2011年11月に開館した千代田区立日比谷図書文化館のねらいと方針をまず提示し,前身の日比谷図書館の歴史と,東京都から千代田区への移管の背景を概観する。次に現在の実践について,特に図書部門の企画サービス活動を中心に,その内容と企画主旨を紹介する。当館は,前身の日比谷図書館を基盤に,ミュージアムやカレッジを組み入れた複合施設として「知の拠点」を目指し,新しい都市型図書館像を具体化しようとしている。さらに指定管理者として民間のノウハウを活用し,積極的な事業展開により区の負担を抑制し,既存の図書館のイメージにとらわれない新しい文化施設を目指している。最後に,21世紀の都市型図書館を考える1つのきっかけとして,当館の成果と今後の課題・展望を提示する。
日比谷図書文化館(図1)注1)~注3)は,図書館法に基づいて設置された千代田区の文化施設で,2011年11月4日に開館した。前身の東京都立日比谷図書館の歴史と伝統を受け継ぐ図書館機能に,ミュージアム機能,文化活動・交流機能,アカデミー機能を結びつけ,これまでにない大人のための“知の拠点”を目指すこととなった。
当館は従来の図書館の枠を超えた都市型の新しい公共図書館像を具現化し,多様な運営財源の確保に努め,積極的な事業展開により区の負担を抑制し,公共施設運営の1つの新しいあり方を提示しようとしている。
2013年10月には,NPO法人知的資源イニシアティブ(Intellectual Resources Initiative: IRI)よりLibrary of the Year 2013優秀賞を頂戴した。当館が,従来の図書館機能に新たな機能を統合した複合施設として,それぞれの分野で新しい事業・業務展開に意欲的に取り組んでいる点が評価されたのである。この賞は,全国の図書館を総合的に評価して,ベストの図書館を決めるものではなく,最近1~3年間程度の活動において,今後の公共図書館のあり方を示唆する先進的な活動を行っている機関に授与されるものである。
開館から2年半,試行錯誤の連続で,私たちが目指す到達点には質,量ともにはるか遠いが,新しく複合施設としてスタートした日比谷図書文化館は,そのねらいと方針をさまざまな活動によって実現しようとしている。本稿では筆者が現場の企画担当者として実践してきた内容を一部紹介しながら,特に図書部門の企画サービス活動を中心に見ていきたい。情報・図書館を取り巻く環境が大きく変化している中で,21世紀の都市型図書館の役割やあり方を考える1つのきっかけとして提示したい。
日比谷図書館はその1世紀の歴史を経て,運営・形態ともに大きなモデルチェンジを経験することとなった。まずはその歴史と移管の背景を概観する必要があるだろう。
日比谷図書館の開館は1908(明治41)年に遡(さかのぼ)る。1892(明治25)年に日本図書館協会の前身である日本文庫協会が設立され,1899(明治32)年には図書館令が公布された。1903(明治36)年に日本初の洋風公園となる日比谷公園が開園し,その一角に東京市立図書館の第1号として日比谷図書館が建てられた。まさにわが国の近代公共図書館の源流ともいうべき存在であった。1943(昭和18)年,都制施行で都立図書館となる。しかし第二次世界大戦中の1945(昭和20)年5月の空襲で全焼し,現在の三角形の建物として再建したのは1957(昭和32)年であった。以降都立の中心館として東京の図書館をリードしてきた。1973(昭和48)年に港区南麻布に中央図書館が新設されると都立図書館としての中央機能は移ったが,2002(平成14)年には来館者の7割が調査目的という「調べものの入口」と位置付けて,個人貸出も行うビジネス街の調査図書館として機能していた1)。途中,建物の老朽化等から建て替え計画が浮上するが財政的な問題から進展することはなかった2)。
