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リレーエッセー
つながれインフォプロ 第8回
黒田 潔
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2014 年 57 巻 2 号 p. 129-131

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日本アグケム情報協議会とは

日本アグケム情報協議会(以下,アグケム)は,化学・農薬関連のデータベースを利用している企業を会員としており,見学会,講演会や自主的研究を行うオンライン研究会のグループワーキングなど,さまざまな形での会員間の情報交換を通じて情報調査技術の向上を図ることを目的とする会である。

「アグケム」は,農薬関連の「アグ」および化学関連の「ケム」を組み合わせたもの。農薬は,有機合成化学はもちろん,生物,プロセス,製剤,作用機序,代謝,安全性,毒性薬理や環境科学,最近では遺伝子組み換えなどの研究・技術が関係する。化学については,説明するまでもないが生活にかかわるほとんどのものに化学が関与している。機能性化学品,半導体等材料化学,高分子化学等もあり,また,電化製品や自動車等といった応用場面まで含めると必要な情報は大変多い。したがって,調査のために扱うべきデータベースの種類も数も多い。これらを使いこなして調査し,より質の高いアウトプットを行うには,仕事での実務経験に加えて,自己研鑽(けんさん)を積み重ねて技術・能力を向上させる必要がある。また,現在ではエンドユーザーの教育も情報担当者の重要な職務となっている。こうした勉強や情報交換のひとつの場として活用されているのがアグケムである。

歴史

発足は35年前に遡(さかのぼ)り,当時のDerwent社のAGDOC(農薬)またはCHEMDOC(一般化学)という特許英文二次抄録誌の購読会社の一部担当者による情報交換から始まった。1978年に日本AGDOC-CHEMDOC協議会として発足し,これら抄録誌(のちにデータベース)サービスの品質改善を目的としてDerwent社に種々の要求を行っていた。その後同社とのつながりが弱まり,2003年に現在の名称に変更し,その際に会員資格から前述の購読会社という枠を外した。グループ研究の参加対象も広げた。

活動内容

会員の要望をもとにして,年に1~2回の見学会,講演会または勉強会等を行い,毎年2月末から3月頃にオンライン研究会を開催している。総会およびオンライン研究会の際にも講演会やディスカッションを行っている。オンライン研究会に向けて,3~5人程度のグループに分かれて,各種情報,データベース等に関係するテーマについて検証や調査等の活動を行っている。メンバーにもよるが,7月頃から2月頃まで,月1回程度集まって,検討方針や互いの検討結果に関して,情報・意見交換などを行う。いろいろな意味で,このオンライン研究会のグループワーキングが協議会活動の中心である。情報検索システムも人間が作ったものだけに,検討してみると,さまざまな問題,課題があることがわかる。割り切った解析を数字で行うほうがきれいであるが,ついつい,個々のデータのエラーや収録ミスなどのチェックに力が入ってしまうこともある。こちらのデータベースでは引っ掛かるのに別のデータベースではなぜ拾わないのかといった疑問が湧いてくるからである。それはデータベースの作り方や定義によることもあり,場合によっては思わず笑ってしまうようなエラーのこともある。日頃の勉強不足を反省することもあれば,これはデータベースがおかしいと憤ることもある。日々の業務に追われる中で行うグループワーキングの活動期間中は時間管理が大変で苦労も多いが,その中で得られる経験は貴重である。オンライン研究会はその活動発表の場であり,活動を通じて得られたデータベース等についての問題点や課題をデータベースプロデューサーやベンダー(以下,サービス提供者)にぶつけていく場でもある。オンライン研究会の懇親会および2次会は,発表が終わった解放感も手伝って,非常に盛り上がる場面になる。夜遅くまでサービス提供者も交じえて激論をたたかわすつわものもいる(1)。

