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日本版NIH創設に向けた新しい指標の開発(5) パイプラインにつながる特許判別指標の応用
治部 眞里長部 喜幸
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2014 年 57 巻 3 号 p. 178-186

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著者抄録

日本版NIHや製薬企業における,政策決定・戦略立案に資するエビデンス提供のため,新しい指標に基づいた医薬品産業の現状俯瞰・将来予測を試みた。今回は,前回導出した製薬企業の個々のパイプラインや医薬品と密接に関連する特許を特定するための新しい指標を使用して,低分子医薬品とテクノロジー別のバイオ医薬品における基礎研究力を各国別,特許の出願人別にみた。

1. はじめに

これまで「日本版NIH創設に向けた新しい指標の開発(1)~(3)」において,医薬品市販数およびパイプライン数を用いることで,各国の新薬創出力の現状把握および将来予測が可能なことを示してきた1)3)。「日本版NIH創設に向けた新しい指標の開発(4)」においては,製薬機関の医薬品まで繋(つな)がった特許を判別するために,以下の3指標が有効である可能性が高いことを明らかにした4)

  • 1)付与されているIPC数が少ないこと
  • 2)被引用特許数が多いこと
  • 3)特許が引用する非特許文献数が多いこと

本稿では,上述の拙著(4)で導出したロジスティック回帰モデルを使用して,低分子医薬品およびテクノロジー別のバイオ医薬品における特許の動向を分析し,医薬品開発の基礎研究の現状と将来予測について報告する。今回,製品に繋(つな)がるような特許が予測できれば,さらに長期スパンの将来予測ができると考えられる。これにより日本版NIHや製薬企業における政策立案・戦略立案において,基礎研究から製品までの一貫した新薬創出力を示すことが可能となる。

なお,本稿は著者の私見であり,著者が所属する機関の意見・見解を表明するものでない点に留意願いたい。

2. 特許分析における指標

拙著(4)において,Diabetes Mellitus(糖尿病治療薬)とCell Therapy(細胞治療薬)分野の特許で,製薬機関の有する個々の医薬品に繋がった特許と繋がらなかった特許をそれぞれ701例ずつ抽出した。そして,(1)I P Cコード数,(2)被引用特許数,(3)引用特許数,(4)特許が引用する非特許文献数,(5)1ファミリーを構成する特許数,を説明変数として,二値ロジスティック回帰モデル式1により解析を行った4)

式1

これは,製薬機関の個々のパイプラインや医薬品に繋がった特許の従属変数pが1,繋がらなかった特許のpを0として,その発生確率を求めたものである。拙著(4)の解析結果,式2を導出した。

式2(式中χ1~χ5は,それぞれ上記(1)~(5)を示す)

製薬企業の個々のパイプラインや医薬品に繋がった特許および繋がらなかった特許を比較し,繋がった特許は式2のMの値が0より大きい傾向が強いことが,拙著(4)で導出できた。式2の値を導出し,閾値を調整することにより,パイプラインや医薬品に繋がる特許を抽出できる可能性が高いと考えるが,本分析においては,式2のMの値が0以上のものをパイプラインや医薬品に繋がった特許として,分析を試みた。以下,式2のMの値が0以上のものを精製特許ファミリー数と呼ぶ。

3. 特許抽出

本分析で使用した特許データベースは,Thomson Reuters社の「Derwent World Patents Index(以下,DWPI)」であり,対象データは,2011年12月31日に抽出されたものである。低分子医薬品およびテクノロジー別のバイオ医薬品の特許を抽出するため,1のIPCコードを使用した。今回分析に使用した特許データは,拙著(4)において使用した(1)IPCコード数,(2)被引用特許数,(3)引用特許数,(4)特許が引用する非特許文献数,(5)1ファミリーを構成する特許数,を説明変数とする式2を使用し,Mの値が0以上のものとする。