2001(平成13)年,「都立図書館あり方検討委員会」が発足し3),日比谷図書館のあり方についても検討された結果,2005(平成17)年,日比谷図書館で行う個人貸出は区市町村立の役割であり,都が運営を継続する必要性は薄く,地元区への移管を検討すべきである,との報告が出された4)。この答申を受けて2008(平成20)年10月,東京都と千代田区は,日比谷図書館の千代田区への移管について合意した5)。またその2008年は開館100周年に当たり,祝う会などを経て,2009(平成21)年3月に閉館した。
同年7月,日比谷図書館は東京都から千代田区に正式に移管された。改修工事を行い,閉館から2年7か月のブランクを経て,2011(平成23)年11月4日に日比谷図書文化館として開館したのである。
このような経緯で千代田区に移管されたが,当館の出発は,前身の日比谷図書館をそっくりそのまま引き継いだものではない。以前は図書館として運営されてきた施設であったが,その図書館機能を基盤に,新たにミュージアムやカレッジを組み入れた複合施設としてリノベーションすることが命題であった。さらに指定管理者による管理運営となり,民間のノウハウとスキルを活用し,既存の図書館のイメージにとらわれない新しい文化施設を創造するために,以下のねらいが打ち出された6)。
(1) 日比谷図書館の継承と発展1908(明治41)年以来1世紀にわたり日比谷図書館は市民に開かれた公共図書館として先駆的なサービスを提供してきた。その歴史と伝統を継承・発展させる。
(2) 首都東京の中心にある立地特性を生かす首都東京の表玄関ともいうべき,全国各地から交通至便の地に位置し,周囲には,霞が関や丸の内などわが国の政治経済の中枢機能や情報発信拠点が集積し,歴史・文化・観光資源に恵まれた立地である。
千代田区は夜間人口約5万人に対して約80万人もの昼間人口を有す。区民はもとより,区内在勤・在学者,周辺の官庁街,オフィス街のビジネスパーソンの「情報の拠点」「学びの拠点」となり,その立地の魅力と特性を生かした運営・サービスを展開する。
(3) 都心区千代田の都市型の複合文化施設千代田区は世界有数の出版関連産業をはじめ,さまざまな文化情報の集積発信地である。こうした区の特性を踏まえ,出版物に限定しない広範な文化資源の発信拠点を目指す。江戸・東京の歴史文化や近隣に集積する各種ミュージアム等の文化資源のネットワーク・センターとしての機能も併せもち,生活や仕事に役立つ幅広い資料情報資源を提供する「知の入口」となる。都心の千代田区ならではの新しい都市型図書館像を具体化し,機能させることを目指す。
(4) 指定管理者による管理運営指定管理者制度注4)を導入し,民間事業者のノウハウを生かした創意工夫による新規サービスの開発に努めるとともに,専門性を有するスタッフを確保して,合理的かつ効率的に展開し,サービスの向上を図る。
またレストラン,カフェ,ショップ,書店等の設置や適正な受益者負担による有料の付加的サービスを展開し,多様な運営財源の確保に努めるとともに,積極的な事業展開を通じて採算性に配慮した運営を行い,区の負担を抑制するよう努める。
3.2 日比谷図書文化館の方針ねらいを達成するための方針として,次の4点を館全体で共有し,「大人のための“知の拠点”」を目指す当館の基盤としている。
(1) 4つの機能が織り成す新たな文化空間館全体の基盤となる「図書館機能」,千代田区の文化資源の活用,成果の展示,特別展などの「ミュージアム機能」,特別研究室注5),特別展示室,ホール注6)などの施設(図2)を活用する「文化活動・交流拠点機能」,そしてこの3つを結びつける「日比谷カレッジ」と称する「アカデミー機能」の4つの機能の融合により,総合的な知的レベル向上を図る。
(2) 触発と交流からの学び読書・調査・研究・思索の基本機能に加え,創造を支援し,出会いと交流を実現する広場機能の充実を図る。多彩な講座・シンポジウム・ワークショップ等,高水準な知の交流空間を展開し,「つながりの拠点」として交流からの学びを促進する。
(3) ビジネス空間としての充実思索や資料づくりに集中できるPC環境など,セカンドオフィス機能を充実させ,教養書を提供することで,知の広がりを促進し,質の高いビジネス空間を提供する。
