情報管理
Online ISSN : 1347-1597
Print ISSN : 0021-7298
ISSN-L : 0021-7298
連載
インフォプロによるビジネス調査-成功のカギと役立つコンテンツ 第3回 企業情報
上野 佳恵
著者情報
ジャーナル フリー HTML

2014 年 57 巻 3 号 p. 187-192

詳細

これまで,2回にわたってビジネス調査を成功に導くための手順について述べてきた。ビジネス調査においても技術調査と同様に,ポイントになるのは,どこからどのように情報を入手するかという事前のプランニングである。そして,プランニングを効率よく行うためには情報源に関する知識が欠かせない。

そこで,今回からは,皆さんの情報源リストの整備の助けとなるように,ビジネス調査に役立つ情報源を整理・紹介していくこととしたい。なお,ここで取り上げる情報源は,無料で誰でもアクセスできるWebサイト,もしくは購入・入手が可能な冊子体資料を基本とし,有用なものについては有料データベースサービスも併せて紹介する。また,すべての情報源を網羅することは不可能なので,筆者の経験等から主要なものに絞り込んでいること,またより有用なコンテンツが新たに登場したり,日々のリニューアルにより掲載内容が実際と異なる場合があることも,あらかじめお含みおきいただきたい。

1. ビジネス調査の範囲

情報源・情報発信機関ごとに整理・分類していくというのも1つの考え方ではあるが,より実用的なものとすべく,ビジネス調査の内容のパターンに沿って考えていこう。

ビジネス調査は,企業や依頼者の立場,状況によって内容が非常に多岐にわたることは,第1回で見ていただいたとおりである。幅が広くてとらえどころがないものではあるが,ビジネスを行っていく中で実際に調べる内容・項目はある程度共通している。それは,大別すると「企業,業界・市場,人物,消費者動向」という4分野に集約することができる。筆者の経験上からもビジネス調査の8割方は,この4分野のいずれか,もしくはその組み合わせでカバーすることができる。

その中から,まず今回は「企業」について見ていこう。

2. 企業を知るためのフレームワーク

企業活動を行っていくにあたっては,あらゆる場面で他の企業との取引が生じるものであり,その取引の相手先について調べることは,もっとも基本的な調査といえる。考えてみれば,会社を調べる経験というのは,学生時代の就職活動の企業研究にまで遡(さかのぼ)ることができるわけで,ある意味誰にとってももっとも身近なビジネス調査でもある。

その企業から材料や部品を調達しようとしているのか,製品の販売先として考えているのか,共同開発の候補として考えているのか,ユニークな人事制度があるらしいのでそれを学びたいと考えているのか……。一概に「企業を調べる」といっても,その目的によって具体的にどんなことを知りたいのか,知らなければならないことが異なるというのは,第2回で説明したとおりである。

しかしながら,それは目的に応じてプライオリティや深さ,範囲が異なるということであって,ある企業の姿をとらえるためのポイントは共通している。前回紹介したフレームワークをもってくるとすれば,「ヒト」「モノ」「カネ」である(1)。

表1 企業情報のとらえ方
フレームワーク 内容
ヒト 経営者の人柄,従業員の男女・年齢分布,組織体制,企業風土,など
モノ 事業概要:扱っている製品・サービス,事業展開状況
事業戦略:事業上の重点,目指している方向
カネ 売上・利益等の財務データ
取引上のリスク

経営者の人柄,従業員の年齢層,企業風土など,「ヒト」は,その企業の文化を醸成している。そのカルチャーを理解していれば,取引などの話も進めやすいだろう。カルチャーがまったく異なったために,共同事業の計画がご破算になるケースも往々にしてある。その企業を理解するのに「ヒト」は重要なポイントになる。これに関しては「人物情報」として別の回で取り上げることとする。

3. 「モノ」①=事業概要

(1) 何をやっているのか

「モノ」というのは,その会社がどんな製品やサービスを扱っているのか,ということ。すなわち,何をやっているどんな会社なのか,である。これには,まず誰もがその企業のWebサイトを確認することだろう。

