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リレーエッセー
つながれインフォプロ 第10回
金澤 敬子
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2014 年 57 巻 4 号 p. 276-278

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ロー・ライブラリアン研究会とは

ロー・ライブラリアン研究会1)(通称,LL研)は,法情報提供サービスに関心をもつ,図書館員や大学教員を中心としたメンバーによる研究会である。研究会の発足は2004年6月であり,昨年ちょうど10年の節目を迎えたことになる。

「ロー・ライブラリアン(法律図書館司書)」という名称は,わが国においてどれほど浸透しているのだろうか。LL研は,「司法サービスを情報提供という側面からとらえ,市民の司法サービス利用を援助する職種として,法律関連情報や司法サービスに関する情報などを取り扱う専門職の可能性を我が国において検討するべく立ち上げられた」2)

法情報は難しい,と言われる。この難しさには,「法情報を入手する難しさ」と「法情報を利用する難しさ」があるように思う。

まず,法情報を入手することは難しい。わが国において,法令情報や判例情報などの一次的法情報は「知的公共財」である,あるいは一般市民に対して法情報へのアクセス権を保障すべきである,といった認識が欠けていたためか,インターネットの普及により,ようやく公的機関によって法令や判例が提供されるようになったものの,現在においても提供が十分であるとはいえない状況である3)

また,法情報を利用することも難しい。たとえば,法令を公布するために国が発行している『官報』を手に取ってみれば,その内容を理解することの難しさを実感するに違いない。法情報は“ただそこにある”だけでは,アクセスが保障されたとはいえないのである。

司法制度改革が進められている今,LL研では,法情報とその利用者をつなぐ人―法情報サービスの担い手が必要とされていると考え,その人材の養成や社会的地位の確立に関する調査研究を積み重ねてきた。

ロー・ライブラリアン研究会のこれまで

LL研の主な活動は,月1回(おおむね第3金曜日)の定例会である。参加しやすいよう,時間は午後6時半頃開始とし,場所はここ数年國學院大學(東京都渋谷区)の教室をお借りしている。参加人数は毎回15名前後で,大学等の図書館員や大学教員,出版社・データベース会社・書店などの企業関係者,行政書士等と幅広い職種の方々が参加している。定例会のテーマは,会員から意見を募るかたちで決定され,会員の報告のほか,外部からゲストをお招きして意見交換を行うことも多い(1)。

表1 ロー・ライブラリアン研究会2013(平成25)年度月例会内容
開催時期 開催内容
2013年4月 「図書館法情報ページの調査について」
報告:田村英彰会員(国立国会図書館)
2013年5月 「最高裁調査官のしごと」
講演:木谷明様(弁護士,元裁判官,元法政大学法科大学院教授)
2013年6月 「AAS2013年次大会参加とカリフォルニア州公文書館見学のご報告」
報告:中網栄美子会員(早稲田大学法務教育研究センター)
「図書館法情報ページの調査について(その2)」
報告:田村英彰会員(国立国会図書館)
2013年9月 「図書館法情報ページの調査について(その3)」
報告:田村英彰会員(国立国会図書館)
2013年11月 「ライブラリアンシップの向上と研究学習支援職のこれから」
講師:時崎通子様(紀伊國屋書店LS営業本部LS人材開発課)
2013年12月 「議員サービスの最前線~汗を流し,足で稼ぐ議事堂内図書館」
講師:塚田洋様(国立国会図書館関西館)
2014年1月 「アメリカ西海岸法律図書館見学のご報告」
報告:小澤直子会員(國學院大學法科大学院)金澤敬子会員(成城大学法学資料室)
2014年2月 「困難を抱えた人々への法的支援の今後―法情報提供の課題―」
講師:大石哲夫様(日本司法支援センター)

定例会の風景(2014年5月23日撮影)