(4) 複合施設としての一体感の創出と回遊的利用講座に参加しながら,補完する情報も同時に獲得したり,展示に触発されて関連の資料にあたるなど,全館を回遊することにより好奇心を掻(か)き立て,知の幅を広げ創造につながる場を形成する。
図書館とミュージアムとカレッジの融合を図る複合施設の中の図書館として,当館のねらいと方針を具体化するためのメニューを考えることとなった。昼間人口と夜間人口に16倍もの開きがある千代田区の中でも,特に日比谷周辺は住民が少ない地域だが,各分野の人材の宝庫でもあり,交通至便な立地である。こうした要素を当館の価値として,区民,在勤・在学者,ビジネスパーソンをメインターゲットとした企画サービスの開発を試みた。組み入れたい要素として以下を挙げた。
つまり「知の拠点」として,「情報の拠点」「学びの拠点」に加えて「つながりの拠点」になることを目指した。そして1つのサービスに特化したり,一律のサービスを提供するよりはむしろ,多様な価値に対応できる知の入口をたくさん用意して,その中から選べるところを魅力とする方向を取った。当館は三角形のフロア形状をした,三角柱のユニークな建物であり,たくさんの面を集めた多面体をイメージした知の拠点を目指すこととなった。それでは,具体的な事例を紹介していこう。
2013年8月から10月までの2か月間,特別展「終わりから始まるものがたり」を開催した注7)(図3)。これは「世界の終わりのものがたり~もはや逃れられない73の問い」として2012年に日本科学未来館注8)により企画・開催されたものを再構成したものである。
「世界の終わりを想像したことがありますか?」「死んだらすべては終わりでしょうか?」「あなたに本当に必要なことはなんでしょう?」といった問いかけを25個並べ,それを考えるための100冊の本を図書館司書が選んで展示に組み入れ,図書館のある日比谷オリジナルの「ものがたり」とした。以下に,本展示で目指したこと,およびその特徴を述べる。
(1) 考える場としての図書館この展示は見ること以上に考えてもらうための企画で,他の人は同じ問いをどう考えているのか,それを共有してもらうことも元々のねらいだった。まさに私たちは図書館を,読む,調べる,借りる場所に加えて,考える場所であってほしいとの思いからこの企画を提案した。
(2) 参加型展示この展示は初めから完成したものではなく,参加者自身が付箋や模造紙に自分の考えを書き入れることで,参加者が一緒に展示を作り上げていく参加型の企画であった。「来場者の問いに対する投稿は日を追って増えていく,その投稿を見るのが面白い」「何度も楽しめる企画」と紹介されたように7),リピーターが多く,また本が展示に組み入れられたことも関係して,展示室での滞在時間が長かったのも特徴である。
(3) コミュニケーションできる場この企画は1階の特別展示室内にとどまらず,館内全体で連動展示を行った。2・3階の図書フロアでは「運命的な本との出会いはありますか?」「100年後の図書館はどうなっているでしょうか?」といった問いかけを掲げ,みんなの考えを付箋に書いて貼り付けてもらう参加型コーナーを用意した。図書館は利用者同士のコミュニケーションが取りにくい場所であるが,思いがけなく付箋上で利用者間のコミュニケーションが生まれたのは興味深い。
(4) 来館しても,来館しなくても,参加できる場当館公式の特設Webサイトで,問いかけの一部に自分の答えを投稿できるようにして,Webとリアル両方から,すなわち来館しても,しなくても参加ができる場を用意した。
(5) 一体感の創出,回遊性利用ショップでは展示の絵本や書籍を販売し(図4),レストランでは関連メニューを組み入れ,全館で連携した。来場者の回遊・相互利用を促進し,館全体で一体感を高めることを目指した。
このプロジェクトの準備チームが組まれたのは開館から1年3か月が経過したところで,開催までに半年を切る中で始まったが,開館後初めての部門を超えた大きな連携となった。
