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インフォプロによるビジネス調査-成功のカギと役立つコンテンツ 第2回 プランニングの実際
上野 佳恵
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2014 年 57 巻 2 号 p. 120-124

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前回は,何かを調べるという行為には共通の手順「調べるサイクル」があること,そしてビジネス調査では特に,サイクルの入り口の部分=プランニングが重要であることを述べた。今回は,そのプランニングを,実際どう行っていくのかを考えていこう。

1. 必要な情報のリストアップ

(1) 目的は何か

調査のプランニングとは,「どのような情報を,どこから,どういう手段で」入手するかを考える,ということである。「どのような情報」かは,「目的が明確であれば自ずと明らかになる」と前回書いたが,実際的な調査プランとするにはもう一歩踏み込み,必要な情報を具体的にリストアップすることが欠かせない。

調査テーマとしては同じでも,最終的な目的によっては,必要となる情報の内容・質が異なってくるからである。たとえば,「太陽光発電市場の現状を調べたい」という依頼があったとして,その最終的な目的が,「自社で発電事業への新規参入を考えたい」なのか,「太陽光発電装置の開発を目指す」なのか,「取引先が市場への参入を予定しているので業績への影響を見極めたい」なのか。それぞれの最終的な目的を達成するために,具体的にどのような情報が必要なのかを考えてみると,違いがあることがおわかりいただけるだろう。

(2) どの程度の情報が必要か

とりあえず市場の概況を知りたいので,参入企業の中で大手はどこなのかがわかればよい,という場合もあれば,発電装置の開発・販売を目指すので,市場シェアや各社の太陽光パネル調達状況まで知りたいという場合もあるだろう。その情報をもって何を判断したいのか,何を達成したいのかによって,どこまで詳細な情報が必要なのか,どの程度の正確性が求められているのかが変わってくる。

どこが大手なのかを知りたいというときに,市場シェアの数字を探すことに躍起になる必要はない。もちろん,シェアのデータがあれば市場構造はより明確につかめるだろうし,あってムダになるものでもない。しかし,それを得るために余分な時間,一層の手間が必要になるのだとしたら話は別である。

(3) プライオリティ付け

検索すれば簡単に出てくるからといって,なるべく多くの情報があるほうがよいという話でもない。集めるのは一瞬かもしれないが,集まった情報を読み込んで理解して使うには,それ相応の時間が必要となる。最終的な目的に照らし合わせて,どのくらい詳しいデータが必要なのか,どこまで深掘りするべきなのかを考える。スピードが求められる現代のビジネスシーンにおいて,情報探索に多くの時間をかけている余裕はない。

いま必要なこと,ついでにわかればという程度でよいこと,今はとりあえず見ておかなくてよいこと,などのプライオリティ付けまで含めて,「どのような情報が必要か」を考えるべきである。

2. フレームワークの活用

(1) 3C

具体的に必要な情報をリストアップする際に,役立つのが各種のフレームワークである。「太陽光発電市場の概況」を把握するには,具体的にどんな情報が必要だろうか。まずは市場規模,過去数年分のトレンドがあったほうがよいだろう。参入企業と,各社の強みや弱みもわかったほうがよさそうだ。国レベルで自然エネルギーの活用を進めているはずだから制度上のメリットなどもあるかもしれない,などと,頭に思い浮かべた順番にリストアップしていると,自分の考えが及ばない範囲での抜けやモレが出てくる恐れがある。

このような市場・業界を見る際に有用なのが,3Cというフレームワークである。市場を,顧客(Customer),競合(Competitor),自社(Company)の3つの軸からとらえ,自社の置かれている状況・環境を分析する際の基本として用いることができる(1)。このフレームワークを,市場を把握するために必要となる情報の枠組みおよびその具体的な内容という見方をすれば,必要な情報項目のリストがここに揃っていることになる。

図1 フレームワークの例(3C)

(2) さまざまなフレームワーク

フレームワークは,もともとは事業戦略の立案やそのための思考の整理に用いられるものであり,他にもマーケティング戦略に用いられる「4P」(製品(Product),価格設定(Price),流通(Place),販売促進・広告(Promotion))(2)や,外部環境を構造的に把握するための「PEST」(政治(Politics),経済(Economy),社会(Society),技術(Technology))(3)などがある。事業や企業を「ヒト・モノ・カネ」でとらえるというのも,単純ではあるがフレームワークの1つといえる。