“会社概要”“事業概要”などを見れば「何をやっている会社か」に対する答えはすぐに出る。しかし,そこでやめてしまってはもったいない。“沿革”“歴史”などのページがあれば,その企業の成り立ちから今日までの変遷をうかがい知ることができる。“事業理念”“ミッション”などとして,経営理念やその企業の目指すところなどを示している会社も多い。“所在地一覧”や“営業所・工場”などその会社のロケーションを見れば,どの程度の規模で事業展開をしているのか,地域性があるのか,ないのか,などもわかるかもしれない。“ニュース”や“プレスリリース”を見れば,最近どのような動きをしているのか,どんな分野に力を入れているのか,なども把握できる。

どの企業のWebサイトも同じように見えるかもしれないが,どのような情報をどこまで掲載しているのか,どのような載せ方をしているか,によって,その企業が外部に対して何をアピールしたいのか,見る人にどう受けとめて欲しいと思っているのか,という姿勢まで見えてくる。隅から隅までとは言わないが,主なページを一通り見ておくと,「どんな会社か」についてはかなり明確なイメージをもつことができるだろう。

(2) 企業のWebサイトを見る際の注意点

企業のWebサイトを見るにあたって,1つ注意しておくべき点がある。それは,掲載されている情報は,その企業が自ら主体的に発信しているものが中心だということである。

たとえば,ある製品について「わが社は○×市場で世界トップシェア企業として…」と記載されていた場合,それをもって,世界ナンバーワン企業であると即断してしまうのは若干危険を伴う。根拠のない情報をWebサイトに掲載することはないはずであり,世界のトップクラスであることには間違いないだろうが,ライバル企業と毎年抜きつ抜かれつでトップを競っているという状況かもしれない。「世界トップシェア」が客観的なデータに基づくものなのか,世界のトップシェアを競っている企業であるという意味なのか,これだけの記載内容では判断のしようがない。

企業の信用,またコンプライアンスの面からも,Webサイトに間違った情報,あいまいな情報を掲載しているケースはないことと思われる。しかしながら,調査レポートなどのデータとは異なり,その内容が客観性を欠くおそれがあるということも,考え合わせておくべきだろう。

4. 「モノ」②=事業戦略

(1) 何を目指しているのか

企業のWebサイトからわかるのは,その企業の現在の姿であるが,取引先や共同開発の相手として考えるとしたら,今後その企業がどのような方向に向かおうとしているのかということについても把握しておきたい。もちろん,将来のことなど何ら定かではなく,その企業のWebサイトに“中期経営計画”や“将来ビジョン”などが掲載されていたとしても,それは実現が保証されたものではない。しかし,過去から現在までの変遷を見渡していくと,その企業がどのような分野に注力し,将来的に何を目指しているのかという姿も浮かび上がってくる。

このような見通しを立てるためには,その企業についての過去数年間のニュース,記事を見ていくのが有用である。これまでどんな製品を発売してきているのか,海外展開状況をどのように進めているのか,どのような人事政策や組織再編を進めているのか,などの記事を集め,テーマ・分野ごとにグルーピングし,時間軸に沿って読み込んでいくと「華々しく新製品を発売したが,その製品分野についてその後の記事がまったく見当たらず,あまりうまくいっていないのかもしれない」とか,「数年前までは中国での現地生産に力を入れていたが,ここ1~2年は中南米に重点が移っているようだ」など,記事の内容はもちろん,記事の数や量などからもさまざまな状況を推測していくことが可能である。

(2) どこから記事を得るか

企業についての記事を集めるのであれば,まず新聞であれば『日本経済新聞』や『日刊工業新聞』などの経済・産業紙,雑誌でも『日経ビジネス』や『週刊ダイヤモンド』『週刊東洋経済』などのビジネス誌といわれるものとなる。ただし,そのような主要新聞・雑誌に記事が取り上げられる会社というのは,大手企業や成長著しいベンチャー企業などに限られている。自分が調べている企業についての記事が,『日経産業新聞』や『週刊ダイヤモンド』にはまったく見当たらないという場合も少なくないであろう。

