信という要素は送信可能化という要素を含む(図3)。
公衆送信権の公衆送信の対象物に焦点を合わせれば,著作物を公衆送信する要素にはその対象物を複製する要素を含むことが前提になろう。
通信カラオケによる歌唱とカラオケ装置における歌詞と楽曲の上映または再生は,演奏権(著作権法22条)と上映権(同法23条)が対象になる(最二判平13.3.2)。この演奏と上映は,歌詞と楽曲の複製の要素を含む。
(3) 譲渡権と頒布権および貸与権中古ソフト事件では,消尽が適用されないとされていた頒布権に対し,いったん適法に譲渡された場合,頒布権のうち譲渡に関する権利は,その目的を達成したものとし,消尽すると結論付けられている(最一判平14.4.25)。この検討は,頒布が複製物を公衆に譲渡または貸与すること(著作権法2条1項19号)から,頒布という要素の中に譲渡と貸与という要素が内包されていることを意味する。
著作権の支分権の中の譲渡権(同法26条の2第1項)は,書籍などの物の流通には譲渡権の適用が除外される。譲渡権の対象には映画の著作物が除かれている。なぜならば,映画の著作物には,譲渡権とは別に,頒布権(同法26条)が規定されているからである。それら譲渡,頒布は,著作権(copyright)と著作物(copyrighted works)との関係に適合し,いわゆるアナログ形式の著作物の伝達に伴う要素の性質が集約されている。
頒布権(ベルヌ条約14条1項),譲渡権(WIPO著作権条約6条,WIPO実演・レコード条約8条),貸与権(WIPO著作権条約7条,WIPO実演・レコード条約9条)は,わが国の頒布権(right of distribution),譲渡権(right of transfer of ownership),貸与権(right of lending)とは1対1に対応するものではない。国際条約における譲渡権(right of distribution)は一般的頒布権の意味をもち,これはわが国では譲渡権である9)。また,わが国の貸与権が映画の著作物を除いてすべての著作物を対象としているのに対し,国際条約における貸与権(right of rental)は,映画の著作物を含むコンピュータープログラムとレコードに収録された著作物に限られる。国際的には,譲渡と頒布および貸与は,重複の関係にある。
頒布と譲渡の対象物の伝達(送信)においても,対象物の複製の要素が含まれる。譲渡,頒布という要素は,複製と表裏一体の関係にある。
(4) 貸与権と公共貸与権著作権の制限の中において,公共貸与権の議論がある10)。貸与権が著作権の保護に関連することから,公共貸与権は著作権の制限で想定される著作権の支分権といえる。貸与と公共貸与とは,著作権の保護と著作権の制限とで重ね合わされた関係にある。
(5) 編曲権管理曲が他人の著作権を侵害する場合の日本音楽著作権協会(JASRAC)の責任に関して,編曲権が中心に検討されている(東京地判平15.12.26)。ここで,編曲という要素には,編曲の対象物である曲の複製という要素が前提にあろう。
二次的著作物の作成に関する権利と二次的著作物の利用に関する権利は,著作物の複製の及ぶ範囲となる。
(6) 輸入権著作権の支分権の例示規定とは別に,輸入権(著作権法113条5項)がある。この輸入とは,商業用レコードの頒布の要素であり,商業用レコードという複製物のグローバルな伝達の経路に対応する。この輸入権の性質は,頒布権,譲渡権,貸与権と同様である。輸入という要素は,複製と表裏一体の関係にある。
3.2.3 著作権の支分権の相互の関係:複製,伝達,派生著作権の支分権は,著作権の単純化の観点から著作物の複製(reproduction),著作物の伝達(transmission),著作物の派生(derivative)に関する権利に構造化される(図4)11)。その著作権の支分権を整理すると,複製に係る権利―複製権(著作権法21条),伝達に係る権利―上演権及び演奏権(同法22条),上映権(同法22条の2),公衆送信権等(同法23条),口述権(同法24条),展示権(同法25条),頒布権(同法26条),譲渡権(同法26条の2),貸与権(同法26条の3),派生に係る権利―二次的著作物の作成に関する権利(翻訳権,翻案権等(同法27条)),二次的著作物の利用に関する原著作者の権利(同法28条)の3カテゴリーになろう。それら3カテゴリーは,著作権の支分権の例示規定が著作物の複製を起点に,著作物の伝達と派生に伴う過程に対応して循環する態様を示す。著作権がたとえ支分権ごとに別々に譲渡の対象であるとしても,各支分権は複製権が関連している。その関係は,無体物の著作物が複製され伝達し派生していく形態に沿って形成される中の複製権が著作権の支分権の特性となる。