ここではフレームワークについての詳述は省くが,必要と思われる情報項目をランダムに思いつくままにリストアップするのではなく,何らかの枠組みに沿って考えるということは,抜けやモレを防ぐという点でも,効率という点でも有用である。

ちなみに筆者の場合,何かの業界について調べようと思った際には3CをアレンジしたMCCで考える。M=Market:市場構造・トレンド,市場に影響を及ぼす社会環境や法制度,C=Competitor:参入企業の動向,C=Customer:顧客もしくはユーザーの動向。顧客企業の状況まで含めてまとめる際のフレームワークは,M3C(自社=Companyを追加)となる。

図2 フレームワークの例(4P)
図3 フレームワークの例(PEST)

3. ビジネス調査におけるインターネット検索

(1) インターネットの検索結果をどう見るか

どのような情報が必要かをリストアップできたら,次はどこからどうやって手に入れるのか,である。

どうやってといっても,今さら「情報は足で稼げ」という話になるわけではなく,インターネットの利用が基本となることに疑いの余地はない。問題となるのは,インターネットからの情報の引き出し方,ネット検索で出てくる情報の選び方である。

ビジネス情報の場合,特に人々の関心が高い市場などについては,実に多くの情報が存在する。試しに「太陽光パネル 市場規模」でGoogleの検索をしてみたところ,ヒット数は20万件以上に達した。当然,その検索結果を全部見ることはできないので,その中から抽出し内容を見ていくことになるのだが,どうやって見るものを選べばよいのだろうか? 表示された結果を上から順番に見ていくという人が実に多いようである。しかし,ネット検索結果の表示は,役に立つ順番でもなければ,「私が欲しい順番」でもないのは,ネット検索の仕組みを考えれば明らかだろう。

また,検索結果を上から順番に見ていくと,どこまで見ればよいか,どこで止めるかも悩みどころになる。筆者がセミナーなどの参加者に尋ねると,1~2ページ見て止めるという人の割合が多いのだが,10ページまで見るという人も必ず何人かはいる。だが,もっとも多いのは「この辺でいいかなと思うところまで」という人だ。これでいいかなという情報が見つかればそこでストップするのだという。しかし,中にはその情報でよいのかと疑問を抱き,本当はもっと見た方がよいのでは,と思っている人も多いようである。

(2) 情報源を考える

ネット検索の結果をどうやって見ていくか,どこまで見ればよいのか。逆説的ではあるのだが,一度,インターネットを離れて考えてみてはどうだろうか。

ネット検索をせずに,太陽光発電の市場について調べなければならないとしたらどうしたらよいだろう。市場規模を集計しているのはどこなのか,調査を行っているとしたらどんな機関か,どんな会社が参入しているのだろうか。情報がありそうなところ,知っているような人がいるところを,いろいろ思い巡らすのではないだろうか。

年長の方にはおわかりいただけると思うが,インターネット時代の前は,何かを調べようと思った際には,誰もがそこから考えていた。それが情報の在りかを推測するということであり,それをやらなければ必要な情報にたどり着くことはできなかった。官公庁,業界団体,調査会社,民間企業,専門家,等など,情報をもっているようなところ,知っているような人などを考え,その推測を元に,実際に文献をあたったり,図書館に行ってみたり,電話で聞いてみたりして,必要な情報を探し出していたのである。

インターネットは,そのものが情報を作り出したり,発信したりしているのではなく,さまざまな発信者・作成者の情報を載せてつなげているネットワークである。ネットワークの中にある実際の情報源を考えるというのが,ネット検索の結果をどうやって見ていくのか,どこまで見るのかという場合にも,判断のポイントとなってくる。

(3) 情報の身元は定かか

情報には,必ず発信者・作成者=情報源がある。発信者から他人の手を経て伝播(でんぱ)していくと,伝言ゲームと同じく,本来の意味が変わってしまったり,一部の内容のみが伝わってしまったりするケースも多い。インターネット上には,このような切り刻まれた情報や,本来の意味を離れてしまった情報も数多く存在する。

「○○と言われている」という記載と,「××研究所によると○○で…」という記載では,性質がまったく異なる。「○○と言われている」だけだと,もともと誰がそう言っているのか,どういう条件のもとに○○と判断をしているのか等,確かめようがない。情報として,身元が定かでないのである。本来の意味や情報の成り立ちを確認できないとなると,使い方を間違えたり意味を取り違えたりする恐れもある。