開館から1年間は,各部門は各自の領域を軌道に乗せることで精一杯だったが,2年目になりようやくこうした館内での部門を超えた全館での連携ができるようになったということでもあった。施設内部のML(Museum Library)連携に加えて,日本科学未来館と日比谷図書文化館の連携であり,学芸員と司書がそれぞれの専門性を出し合って,1つのプロジェクトをプロデュースしていった。図書館の中で完結するのでなく,日常的に図書館以外の機関と連携して事業を展開しているのが,この複合施設の特徴でもある。
図書館はこれまで主に,個人の学びや自立を支える知のインフラとして整備されてきたのではないか。読書や調べ物,本の貸出サービスを含めて,“個人”の利用を前提にデザインされてきた部分が多いが,こうした従来の設定にプラスして,個人の問題解決を超えた地域・集団を支えるソーシャルキャピタル(社会関係資本)を形成する場が21世紀の図書館には求められているのではないか。
図書館にビジネス支援が期待されるが,当館の利用者層は,区民が4%,区勤務者42%,隣接区(港・中央区)勤務者27%と,近隣のビジネスパーソンが7割近くを占め8),相談内容は多岐にわたり,多様なニーズがある。そこでレファレンスサービスや相談とは別に,知的好奇心をもってやって来る人を集めて,みんなで一緒に考え,新たな知を創造・発信していけるプラットホームとなる場を用意できないかと考えた。社会の変化が加速して先が見えにくく,また多様化が進む時代に,社会に考える場・協創の場が必要で,立場,年齢,専門を超えて,誰にでも開かれている公共図書館はその機能を担うことができる。
さらに目指したのは,図書館員側から働きかけて人を集めてサービスを仕掛けるという方向性を,図書館業務の中に組み入れることだった。
こうした考えにもとづいて企画した事例を2つ紹介しよう。
6.1 日比谷サステナブルビジネスプロジェクト1つは「日比谷サステナブルビジネスプロジェクト」である。「持続可能性」「生物多様性」「環境」をキーワードに,新たな経営戦略やグリーン・イノベーションを考えるビジネス視点に特化した講座として2013年から取り組みを開始した。千代田区が2009年に国から「環境モデル都市」に認定され,2013年には「ちよだ生物多様性推進プラン」が策定されたことに伴った,日比谷発の新しいビジネス支援の1つでもある。
2013年は,ランダース著『2052 今後40年のグローバル予測』(日経BP社,2013年)や講師として迎えた安井至氏の『地球の破綻』(日本規格協会,2012年)を教科書として読み解き,創発的なワークショップを展開した注9)。
参加者からは,「環境先進区の千代田区ならではの講座。企業・行政・学生などさまざまな人が集まるこうした講座はぜひ継続してほしい」「考えることに重きが置かれ,考えるきっかけを得た」といった声をいただき,講師からは,「図書館の参加者は多様な背景をもち,専門家が集まる学会などとは違った手応えがあった」との感想をいただいた。学会など一部の専門家の中だけで共有されていた知が図書館という一般に開かれた場に広がり,まさに知の循環拠点となって,新たな知を創出・発信して地域の問題を解決するプラットホームを用意しようという取り組みである。
また関連資料コーナーを特設し,書籍で学び,日比谷カレッジの講座で学ぶという,本と講座の連動も当館の特徴としている。資料の充実を含めた新たな展開が今後の課題である。
6.2 新しい図書館学もう1つは「新しい図書館学」シリーズで,図書館のこれからについて,専門家や関係者だけではなく,市民も一緒に公共図書館の現場で考えていこうという企画である注10)。一方的に聴いておしまいではなく,対話と議論を取り入れ,考えるきっかけを提供することを目的とした。この講座からは,参加をきっかけに新しい行動を始めたという報告が寄せられたり,参加者の中から自主的に交流会が結成され,定期的に活動が行われている事例など,つながりや成果が数々生まれている。