そのようなときには,媒体を広げて考えてみる。たとえば,地方の企業であれば,全国的な話題にはあがらなくても,その地方では注目されていて,その活動が一般紙の地方版やその地方の地元紙には取り上げられていることもあるだろう。また,特定の業界向けの専門新聞,専門雑誌も幅広い業界について発行されている。そこでは業界で注目される話題となる動きは,企業規模の大小にかかわらず取り上げられていることも多い。この業界新聞・雑誌の利用については,「業界・市場調査」の回で詳しく述べることとする。

(3) どうやって記事を入手するか

昨今,新聞も雑誌もWeb版が発行されていたり,Webサイトで過去の記事を検索できたりするものも多い。しかし,媒体を絞り込んでの検索というのは,かなり調査が進み,欲しい情報,必要な情報が明確になってからのことであり,調査の初期段階では,複数の媒体を横断的に検索ができた方が,どこにどのような記事があるのか,もしくは記事があまり出ていないなどという状況を把握することができ,効率的である。

会社で契約していれば,「日経テレコン」や「G-Search」などの総合データベースサービスの利用,それがない場合には,「@niftyビジネス」注1)や「日経goo」注2)などの個人向けビジネス情報提供Webサイトに登録すれば,従量料金で“新聞記事横断検索”など,上記の総合データベースサービスの一部を利用することも可能である。

5. 「 カネ」=業績・信用性

(1) 上場企業

企業の「モノ」の様子がわかったところで,次は「カネ」である。どれくらいの売上があるのか,利益は出ているのか,キャッシュフローはどうなっているのか,等の経営状態を知るには,財務データを基本とし,その企業と取引しても大丈夫なのか,といった総合的な判断につながる情報が必要となる。

財務情報に関しては,上場企業であれば,Webサイトに主要財務データを抜粋して載せているケースも多いし,一般向けのWebサイトとは別に投資家向けのWebサイトを設け,有価証券報告書,業務報告書,営業報告書などの情報公開を行っている。

複数の企業の主な財務データを見たいというときには,まずは『会社四季報』(東洋経済新報社,季刊)や『日経会社情報』(日本経済新聞出版社,季刊)の,投資家向けの企業情報ハンドブックが便利である。企業の概要や現状についてのコメント,単独・連結決算,それぞれの売上高・利益額などの業績などがコンパクトにまとめられており,自己資本比率や総資産利益率(ROA),自己資本利益率(ROE)などの財務指標や業績予想も掲載されている。同じフォーマットで会社の比較が容易に行えるのも便利である。投資家ならずとも,手元においておくべき資料であるともいえよう。

「YAHOO!ファイナンス」注3)では,『会社四季報』の情報を元に会社概要と最新年度から過去3期分の単独・連結決算,それぞれの売上高・損益額をまとめ,株価情報やニュースと併せて掲載している。各社の情報を同じフォーマットで見ることができるので,簡単な財務分析や複数の企業の比較が容易である。詳細な財務情報を得たいというときには,上場企業に提出が義務付けられている有価証券報告書を見ていくこととなる。各企業のIR(Investor Relations)情報のWebサイトにも掲載されているが,最近5年分については金融庁の「EDINET」(Electronic Disclosure for Investors' NETwork)注4)で閲覧・入手することができる。金融商品取引法で提出が義務付けられている,株式の大量保有報告書や公開買付届出書なども含め,書類の発行者,提出者などから検索してPDFでの入手が可能である。

IR関連資料ということでは,東京証券取引所の「東証上場会社情報サービス」注5)からは,株主総会時に作成・配布された年次報告書や総会通知書,東京証券取引所に提出しているコーポレート・ガバナンス情報も入手することができる。

有料契約が必要となるが,プロネクサスの「eol」では,これらの有価証券報告書や各種の開示資料,企業のニュースリリースなどを網羅しており,検索,ダウンロードができる。有価証券報告書は最大のものでは1961年まで遡って収録されている。財務データについてもExcelデータでのダウンロードが可能なので,財務分析のグラフ作成や,企業間の比較分析等が行える。また,キーワードでの全文検索や,業種別ランキング等の作成機能を備えており,インターフェースも多言語対応で英語や中国語での使用も可能となっている。大学図書館や一部の公共図書館などに導入されている場合もあるので,アクセス可能なところを探しておいて,必要な際に利用することを考えてもよいだろう。