研究会後は懇親会を行うことが恒例となっており,会員間の交流や情報共有に一役買っている。

LL研が活動の中で大事にしていることは,研究会が会員の自己研鑽(けんさん)やコミュニケーションの場として機能することとともに,その成果を発信すること,社会に還元していくという姿勢である。そのための主な活動として,①講演活動―図書館総合展にてフォーラム主催,②執筆活動―指宿信編『法情報サービスと図書館の役割』(勉誠出版,2009年)や本誌連載「研究・実務に役立つ!リーガル・リサーチ入門」注1),③研修活動―2010年に図書館振興財団の助成を受けて全国6か所の公共図書館で会員が法情報調査入門の講師を務めた「『法情報コンシェルジュ』養成講座」などがある。

ロー・ライブラリアン研究会のこれから

LL研で現在力を注いでいる活動は,主に2つある。1つ目は,先にあげた本誌連載の単行本化である。今年度に入って,会員の奔走により日本図書館協会から出版されることが決定した。その準備のため,都内で合宿を行い,会員同士が切磋琢磨(せっさたくま)することにより内容のさらなる充実をはかっていく予定である。

2つ目は,研修交流事業「法情報提供サービス入門」である。主に公共図書館員を対象として,法情報調査の基礎を学ぶ場をつくるとともに,人材交流をはかることを目的としている。開催は月2回程度,主に東京都区内で継続的に行うことを計画している。1回で完結していた「法情報コンシェルジュ養成講座」の姉妹編といったところである。公共図書館における法情報サービスへの取り組みは全国で行われているが4),この事業が公共図書館を通じて社会への法情報提供サービスの一助になることを期待している。

ロー・ライブラリアン研究会の活動から得たもの

私がLL研に参加するようになったのは,2009年からである。同年7月に行われたLL研の公開セミナー「法情報へのアクセス拠点としてのライブラリ」に参加したのが最初であった。その後,勤務先で行われていた定例会に,会員の先輩が誘ってくださったのがきっかけで,いつの間にか会員になっていた次第である(会員になるための手続きは特になく,参加費は年1回程度の茶菓子代である)。参加した当初は,セミナーやフォーラムで登壇されていた方や日常のレファレンス業務でお世話になっている本を執筆された方など,法情報学界で著名な方々が居並んでいるさまに緊張したものだったが,今となっては同じ志をもつ仲間になっているのだから感慨深い。現在は,事務局のような役回りで,活動が円滑に進むよう定例会の運営や懇親会の幹事などを担当している。

私にとってLL研での活動は,自己研鑽(けんさん)の場として得るものが多いと感じている。人材育成という点から,比較的経験の浅い会員でも,定例会での報告や執筆活動の機会をいただけることは非常にありがたいことである。私自身,今年1月に「アメリカ西海岸法律図書館見学のご報告」と題する報告をさせていただいた。勤務先の法学資料室拡充移転構想の参考とするため,見学した経験を報告する内容であった。この貴重な経験を多くの方々と共有したいという気持ちがあり,早速報告できたことはうれしく,またこれからの法学資料室像を探るうえでも意見交換ができたことは大変ありがたかった。また,先にあげた,本誌連載「研究・実務に役立つ!リーガル・リサーチ入門」の中の「第8回 判例評釈を探す」を執筆できたことも貴重な経験であった。原稿を書く作業を通じ,さまざまな資料を手に取り,先生方に教えていただき,正確な言葉で表現し,会員からさまざな意見・助言をいただいて,1つの記事としてかたちにすることができた。この経験は,日常業務に大いに活かされている。

日常業務と研究会活動の両輪を大切にすることでよい循環を生み,「インフォプロ」として社会還元できればと考えている。新たな場に飛び込むことは勇気がいるかもしれないが,本稿がその背中を押すささやかなきっかけになることを願っている。

執筆者略歴

金澤 敬子(かなざわ けいこ)

成城大学法学資料室勤務。

勤務先の拡充移転構想の参考とするため,国内外の法律図書館・図書室を中心に見学を続けている。

本文の注
注1)  連載:研究・実務に役立つ!リーガル・リサーチ入門. 情報管理. 2012, vol. 55, no. 7 ~ 2013, vol. 56, no. 9はhttp://johokanri.jp/journal/suggested/5/を参照。

参考文献
 
© 2014 Japan Science and Technology Agency
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