日本薬理学雑誌
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総説
肝細胞増殖因子(HGF)の機能と産生制御
合田 榮一
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2002 年 119 巻 5 号 p. 287-294

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抄録

肝細胞増殖因子(HGF)は初代培養肝細胞の増殖を強く促進する因子として精製されたサイトカインであり,肝臓の旺盛な再生力を支える肝再生因子の有力な候補である.HGFは増殖因子としては大きく,分子量約6万の重鎖と約3.5万の軽鎖がジスルフィド結合したヘテロダイマーの構造をもつ.ヒトHGFはプラスミノーゲンと相同性を有する728アミノ酸残基の1本鎖前駆体として合成された後,N末端シグナルペプチドの除去,細胞外への分泌を経て,HGFアクチベーター叉はウロキナーゼ(u-PA)などにより2本鎖に切断され活性型となる.HGFは初代培養ラット肝細胞の増殖を10 pMの低濃度から促進し,その他の様々な上皮系細胞,内皮細胞,一部の間葉系細胞の増殖も促進する.また,ある種のがん細胞の増殖を逆に抑制し,アポトーシスを誘導することもある.さらに,細胞運動性亢進作用,管腔形成などの形態形成誘導作用,抗アポトーシス作用,血管新生作用および免疫応答調節作用なども有する.HGFの受容体はがん原遺伝子c-metの産物でチロシンキナーゼ活性をもち,HGFの多様な生物作用はc-Metを介して発揮される.肝再生時には肝DNA合成誘導に先行して肝,脾,肺のHGF遺伝子発現の増加並びに血中,肝中HGFレベルの上昇が認められ,抗HGF抗体の投与により肝再生が抑制される.培養細胞におけるHGF産生はPKC活性化薬,cAMP上昇薬,PKA活性化薬,種々の増殖因子,炎症性サイトカインなどにより誘導され,TGF-β,グルココルチコイド,活性型ビタミンD,レチノイン酸などによって抑制される.様々な細胞に対する強力な増殖促進作用を利用してHGFを肝硬変や慢性腎不全,肺線維症,心筋梗塞,閉塞性動脈硬化症など各種難治性臓器疾患の治療薬として応用できる可能性を示す報告が多数なされている.また,血清および血漿HGF定量ELISAキットは肝炎劇症化の予知のために用いられている.

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© 2002 公益社団法人 日本薬理学会
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