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図書紹介
文書と記録のはざまで 最良の文書・記録管理を求めて
瀬畑 源
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2014 年 57 巻 3 号 p. 216

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  • 文書と記録のはざまで 最良の文書・記録管理を求めて
  • 小谷允志●著
  • 日外アソシエーツ,2013年,A5判,334p.,3,024円(税込)
  • ISBN 978-4-8169-2447-7

本書は,記録管理学会やARMA(国際記録管理者協会)東京支部の会長を務めた著者が,2002年から約10年間にわたって雑誌に連載をしていたコラムをまとめたものである。その内容は,公文書管理,企業の記録管理から電子記録管理など,レコードマネジメントにかかわるものを中心に,幅広い情報が取り上げられている。また,その1つひとつのコラムには,「筆者後記」が付けられており,書かれた内容と現在の状況との関係がわかるように工夫されている。巻末には,コラムの内容を補完するために,オフィスでの記録管理に関する論文が5本掲載されており,大変充実した内容になっている。

本書を一読してすぐに気づくことは,著者がこのコラムを通して,他国での先進的な取り組みやシンポジウムなどで得た知見を,リアルタイムで紹介し続けてきたということである。筆者も,雑誌に連載されていたこのコラムを通じて,初めて知った海外の最新情報もあり,非常に重宝していた。

本書をコラムの掲載順に読んでいくと,この10年の間に行われた,記録管理に関する各所での取り組みを一望することができる。それはただの「回顧」ということではなく,むしろ,現在の記録管理のさまざまな問題のルーツを,表面的なレベルではなく深いレベルで理解することに役立つだろう。

実際に本書を読んでいると,リアルタイムで問題になっていた事例の多くが,現在においてもきちんと解決されずに残っていることを改めて感じざるをえない。たとえば,電子メールをどう管理するかという問題や個人情報保護のあり方などは,繰り返される情報漏洩(ろうえい)の問題を考えると,個人を罰することや新しいシステムを組めば済むという問題ではないことが浮き彫りになる。また,記録管理のずさんさから発生する企業の不祥事(パロマのガス瞬間湯沸かし器中毒死事件や東京電力の原子力発電所事故など)は,いまだに何度も起き続けている。

著者が本書で繰り返し述べていることは,法やルール,システムというものは,ただ単にそれを作ればよいということではなく,それをどのように運用するかが重要だということである。ルールを作っても,誰も守らなければ意味がない。そこで著者は,文書管理専門職(レコードマネジャーやアーキビスト)が,企業や公的機関などで,記録管理をよりよくするための役割を担えるようになることを望んでいる。現在でも,こういった専門職はまだまだ軽視されており,公文書管理法が2009年に公布され,仕事量が激増しているにもかかわらず,国立公文書館の職員数が,現在に至るまでほんの数人しか増えていないという1点を見ても一目瞭然だろう。その意味でも,著者が本書で行っているさまざまな提言は,いまだに色あせていないと言えよう。

記録管理に関する本は,その多くがいわゆる「マニュアル本」の類いであり,こういったコラムを集めたような書籍は少ないように思われる。著者の文章は簡潔かつ明快であり,記録管理に関する情報がコンパクトにまとめられている。この分野の情報を知るための入門書としても有用であろうし,分野に精通している人でも,記録管理に関する情報を整理することに役立つだろう。ぜひとも一読をお奨めしたい。

(長野県短期大学 瀬畑 源)

 
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