表1 テクノロジー別IPCコードおよび解説
テクノロジー IPCコード 解説
低分子医薬品 A61K 31/01–A61K 31/7084 有機活性成分を含有する医薬品製剤のうち,有機活性成分が低分子化合物のもの。3個以上のヌクレオシドまたはヌクレオチドを持つ化合物,多糖類,合成の重合材料などを有効成分とするものを除く。
組換えタンパク質 A61K 38/04–A61K 38/58 タンパク質を有効成分として含有する医薬品製剤のうち,タンパク質の正確な配列がわかっているもの(注:技術常識を勘案するに,アミノ酸配列が完全に確定しているタンパク質を含有する医薬品は,組換えタンパク質を使用しているものと判断した)
遺伝子組換えワクチン A61K 39/002–A61K 39/39 抗原を含有する医薬品製剤。なお,抗原がバイオテクノロジーにより作製されたことをIPCで特定することは困難であり,ここではA61K 39/002– A61K39/39を遺伝子組換えワクチンの範囲とした。
モノクローナル抗体 (A61K 39/395 not A61K 39/44)かつ(C07K 16/00またはC12P 21/08) ・A61K 39/395:抗体医薬
・A61K 39/44:抗体医薬のうち担体に結合した抗体(複合モノクローナル抗体に相当)
・C07K 16/00とC12P 21/08:それぞれモノクローナル抗体(後者は製造方法)を示す
細胞治療 A61K 35/12かつC12N 5/06 ・A61K 35/12 :哺乳動物または鳥類からの物質を有効成分として含む医薬品製剤
・C12N 5/06:動物細胞または組織
複合モノクローナル抗体 (A61K 39/395かつA61K 47/48)またはA61K 39/44 ・A61K 39/395:抗体医薬
・A61K 47/48:不活性成分と活性成分が結合した医薬品製剤
・A61K 39/44:抗体医薬のうち担体に結合した抗体
DNAおよびRNA治療 A61K 31/7088かつ(C12N 15/11またはC07H 21/00) ・A61K 31/7088:核酸(DNA, RNA, 他の核酸など3個以上のヌクレオシドまたはヌクレオチドを持つ化合物) を含有する医薬
・C12N 15/11またはC07H 21/00:DNA, RNA,アンチセンス,マイクロRNA(miRNA),スモールRNA干渉(siRNA),核酸アプタマーなどのDNAやRNAフラグメント
遺伝子治療 A61K 48/00かつA61K 31/7088 ・A61K 48/00:遺伝子治療
・A61K 31/7088:核酸(DNA, RNA, 他の核酸など3個以上のヌクレオシドまたはヌクレオチドを持つ化合物)を含有する医薬

上記IPCコードを含む特許を抽出後,出願人の国籍別・出願人別に特許ファミリー数を集計した。国籍別集計には,出願人の住所の国名を使用している。医薬品数・パイプライン数の国については,製薬企業・研究機関等が所有する医薬品の進捗状況(【非臨床試験】→【フェーズ1】→【フェーズ2】→【フェーズ3】→【承認申請】→【承認】→【市販】)を,各機関の本社の所在地ごとにまとめた。たとえば,Novartis(ノバルティス)などのグローバル企業は,医薬品数・パイプライン数においてはその本社がある国でカウントされているが,特許に関しては特許の出願人住所の国でカウントされている。ただし,DWPIは出願人コードが付与されているため,子会社名あるいは研究所名に関してはそれぞれ本社の名前に統一されている。

抽出期間は,優先権主張年が1981-2011年とした。

4. 結果

4.1 低分子医薬品

1は世界の低分子医薬品の特許ファミリー数,精製特許ファミリー数,2は低分子医薬品の進捗状況数を表示したものである。なお,12は簡単には比較できない。なぜならば,1の特許ファミリー数と精製特許ファミリー数は,出願人の住所から国名を抽出後集計したものであるが,2の医薬品数・パイプライン数は,事業体本社の国に基づいて集計したものだからである。また,低分子医薬品やバイオ医薬品は,ロケットやコンピューターのように1製品が何千,何万もの特許で構成されている分野とは違い,少数の特許で構成されているとはいえ,医薬品数・パイプライン数と精製特許ファミリー数は1対1の関係にはならないからである4)

図1 特許ファミリー数,精製特許ファミリー数(低分子医薬品)
図2 進捗状況数(低分子医薬品)

特許ファミリー数および精製特許ファミリー数においては,米国が圧倒的に強く,日本がそれに続いている。拙著(1)においても述べたが,米国は他国に比して圧倒的に医薬品数・パイプライン数が多いことから,将来においても新薬を創出し続ける可能性が高い1)。精製特許ファミリー数も多いことから,今後もさらに新薬を創出していく可能性が高いことがわかる。