著作権の支分権の複製権に関連して,出版権(著作権法80条1項)が規定される。出版は著作物の公表または発行(同法4条1項)に係わるものであり,著作物の複製の一形態である。また,出版という要素は,公衆送信という要素との関係から,著作隣接権との相互関係が想定できる。著作権の支分権の分節化に連動するかのように,各支分権の相互間の関係が切断されているかのように扱われている。しかし,いままでに検討してきたように,複製という要素は,著作権の支分権の各要素に直接または間接に関与している。そして,著作隣接権者の経済的権利は,著作権の支分権が選択的または階層的に適用される。そのような適用は,著作権の支分権の関係を一層複雑にする。
著作権と出版権は著作物の複製と伝達と派生に関して複製権で連携または融合し,著作隣接権は著作物の有形的媒体への固定による複製と伝達に関して複製権で連携または融合し,著作者人格権は実演家人格権を内包する(図5)。著作隣接権は著作権の支分権のうち有形的媒体への固定に伴う著作物の複製と伝達に関する権利に対応する。人格的権利は,同一性が保持された著作物が複製され伝達し派生していく過程で保証される権利となる。わが国の著作権法における著作権と関連権は,著作者人格権,著作権,出版権,実演家人格権,著作隣接権の5つの権利をいい,それらの人格的権利である著作者人格権と実演家人格権が同一性保持権に,経済的権利である著作権と出版権および著作隣接権が複製権に集約されよう。
著作者は,著作物に対する著作者の権利である著作者人格権と著作権に基づく権利管理を行う。著作物の伝達者は,著作物の伝達に関する著作隣接権に基づく権利管理を担う。ただし,著作隣接権者のうち実演家は,著作隣接権とともに実演家人格権が権利管理の対象となる。
なお,著作者が著作権を譲渡し,また著作隣接権者が著作隣接権を譲渡した場合は,譲渡された者が権利管理する。ただし,著作者における著作者人格権と実演家人格権は,譲渡や相続ができない一身専属権である。著作物とそれを伝達する行為に関する人格的権利は,経済的権利とは別にそれぞれ著作者と実演家が権利管理することになる。
著作権等管理事業法は,「著作権及び著作隣接権の管理を委託する者を保護するとともに、著作物、実演、レコード、放送及び有線放送の利用を円滑にし、もって文化の発展に寄与することを目的とする」(著作権等管理事業法1条)とされる。著作権等管理事業法は,著作権と著作隣接権を管理する事業を行う者について登録制度を実施し,管理委託契約約款と使用料規程の届出と公示を義務付ける等,その業務の適正な運営を確保するための措置を講ずることを求めている。
著作権等管理事業法は,「著作権ニ関スル仲介業務ニ関スル法律」(以下,旧仲介業務法という)の改正によるものである。著作権等管理事業法は,旧仲介業務法の許可制による規制を大幅に緩和し,一定の条件を満たせば管理事業を行える登録制としている。使用料規程も,これまでの認可制から届出制に改めて,著作権等管理事業への新規事業者の参入を容易にするとしている。
4.1 著作物と著作物を伝達する行為著作権等管理事業法が著作権等管理する対象は,著作物,実演,レコード,放送と有線放送である。それは,著作権法と同様に,著作物と著作物を伝達する行為をいう。
なお,著作物がオンデマンドで提供される情報ネットワークとWeb環境において,今後,自動公衆送信が著作権等管理する対象となろう。また,電子書籍がネット環境で流通し利用されるとき,出版者の権利が著作隣接権とのかかわりの中で,今後も,「出版者の保護関係」の答申と同様な検討が繰り返されることになろう注6)。
4.2 著作権と著作隣接権著作権等管理の著作権等とは,著作権と著作隣接権である。それらは,著作権法の権利管理が対象とする著作物と著作物を伝達する行為における経済的権利を指す。著作権等管理事業者が管理できる権利は,経済的権利である著作権,著作隣接権である注7)。人格的権利である著作者人格権と実演家人格権は,「おふくろさん問題」注8)で明らかなように,著作権等管理の対象外である。