またこうした図書館をテーマとした講座では,図書館関係者よりも一般の参加者の方が多いのも特徴で,市民の図書館への関心の大きさを実感している。
「世界の図書館シリーズ」では2013年6月に,『知の広場 図書館と自由』(みすず書房,2011年)の著者アントネッラ・アンニョリ氏を迎え,図書館は広場のようにコミュニティーの中心にあるべきで,出会いの場,コミュニケーションの場,市民生活の場となることが大切であるとのアンニョリ氏の主張を参加者とともに共有した注11)。図書館があることは当たり前ではなく,図書館の存在意義やこれからのあり方を市民にも主体的に考えてもらう機会を用意して,図書館のファン・支持者としての意識を育んでいくことも,これからの図書館には求められていると考えている。
図書フロアでは,伝統的な資料の提供とともに,新しいメディアの導入も積極的に取り入れ,両者をバランスよく使える環境を目指している。デジタルで読み調べる新しいツールを用意し,利用を促進すると同時に,本を読む文化を守り,本の文化の価値を伝えていくことが,図書館の大切な役割であると考える。今や図書館は,読書や本に接する上質な環境を用意して,本と出会い,本の世界を多角的に楽しめる「本のテーマパーク」でもある。
当館は,2年7か月の休止期間があったことなどから,蔵書構築に継続性と一貫性を欠いた部分があり,蔵書整備は今なお最優先課題である。しかし,都立から引き継いだ資料にはすでに他の図書館には残っていない貴重なものも多く,「今あるもの」に付加価値を付けて生かし,日比谷だからこそ発信できる本の魅力を伝えようと,本の分類番号だけでない棚の編集にも力を入れている。
図書フロアの蔵書テーマは,オフィス街と官公庁の立地から「ビジネス情報」,当館にミュージアムがあり近隣に美術館や劇場なども多いことから「アート情報」(図5),そして地域資料の「江戸東京」を主軸とする。蔵書数は約17万冊(開架約10万冊)と決して多くはないが,1階のミュージアム特集に合わせて2階の図書フロアに本を並べたり,図書展示に合わせた講座を企画するなど,図書館機能と他機能との連動を館内で常に行っているのも特徴である。こうした連動を可能にしているのは全館の各部門が定期的に集まる連絡会議と日常のコミュニケーションである。
また千代田図書館など区内の連携も活発で,その他,内部で賄えない部分は,外部機関との連携で補い,情報の発信力を高め知的興味を喚起している。
では,図書フロアから発信している企画サービスの一部を紹介していこう。
(1) 図書展示×講座「統計調べ方講座」2013年は統計学が話題となった年であったが,統計資料の貸出・閲覧が少なかったことから,点在する統計関連資料を集約したところ,利用が急増した。さらにOECD(Organisation for Economic Cooperation and Development,経済協力開発機構),世界銀行,総務省と連携して講座を開催し,調べ方とともに,オンライン上でグラフやチャートに変換する方法,二次利用の仕方を学び,資料の提供に終わらない展開を用意した(2013年7月~11月)。
(2) OECD iLibrary利用サービスで,データ持ち帰りOK2015年2月末までの限定サービスで,持ち込みのPCやタブレットで「OECD iLibrary」フルデータ(ログインが必要なデータの閲覧と保存)が利用可能である。国立国会図書館では印刷は可能だが,当館ではデータの持ち帰り(保存)が可能で,公共図書館では初めての試みである(2014年3月~2015年2月)。
国際的なマクロ経済動向,学習到達度調査(Programme for International Student Assessment: PISA),幸福度の国際比較など,幅広い調査結果やデータ,OECDの姉妹機関(国際エネルギー機関[International Energy Agency: IEA],OECD原子力機関[Nuclear Energy Agency: NEA],国際交通大臣会議[International Transport Forum: ITF])の報告書が閲覧可能である。英語,フランス語の資料が中心だが,日本語の資料もある。持ち込んだPCやタブレット,館内で貸出を行っているiPadを使って,館内のLAN(無線,有線)からOECD iLibraryのサイトにアクセスすることで利用できる。