日本に関しては,拙著(1)において,米国に次ぐ第2位の地位は維持できなくなると予想されると述べたが1),日本の精製特許ファミリー数を1986-1995年と1996-2005年の2期間で比較すると,米国は増加しているが,日本は減少していることがわかる(3)。拙著(1)6の創薬プロセスにおいて,基礎研究から医薬品になるまでは,十数年の年月が必要であることを加味すれば,今後日本の新薬創出の基礎研究力を表す精製特許ファミリー数が減少しているということは,将来的に低分子医薬品分野には明るい希望を抱きにくいと考えられる1)

図3 2期間における精製特許ファミリー数(低分子医薬品)

また,中国の動向も注目すべきである。特許ファミリー数においては日本に続いているが,精製特許ファミリー数においては,特許ファミリー数に比して,圧倒的に少ないことがわかる(1)。

4は精製特許ファミリー数および特許ファミリー数の世界平均を1として,各国の精製特許ファミリー数および特許ファミリー数のインパクトがどのくらいかを示したものである。横軸が精製特許ファミリー数のインパクト,縦軸が特許ファミリー数のインパクトを示している。グラフ上の直線より上にある国は,特許ファミリー数に比して,精製特許ファミリー数が少ない。つまり,パイプラインや医薬品に繋がるような特許が少ないと考えられる。特に日本や中国は,特許ファミリー数は非常に多いが,パイプラインや医薬品に繋がるような特許は少ないことがわかる。米国や欧州諸国のように効率的な特許の出願ではないとみられる。ここではパイプラインや医薬品と繋がっているかどうかを議論しているが,特許の質という関連で在中国欧州商工会議所(European Chamber of Commerce in China)は,調査レポートにおいて,「中国において,特許件数は増え続け,イノベーションも起こりつつあるものの,特許の質はそれらに比例して向上していない」と分析している5)

図4 精製特許ファミリー数および特許ファミリー数のインパクト(低分子医薬品)

また,特許ファミリー数,精製特許ファミリー数,医薬品数・パイプライン数の順に数が減少するのが順当であるが,韓国およびBRIICS注1)はそうではないことがわかる。拙著(3)で触れたように,韓国およびBRIICSの低分子医薬品においてはどの開発段階においてもジェネリック医薬品が占める割合が高いことがわかっている3)。ジェネリック医薬品とは,「先発医薬品(新薬)の特許が切れた後に販売される,先発医薬品と同じ有効成分,同じ効能,効果をもつ医薬品」であるため,ジェネリック医薬品として特許を申請することは考え難く,特許数のカウントには含まれない6)。よって,韓国およびBRIICSにおける精製特許ファミリー数は少なくなる。

2は低分子医薬品における1986-1995年と1996-2005年の精製特許ファミリー数の上位20社の出願人を示したものである。1996-2005年で1位のAstra Laekemedel AB(アストラ)は,1999年にイギリスのゼネカとスウェーデンのアストラが合併して誕生した会社である。Pfize(rファイザー)を抜き1位となっている。上位にランクされた多くの出願人がグローバル製薬企業である。20位以内に後述するような公的機関や大学がないのが特徴である。