なお,著作権等管理事業法は,信託の法理に基づくものである。信託(trust)は,英米法界で育まれてきた法理であり,大陸法界のパンデクテン体系,すなわち物権と債権を厳密に分けるものと異なる法理をとる。
4.3 著作権等管理事業者による権利管理著作者の権利や著作隣接権者の権利は,それら権利者自身が管理すべきものである。しかし,著作者は個人であることもあり,関連団体等が著作権等管理することに実効性が伴うことがある。
それが著作権等管理事業者であり,著作権等管理事業とは,管理委託契約に基づき著作物等の利用の許諾その他の著作権等の管理を行う行為であって,なりわいとして行う者をいう。この著作権等管理事業者とは,登録を受けて著作権等管理事業を行う者をいう。著作権等管理事業者による著作権等管理は,著作物,実演,レコード,放送と有線放送の利用を円滑にすることに寄与することにある。
旧仲介業務法のもとで仲介業務を行う者は日本音楽著作権協会のみであったが,著作権等管理事業法のもとでは33著作権等管理事業者の登録(2014年4月1日現在)になっている(表1)。その中で,出版者著作権管理機構は,出版者の権利を指向した権利管理といえる。出版物の発行が出版権の設定による現状において,出版者は,著作権者の複製権に基づいて著作権等管理する関係にあろう。
また,著作権法と著作権等管理事業法とが交差することが生じる。情報処理学会の電子図書館で利用される電子ジャーナルは,著作権法のカテゴリーで著作者から学会に著作権の譲渡と著作者人格権の不行使特約のセットで行われる。その電子ジャーナルは,著作権等管理事業法のカテゴリーで学術著作権に信託譲渡され,複製に関しては日本複写権センターへ委託される。著作権等管理事業者が相互に権利管理を行うことがある。
名称 | 分類 |
---|---|
一般社団法人 日本音楽著作権協会 |
音楽の著作物 |
公益社団法人 日本複写権センター |
言語の著作物 美術の著作物 図形の著作物 写真の著作物 音楽の著作物 舞踊又は無言劇の著作物 プログラムの著作物 編集著作物 |
一般社団法人 日本レコード協会 |
レコード |
一般社団法人 学術著作権協会 |
言語の著作物 図形の著作物 写真の著作物 プログラムの著作物 編集著作物 |
一般社団法人 出版者著作権管理機構 |
言語の著作物 写真の著作物 図形の著作物 美術の著作物 編集著作物 |
本稿では,わが国の著作権制度における権利管理に関して,コンテンツ促進法における著作権,著作権法における著作権と関連権,著作権等管理事業法における著作権等の違いについて解説してきた。わが国においては,権利管理に関して3つの観点が共存する(図6)。コンテンツ促進法は,エンターテインメントコンテンツを主としており,著作権法における著作物の創造,保護及び活用による文化の発展の寄与とする点とは,法の目的の観点にずれがある。著作権法と著作権等管理事業法は,法理が異なる。それは,前者が物権と債権とを明確に区別するパンデクテン体系であり,後者が英米法系の物権と債権とが有機的に結合した信託の法理になる。その法理の違いは,著作権の移転に関して,著作権の譲渡(copyright transfer)と著作物(copyrighted works)の信託譲渡とが対応する。
権利管理に関する3つの観点は,特に情報ネットワークとWeb環境において,対応付けられなければない。すなわち,わが国の著作権制度における権利管理は,コンテンツ促進法と著作権等管理事業法の関係が著作権法の中で関連付けられなければならない。著作権法には,映画の著作物に関して3つの権利関係がある。それは,映画の著作物の著作者(著作権法16条)と映画の著作物の著作権の帰属(同法29条)になり,それらの重ね合わせとして職務上作成する著作物の著作者(同法15条)としての映画製作者の権利がある。映画の著作物に関する3つの権利の関係は,コンテンツ促進法,著作権法,著作権等管理事業法におけるそれぞれの権利管理に見いだすことができる。そして,権利管理の対象となる著作権は,人格的権利と経済的権利とが連携または融合する権利の構造を有する。
今後の課題は,権利管理における人格的権利と経済的権利の帰属の同一と差異との明確化にあろう。著作者人格権と実演家人格権は,議論があるものの,著作権等の経済的権利の保護期間が終了したあとにも存続する。情報ネットワークとWeb環境では,人格的権利と経済的権利の帰属の同一と差異とを総合化した権利管理が必要である。