(3) iPad館内貸出2012年11月からiPadの館内貸出サービスを行っている。インターネット端末6台を固定席で用意しているが,iPadは館内ならデスクでも書架でも固定しないで使えるため満足度が高く好評である。そこで2014年4月より増加し5台になった。
現在はデータベースの「ジャパンナレッジLib」のほか,「朝日新聞デジタル版」と「日本経済新聞電子版」をiPadで閲覧できる。スペース上の制約から新聞紙面に盛り込めないコンテンツを,iPadの貸出サービスで閲覧することが可能である。その他,司書おすすめのアプリも搭載し,情報収集のレファレンスツールとして提供している(2012年11月~)。
(4) データベース市場調査,コンビニPOS(Point of Sales),家計調査などマーケティング情報の「Mpac」,約6,000社の企業情報,有価証券報告書,財務データの「eol」,行財政情報の「iJAMP」,法律情報の「Westlaw JAPAN」,「官報情報検索」や,各社新聞データベースを含め,ビジネス調査向けの15種類のデータベースが1日1回1時間(延長30分)利用可能である(2階カウンター受付要,利用無料,プリントアウト有料1枚20円)。
(5) 寄贈図書コーナー「アメリカンシェルフ」(2階常設)米国国務省・米国大使館と千代田区が友好親善・理解促進を目的に提携を結び,米国より企業情報・統計書・ビジネス書が寄贈されシェルフとして設置している。さらに毎年,米国図書館最新事情をテーマにした講演会を開催している(2013年4月~)注12)。
(6) 講座「出版社を知るシリーズ」×講座「帝国データバンク企業研究講座」×図書展示出版社の本づくりへの思いや,その歴史,未来の展望を,出版社の方から直接聞く講座で,2013年度は,1913年に創業し100周年を迎えたダイヤモンド社と岩波書店を取り上げた。
ダイヤモンド社の講座では,100年前に創刊された経済雑誌『ダイヤモンド』をめぐる人物を通して社会経済史を概観し,さらに100周年を記念してデジタル・アーカイブ化された『ダイヤモンド』誌を見ながら,デジタル時代の経済誌の役割を考えた(2013年4月)注13)。
関連展示として,当館所蔵のダイヤモンド社初期の本,たとえば,1930年刊の福澤桃介著『財界人物我観』や創業者石山賢吉の著作をはじめ,年代を追って展示した。同時に老舗企業に関する本や帝国データバンクの資料も並べた(2013年3月~7月)。
さらに企画を発展させ「帝国データバンク企業研究講座」として,老舗企業を分析して100年生き残る企業の条件などを考察した(2013年3月~5月)。
出版社について関心を広げるねらいで始めたが,同時に,出版社と図書館が一緒になって本の世界を盛り立てたいとの思いも込めている。
(7) 図書展示「ものづくりからfabricationの時代へ!」×講座×データベース紹介展示3Dプリンタの登場によって変化する新しいものづくりの動向を読み解く資料を,実際に3Dプリンタで作ったものと一緒に展示した(2013年12月~2014年2月)。6月には,FabLab Japan代表の田中浩也氏と芥川賞作家の平野啓一郎氏を迎え,「未来のモノづくり:3Dプリンタから始まる次の社会」と題する講演会で近未来の社会を考察し,展示「“3Dプリンタ”についてデータベースで調べてみたら…」を用意した。
(8) アート情報支援コーナー(3階常設)アート情報を「みる」「つくる」「まなぶ」「うごかす」「きおくする」の観点から分類し,アートの鑑賞,創作,教育,運営,記憶などに関するさまざまな情報を提供し,アートマネジメントやアート情報のネットワーク拠点を目指している(2013年2月~)。