自分の参考情報として見ていく分には構わないが,このように成り立ちを確認できないような引用情報は,ビジネス調査の「情報源」としてはならない。なるべく情報源に近いところから情報を得るというのが調査の鉄則であるが,インターネットの情報を見る際にも,その情報の身元は確かか,もともとの情報源をたどっていくことができるか,というポイントがもっとも重要なものとなる。

(4) インターネット検索は手段

ネット検索の結果は,一次情報も引用情報も何ら区別なく提示される。政府の統計データからブログ記事まで,さまざまなレベルの,真偽も一定していない情報が,混然一体となって表示されるということが,ネット検索の結果から何を選び出せばよいのかわからないという混乱につながっているようでもある。

インターネットは情報を入手する手段であって,文献調査や電話でのヒアリングがネット検索に取って代わったと考えるべきである。あらかじめ,そのテーマ,内容,市場に関して情報を作成・発信しているようなところはどこかということを考え,インターネットを利用するとしても,Googleなどのサーチエンジンでキーワード検索することから始めるのではなく,そのような機関・会社・組織等のWebサイトなどから見ていく。もしくは,キーワード検索をするとしても,その結果を見る際にそれがどんな機関・誰のWebサイトなのかを考え,必要とする情報の作成者・発信者に近そうなところを選んで見ていく。

インターネットで瞬時に何でも検索できてしまうのではあるが,役に立つ情報,情報源に近い情報を効率的に得るには,自分が必要としている情報の在りかを事前に考えるというステップが欠かせない。それこそが,プランニングの「どこからどうやって」ということの意味なのである(4)。

図4 ビジネス調査のプランニング

4. 条件

(1) 時間

調査を行っていくには,さまざまな条件も伴ってくるが,これを考え合わせるのもプランニングのポイントとなる。

もっとも重要な条件は「時間」だろう。大量の情報に瞬時にアクセスできる現代,時間があればいくらでも情報探索は広げられる。思いがけない情報がどこかに眠っているという可能性も否定できるものではない。「もっとよい情報があるかもしれない」と検索のワナにハマっていった経験は誰にでもあるのではないだろうか。趣味の調べごとであれば,気が済むまで時間をかけてもよいが,仕事ではそういう訳にはいかない。使える時間は限られており,「もっと時間があればもっと見ることができた」というのは言い訳にしかならない。

どれだけの時間がかけられるのか,その中でどこまで何ができるのか。調査を進める中で状況は刻々と変わるものではあるが,あらかじめ時間的制約を確認し,時間軸を意識しておくことが欠かせない。

(2) コスト

コスト意識もポイントである。ネット検索で何でも探せるとはいっても,有料のデータベースサービスを利用したほうが必要な情報が得られる可能性や効率が高いというケースも多いだろう。いろいろと調べるよりも,市場調査レポートを1冊購入してしまった方が早いという場合もあるはずだ。一方で,安価でインターネット調査ができるようになったからといって,いきなり消費者アンケート調査を実施しなくても世の中に使えるデータはたくさんあるかもしれない。

全体としてどのくらいのコストをかけることができるのかを考え,時間や効率との兼ね合いで,お金をかけても入手すべき情報にコスト配分をしていくことが必要とされる。

さまざまな条件を考え合わせたうえで「どのような情報を,どこから,どういう手段で」入手するかを考える。現代のようなインターネット時代には一見,回り道に思えるかもしれないが,このプランニングをきちんと行うかどうかが,ビジネス調査の成功のカギを握っているのである。

5. 自分の情報源リストを補う

ここまで,前回紹介した「調べるサイクル」の入り口,「①知識ギャップの認識」と「②自分の情報源リストとのすり合わせ」の部分にあたるプランニングの詳細について述べてきた。

「どこからどうやって」情報を得ようかと推測をする際のベースとなるのは,自分の情報源リスト,情報源に関する知識である。知っている分野,似たようなことを調べたことがあるテーマについてであれば,「ここにありそう」と考えられるが,これまでまったく縁のない業界やテーマについてとなると,「情報源はどこなのか考えてみなさい」と言われても難しい。あることを調べた経験を知識として蓄え,次の調査に活用していく。それが「調べるサイクル」の最後に「⑥自分の情報源リストの整備」を配置したゆえんである。

しかし限られた時間の中で,多くの経験を,誰もができるわけではない。そこで次回以降では,みなさんが情報源リストを整備していく助けとなるような,ビジネス調査の枠組みとそこで活用できる情報源・コンテンツを紹介していきたい。

 
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