表2 精製特許ファミリー数の上位20社(低分子医薬品)
順位 会社名 1986-1995 会社名 1996-2005
精製特許
ファミリー数
順位の変化 精製特許
ファミリー数
順位の変化
1 MERCK & CO INC(メルク) 947 1→4 ASTRA LAEKEMEDEL AB(アストラ) 1,000 21→1
2 PFIZER INC(ファイザー) 713 2→2 PFIZER INC(ファイザー) 831 2→2
3 HOFFMANN-LA ROCHE AG(エフ・ホフマン・ラ・ロッシュ) 628 3→6 Novartis(ノバルティス) 793 7→3
4 SMITHKLINE CORP(スミスクライン) 615 4→5 MERCK & CO INC(メルク) 748 1→4
5 CIBA GEIGY AG(チバ・ガイギー) 532 5→169 SMITHKLINE CORP(スミスクライン) 726 4→5
6 LILLY & CO ELI(イーライリリー・アンド・カンパニー) 529 6→16 HOFFMANN - LAROCHEAG(エフ・ホフマン・ラ・ロッシュ) 645 3→6
7 Novartis(ノバルティス) 507 7→3 BRISTOL-MYERS SQUIBBCO(ブリストル・マイヤーズ・スクイブ) 626 15→7
8 WELLCOME FOUND LTD(ウェルカム) 465 8→354 GLAXO GROUP LTD(グラクソ) 530 9→8
9 GLAXO GROUP LTD(グラクソ) 459 9→8 BOEHRINGER INGELHEIM GMBH(ベーリンガーインゲルハイム) 505 40→9
10 BAYER AG(バイエル) 359 10→10 BAYER AG(バイエル) 428 10→10
11 PHARMACIA & UPJOHN CO(ファルマシア&アップジョン) 348 11→14 AMERICAN HOME PROD CORP(アメリカン・ホーム・プロダクツ) 386 18→11
12 SANOCHEMIA LTD(サノケミア) 343 12→189 TEVA PHARM IND LTD(デヴァ) 384 98→12
13 TAKEDA CHEM IND LTD(武田薬品) 336 13→18 ABBOTT LAB(アボット) 350 32→13
14 WARNER LAMBERT CO(ワーナー・ランバート) 334 14→20 PHARMACIA & UPJOHN CO(ファルマシア&アップジョン) 349 11→14
15 BRISTOL-MYERS SQUIBB CO(ブリストル・マイヤーズ・スクイブ) 332 15→7 AVENTIS PHARMA SA(アベンティスファーマ) 340 19→15
16 HOECHST CELANESE CORP(ヘキスト・セラニーズ) 331 16→234 LILLY & CO ELI(イーライリリー・アンド・カンパニー) 339 6→16
17 RHONE-POULENC RORER PHARM INC(ローヌ・プーラン・ローラー) 324 17→250 SCHERING CORP(シェリング) 322 38→17
18 AMERICANHOMEPROD CORP(アメリカン・ホーム・プロダクツ) 316 18→11 TAKEDA CHEM IND LTD(武田薬品) 315 13→18
19 AVENTIS PHARMA SA(アベンティスファーマ) 308 19→15 ELF SANOFI(サノフィ) 293 22→19
20 ZENECA LTD(ゼネカ) 306 20→46 WARNER LAMBERTCO(ワーナー・ランバート) 262 14→20

出典: Thomson Reuters社 DWPIを基に作成

(注) 順位の変化は, 1986-1995年の順位→1996-2005年の順位を表している。

4.2 バイオ医薬品

5はバイオ医薬品の進捗状況数,6はバイオ医薬品の特許ファミリー数,精製特許ファミリー数を表示したものである。バイオ医薬品の特許ファミリー数および精製特許ファミリー数においても,米国が圧倒的に強く,日本がそれに続いている。米国はパイプライン数および基礎研究の大きさからしても,将来的に長期にわたって新薬を創出し続ける可能性が極めて高いと考えられる。

図5 進捗状況数(バイオ医薬品)
図6 特許ファミリー数,精製特許ファミリー数(バイオ医薬品)

拙著(1)でも述べたように,バイオ医薬品においても米国のパイプライン数は他国を圧倒している1)。しかし低分子医薬品のパイプライン数においては第2位であった日本は,バイオ医薬品においては米国を除く他国と同程度の数となっていた。一方,特許ファミリー数および精製特許ファミリー数においては,低分子医薬品と同様に世界第2位となっている。このことから,バイオ医薬品において,日本は基礎研究力を維持しており,中長期的には医薬品の創出が期待される。

7は,各国の精製特許ファミリー数を1986-1995年と1996-2005年の2期間で比較したものである。先進国において増加していることをみると,今後バイオ医薬品の新薬開発はますます活発になると考えられる。一方BRIICSの基礎研究においては,低分子医薬品からバイオ医薬品へのシフトはまだ先のように予測される。

図7 2期間における精製特許ファミリー数(バイオ医薬品)

8は精製特許ファミリー数および特許ファミリー数の世界平均を1として,各国の精製特許ファミリー数および特許ファミリー数のインパクトがどのくらいかを示したものである。横軸が精製特許ファミリー数のインパクト,縦軸が特許ファミリー数のインパクトを示している。グラフ上の直線より上にある国は,特許ファミリー数に比して,精製特許ファミリー数が少ない。つまり,パイプラインや医薬品に繋がるような特許が少ないと考えられる。この図から見ても,バイオテクノロジー分野においては,まだパイプラインや医薬品に繋がるような特許を米国以外の国においては出せていない。基礎研究力においてもバイオ医薬品へのシフトが始まったばかりではないかと考えられる。特に拙著(2)において,第1世代(組換えタンパク質,遺伝子組換えワクチン),第2世代(モノクローナル抗体),第3世代以降(細胞治療,複合モノクローナル抗体,DNAおよびRNA治療,遺伝子治療)の順に実用化に至っていると推測していた2) が,1986-1995年と1996-2005年の2期間における精製特許ファミリー数の増加率を比較すると,世代を進むごとに顕著となる(9)。