図1 活動概略

グループワーキングのテーマ

ワーキングのテーマは,会員からの提案に数人の他のメンバーが賛同する形で決定している。メンバーは固定せず,その年のテーマをやりたい者が集まる形にしている。

おおよそ次のものが挙げられる(2)。

図2 ワーキンググループテーマ

DWPIの検証などのWPI関連等の検証は発足当初からの伝統で根強い人気がある。システムの比較では,やはりエンドユーザー向け機能の評価や使い方の検討とサーチャー向けとの比較検討などが多い。データベースの比較もよく取り上げられるテーマである。比較を行うと,検索結果集合が完全に重なることはなく,完全な検索はないことがよくわかる。その他いずれも常に変化があるため,1人では学びきれない。共同ワーキングによる検証や比較,ディスカッションを通じて理解が深まる。普段あまり頻繁に使わないデータベースの使い方を身に付けるチャンスでもある。取り上げるシステムも特に限定せず,自由に提案して,賛同があれば取り入れている。活動成果は基本的には会員間でのみシェアしているが,一部外部にも発表している1)2)。しかし,1つ言えるのは,発表等から読み取れるのは成果の一部でしかなく,実際に自分の頭や手を動かしてみないと理解できない内容のほうが多いということである(3)。

アグケムのもう1つの特徴は見学会・講演会であろうか。上記の体験型の勉強とは異なるが,できる限り有用な場とするように皆で作り上げている。この機関名は聞いたことがあるが,どんな場所でどんな利用方法があるのか知りたい,また,この人の書いている内容は興味深いので,一度直接話を聞いてみたいなど。

図3 オンライン研究会の風景

アグケムのメンバーの特徴

2013年度現在では農薬・化学関連の会社16社が会員となっている。2名以上がグループワーキングに参加している会社もある。アグケムへの参加者には情報調査担当者はもちろん,企業の図書館担当者,知財担当者,研究との兼任者,これらをいくつか経験してきた者などさまざまなバックグラウンドのメンバーが集まっている。

化学情報協会の原修氏が化学分野のインフォプロの必要条件について本誌で論じている3)。化学や関連のバックグラウンド,知識,各種データベースに精通していること,各種特許分類に精通していること,特許法に精通していることなど,さまざまな知識や技術,能力が必要と述べている。内外の研修等によりこれらを体系的に身に付けることができる会社もあるかもしれないが,情報関係の組織が小さな会社ではなかなか困難である。その点,アグケムは,多様なメンバーが集まっており,いろいろ聞けるメリットがある。グループワーキングによる特定内容に踏み込んだ理解とともに,情報業界のトピックスとか,データベース利用のテクニックとか,活動の合間のちょっとした情報交換もまた大変役に立つことが多い。また,教えることで知識の整理ができ,いろいろな意味で力がつく。

私自身は,特許制度関係のミニ講演を行ったところ大変感謝された経験がある。協議会に関わり始めた頃は,アグケムは情報調査のプロばかりで,自分のように知財寄りで検索技術レベルの高くない者には少しいづらい場所と感じることもあった。しかし,講演で質問や意見を受けて,これを機会にアグケムにより親近感がもてた。インフォプロとして,互いに足りない部分を学び・教えることができるよい場になっていると思う。同じような立場で活動してみたいという方(会社)には,ぜひ見学・参加していただきたい。

おわりに

忘れてはならないのがサービス提供者との関係である。常日頃,関わりをもっているのがトムソン・ロイター,化学情報協会,ジー・サーチなどで,必要に応じて他のサービス提供者等にも協力をお願いしている。グループワーキングその他で出てきた質問やお願いに対して迅速に応答があり大変感謝している。

執筆者略歴

黒田 潔(くろだ きよし)

1980年,日本農薬株式会社に入社。化学研究所合成グループにて農薬探索研究に従事。製剤,開発,化学品部等を経て,現在は知財ユニットにて特許・商標・情報調査業務を担当している。

参考文献
 
© 2014 Japan Science and Technology Agency
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