また,『会社四季報』や『日経会社情報』を発行している東洋経済新報社,日本経済新聞社も,上場企業の財務データを各種データベースサービス経由やCD-ROMなどで提供している。

(2) 非上場の主要企業

株式を公開していない企業であっても,Webサイトに業績動向や主な財務データ,決算公告を掲載している企業も多い。まずは,やはり企業のWebサイトを見てみるべきだろう。

有価証券の保有者数が1,000人以上の会社には有価証券報告書の提出が義務付けられており,これらについては,上場企業のものと同様,前出の「EDINET」で閲覧・入手が可能である。また,東洋経済新報社の『会社四季報・未上場会社版』(年2回刊)は,上場を目指している企業や急成長しているベンチャー企業など,約7,000社についての企業概要と主要決算データを収録している。

新聞や官報に決算公告を掲載する企業もある。株主総会の承認を得た決算内容について,その要旨を債権者や投資家などに広く伝えるために掲載するもので,最新30日間分については国立印刷局の無料のWebサイト「インターネット版『官報』」注6)で入手が可能となっている。さらに過去のものについては,同じく国立印刷局の有料の「官報情報検索サービス」があり,公共図書館などでは導入されていることが多い。

(3) 中小・ベンチャー企業など

より小規模の企業,ベンチャー企業などについての情報となると,情報を得られる手段は限られてくる。

まずは信用調査機関が毎年発行している会社年鑑,帝国データバンクの『帝国データバンク会社年鑑』(年刊),東京商工リサーチの『東商信用録』(年刊)。信用調査機関というのは,企業の経営状況を調べ信用度についての情報を提供している,いわば企業専門の興信所で,日本では帝国データバンクと東京商工リサーチが大手である。

『帝国データバンク会社年鑑』には全国14万社,『東商信用録』には約27万社についての,企業概要情報(所在地,資本金,代表者・役員,事業内容,業績など)が収録されており,Webサイトがない企業の概要情報や,業績動向の情報を得ることができる。さらに『東商信用録』には,3段階の格付けと経営状況に関するコメントも記載されており,取引の際の信用度をはかるよりどころとすることができる。これらの会社年鑑は全部で4 ~8分冊にもなる膨大な冊子であるが,社内に資料室や図書室があれば,そこに備えられていることが多いし,大型の公共図書館にはほぼ確実に置かれている。

さらに多くの企業がカバーされているのが,これらの信用調査機関が構築・提供している有料のデータベースである。帝国データバンクは「COSMOS」,東京商工リサーチは「tsr-van2」というデータベースサービスを提供しており,たとえば「tsr-van2」には415万社以上の企業の概要や取引先,売上高などの情報が収録されている。日本全国の企業等の事業所数は576万件なので注7),単純に考えれば7割以上の企業・事業所がカバーされている計算となる。

記事検索と同様に「日経テレコン」や「G-Search」などの総合データベースサービス,もしくは,「@niftyビジネス」や「日経goo」などのビジネス情報提供サイトからもアクセスが可能である(1)。

図1 企業情報の主な情報源(例)

6. 「企業」にとらわれない

以上,企業を「モノ」と「カネ」からとらえる際の主なポイントと基本的な情報源を述べてきた。「カネ」に関しては,押さえるべき情報の内容も経営状況,財務データなどと明確であり,その情報源はある程度限られている。一方事業内容や戦略といった「モノ」については,その企業が属している業界・市場全体をカバーするような情報源にも,視点を広げる必要が出てくる場合が多い。

次回は,この「業界・市場」情報について見ていくことにしよう。

本文の注
注1)  http://business.nifty.com/

注2)  http://nikkei.goo.ne.jp/

注3)  http://finance.yahoo.co.jp/

注4)  http://disclosure.edinet-fsa.go.jp/

注5)  http://www.tse.or.jp/listing/compsearch/index.html

注6)  http://kanpou.npb.go.jp/

注7)  総務省統計局「平成24年経済センサス」 2012(平成24)年2月1日現在の事業所数=576万8489事業所

 
© 2014 Japan Science and Technology Agency
feedback
Top