図8 精製特許ファミリー数および特許ファミリー数のインパクト(バイオ医薬品)
図9 世代ごとの増加率(バイオ医薬品)

10は,テクノロジー別にバイオ医薬品の精製特許ファミリー数を出願人別に上位20位までをみたものである。優先権主張年が1981-2011年を積算し,組換えタンパク質から遺伝子治療まで7つのテクノロジーの精製特許ファミリー数の総合計の高い順から上位20を抽出している。Genentech, Inc.(ジェネンテック)は,米国のバイオベンチャー企業で,癌(がん)に有用な抗体医薬品が主要製品であるため,モノクローナル抗体,複合モノクローナル抗体の精製特許ファミリー数が世界1位である。しかし,2009年にRoche(ロッシュ)に完全子会社化された。Chiron Corp(カイロン)は,遺伝子組換えワクチン等が主要製品の会社で,精製特許ファミリー数でも遺伝子組換えワクチンの特許を多く保有していたが,2006年にノバルティスに買収された。第5位のカリフォルニア大学は,バイオテクノロジーに関する製造販売協定をノバルティスと締結させている。Schering Corp(シェリング)も2009年にM e r c k(メルク)社に買収され,Aventis Pharma SA(アベンティスファーマ)も2012年にSanofi(サノフィ)に買収されている。多くの企業がグローバル企業へと買収されていく構図を示した。10は,1981-2011年の積算で表示されているため,まだ買収される前の企業が残っているが,これらが整理されると,公的機関と大学を除くグローバル企業が上位20を独占する構図となる。

図10 テクノロジー別上位20(バイオ医薬品)

バイオ医薬品の精製特許ファミリー数上位出願人にもう1つ特徴的なのが,公的機関と大学がランクされていることである。Department of Health and Human Services(HHS,米国保健福祉省)は,NIHを有する組織であり,細胞治療の分野に強い。カリフォルニア大学,テキサス大学も細胞治療の分野に強い機関である。

日本においての問題点はこれまでみてきたように,バイオ医薬品においては大学の基礎研究成果が実用化へと結びつかず,また橋渡しをする中小企業やベンチャー企業の存在も少ないことであったが,精製特許ファミリー数からみても,バイオテクノロジー分野の出願人上位20の中に日本の大学,ベンチャー企業はなく,精製特許ファミリー数からみてもそれが裏付けられる。大学に知的財産本部や技術移転機関(Technology Licensing Organization:TLO)が数多く設置され,日本の大学の特許ファミリー数は年々増えているにもかかわらず,実用化に繋がるレベルではまだまだその役割が果たされていないように考えられる。

5. おわりに

本研究は,各国の医薬品産業の基礎研究力を予測するため,各国製薬機関が有する精製特許ファミリー数に着目し,分析を行った。その結果,以下の事項が示された。

  • •   新薬創出力の基礎研究力を表す精製特許ファミリー数は,米国においては非常に多く,今後もさらに新薬を創出していく可能性が高いことがわかる。比して,日本の精製特許ファミリー数が減少しているということは,日本の低分子医薬品分野は将来的にはあまり明るい希望を抱けないと考えられる。
  • •   日本や中国は,特許ファミリー数は非常に多いが,パイプラインや医薬品に繋がるような特許は少なく,米国や欧州諸国のように効率的な特許の出願ではないとみられる。
  • •   バイオテクノロジー分野においては,まだパイプラインや医薬品に繋がるような特許は各国とも少なく,基礎研究力においてもバイオ医薬品へのシフトが始まったばかりではないかと考えられる。
  • •   バイオ医薬品の精製特許ファミリー数上位出願人には,米国の公的機関および大学がランクされているが,日本の公的機関および大学は1つもない。

謝辞

なお,本研究の一部は独立行政法人科学技術振興機構(JST)戦略的創造研究推進事業(社会技術研究開発)「科学技術イノベーション政策のための科学」(プログラム総括:森田朗・学習院大学法学部教授)における研究課題「未来産業創造にむかうイノベーション戦略の研究」(山口栄一・同志社大学大学院総合政策科学研究科教授,研究期間:平成23~26年度)の支援を受けて行われたものである。

本文の注
注1)  BRIICS:ブラジル,ロシア,インド,中国の新興4か国「BRICs」に,インドネシアと南アフリカ共和国を加えた6か国を示す名称。

参考文献
 
© 2014 Japan Science and Technology Agency
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