日本薬理学雑誌
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ミニ総説号「Heat Shock Protein (HSP) の薬理学への応用:創薬への可能性」
分子シャペロン誘導剤を用いた消化器疾患の治療戦略
六反 一仁
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2003 年 121 巻 1 号 p. 15-20

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抄録

熱ショックタンパク質(HSP, heat shock proteins)は,種々のストレスに反応して細胞内にすばやく合成され,ストレスに対して強力な抵抗力を誘導する.このHSPの臨床応用を目指した研究が始まってから10年以上が経過した.この間,HSPの構造と機能の解析が進み,HSPは,ストレス応答に加え分子シャペロンと総称される機能を介して,細胞内タンパク質の品質管理,情報伝達,さらには,細胞外タンパク質としての機能まで,多岐にわたる役割をもつことが明らかにされた.HSPのなかでも,強力な細胞保護作用を誘導するストレス誘導性Hsp70を安全に,選択的に誘導する化合物として,geranylgeranylacetone(GGA)が登場した.GGAは日本で最も多く服用されている胃粘膜保護薬であるが,胃以外の臓器でも,脳,心臓,肝臓,小腸をはじめその効果が動物実験で報告されている.また,国内外でのGGA研究の広がりを通じて,新しい薬理作用も明らかにされつつある.例えば,チオレドキシンや抗ウイルス遺伝子の発現を誘導する作用も報告された.さらに,分子シャペロンの新しく発見された機能に関連して,例えば,小胞体ストレスやfolding diseasesと総称される細胞内の異常たんぱく質の蓄積を主体とする疾患においても,GGAの有効性を検証する必要がある.これからの課題として,例えば,小胞体シャペロンのように,特定の場所で特定の標的タンパク質と相互作用する分子シャペロンをターゲットにした薬剤の開発も魅力的な研究課題と思われる.こうした情勢を踏まえ,分子シャペロン誘導剤の第1号として登場したGGAの現状と問題点を解説し,新たな分子シャペロン誘導剤の可能性について解説した.

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© 2003 公益社団法人 日本薬理学会
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