日本薬理学雑誌
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ミニ総説号 「プロスタグランジンを巡って-分子薬理から創薬まで-」
プロスタグランジンを巡って—分子薬理から創薬まで—
生殖生理とプロスタノイド
坪井 一人市川 厚
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2001 年 117 巻 4 号 p. 267-273

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抄録

プロスタノイドは, アラキドン酸からシクロオキシゲナーゼ(COX)を律速酵素として産生される多彩な生体作用を作つ生理活性脂質の総称であり, プロスタグランジン(PG)とトロンボキサンによって構成される.プロスタノイドは発熱や痛覚修飾といった病態生理と共に, 古くから排卵, 黄体退縮, 子宮収縮といった雌性の生殖生理にも深く関与することが指摘されてきた.近年, プロスタノイドの一連の合成酵素や受容体のcDNAクローニングにより遺伝子欠損マウスの解析が可能となり, それぞれの酵素のアイソフォームや受容体サブタイプのレベルでプロスタノイドが個体の中でいかなる生殖生理作用を発揮しているのかが明らかとなりつつある.すなわち, 妊娠後期ではCOX-1により合成されるPGFが卵巣黄体の退縮を介してマウスの分娩誘導に必須であることが判明した.さらに, PGF受容体欠損マウスでは分娩異常に伴い, 野生型の分娩時に子宮筋層で見られるCOX-2の発現誘導が認められず, COX-2がおそらく子宮収縮を担うPGの産生に関与することが示唆された.また, 妊娠前期においてはCOX-2により合成されるPGE2がEP2受容体を介して卵丘細胞のexpansionを引き起こし, 卵丘細胞の機能発現を介して排卵·受精に重要な役割を持つことが明らかとなった.こレらの知見は, 生殖領域でプロスタノイドの合成酵素や受容体を標的とした新規薬物の創製の際に基礎的知見として貢献するのみならず, 他領域の薬物においても生殖系における副作用発現を考える上で考慮されるべきであると考えられる.

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