(9) 特別展「藤田嗣治 本のしごと:日本での装幀を中心に」×講座「書物美の世界」×図書展示1階特別展示室において2013年春に開催した特別展「藤田嗣治 本のしごと」では,日本の画家の装画や,英国の大量生産ではない時代の製本に関する講座を「書物美の世界」として用意した。図書フロアでは,装丁に関する本を並べて,館全体で同一テーマを扱った。本の装丁や製本,紙の感触を楽しむ機会も,ミュージアムのある図書館として重視している(2013年4月~6月)。
以上,主に図書部門の企画サービス活動について,その一部を紹介してきた。最後に当館の成果,今後の課題,展望について述べたい。
これまで館全体として実に多様な面を打ち出してきた中で,「図書館はいつの間にか,なかなか面白そうな場所に,変貌していたのだ」9),「情報の拠点だけでなく,つながりの拠点に」10)と紹介され,既存のイメージを変え,新たな機能をもった文化施設を形成してきた。
開館から2014年3月までの2年4か月間に全館で,図書展示150本(小展示は除く),日比谷カレッジ320講座を超え,ミュージアム展示11本を実施してきた注14)。
当館では,日比谷カレッジの参加料を参加者に一部ご負担いただいている。その結果,たくさんの催しをバラエティーに富んだ内容で実施でき,好評である。こうした講座の参加料と会場貸出の事業収入で運営費の2割を補い,円滑な事業の推進に寄与している。
また,図書館には新しいスキルや開発力が必要であるが,司書や学芸員資格はもちろん,専門性をもった人材を集め,グラフィックデザインや編集,営業などのさまざまな経験や,新しい発想が生かされる体制を作っている。指定管理者制度の強みでもあるだろう。
今後の課題は,当館のサービスの中心となる図書館機能の充実であり,引き続き各部門と連携し,利用層と地域のニーズにあった企画サービスを展開し,量よりも質の向上を目指す。
また,公共図書館1館当たりの資料費がピークの1998年に比べ2013年には4割減少という注15)全国共通の厳しい状況の中で,蔵書を更新し当館のテーマに沿った蔵書構築を行っていくことも,大きな課題である。資料収集と情報発信を充実させていくことで,当館の特性をより一層強固なものにしていきたいと考えている。またセカンドオフィスとしての快適性や,情報や人とつながる拠点を目指した取り組みも進めていきたい。
開館時から館全体として「日比谷ブランド」の形成を目指し,日比谷の利用層に向けたテーマやメニューを用意することで,来館を促しリピーター率を上げ新規利用層も増やしてきたが,さらに認知度を上げ,当館の利用の価値を広めたい。
100年の歴史と伝統を受け継ぎ,変えてはいけない部分と変えるべき部分を見極め,都心区千代田の21世紀にふさわしい知の拠点として前進していきたい。
所在地:東京都千代田区日比谷公園1-4
休館日:毎月第3月曜,年末年始12/28~1/3,特別整理期間
開館時間:平日10時~22時 土曜10時~19時 日曜10時~17時
貸出券:千代田区立図書館の貸出券で図書の貸出が可能である。全国どなたでも住所・氏名・生年月日を確認できるものをご持参いただければ発行する。
7,8月講座報告(http://hibiyal.jp/blog/?p=1354)(http://hibiyal.jp/blog/?p=1372.)
週刊読書人. 2013-09-13. p. 7に取材記事掲載.
11月講座報告(http://hibiyal.jp/blog/?p=2185)(http://hibiyal.jp/blog/?p=2356.)
週刊読書人. 2013-12-13. p. 10に取材記事掲載.
日比谷カレッジ 過去の講座(http://hibiyal.jp/hibiya/college_03.html)
日比谷図書文化館ブログ(日比谷カレッジ報告)(http://hibiyal.jp/blog/)
ミュージアム 過去の展示会一覧(http://hibiyal.jp/hibiya/museum_02.html)