日本薬理学雑誌
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受賞者講演
炎症性疾患に関わる腫瘍壊死因子(TNF)の産生·放出
秀 和泉
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2003 年 121 巻 3 号 p. 163-173

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抄録

腫瘍壊死因子(TNF)はIL-1,IL-6と並ぶ強力な炎症性サイトカインである.最近,クローン病や関節リウマチなどの慢性炎症性疾患において抗TNF療法が著しい効果を示すことから,これらの疾患の病態形成においてTNFの果たす役割の重要性はさらに確実なものとなった.末梢組織における主要なTNF産生細胞はマクロファージであるが,マスト細胞から放出されるTNFはアレルギー性炎症反応の引き金となるとともに,細菌感染時の生体防御に主要な役割を果たす.また,中枢のTNFは主にミクログリアが産生し,炎症性組織破壊や神経変性などに密接に関わる一方,神経保護作用も発揮する.このようにTNFは悪玉·善玉の二面性を示すが,本来生体保護を担うTNFが刺激により過剰に誘導された結果,その有害作用が前面に現れるものと考えられる.従って,TNF産生·放出の制御は薬物療法のための新たな標的となりうる.しかし,TNF自体の作用については数多くの報告があるものの,TNF産生·放出の細胞内外の仕組みについてはほとんど解明されていない.本研究では,マスト細胞とミクログリアに焦点を当て,TNFの産生·放出メカニズムを検討した.まず,マスト細胞においては抗アレルギー薬がヒスタミン遊離よりも強くTNF遊離を抑制することを見出し,さらにTNFは産生されたのち放出される過程もシグナル制御を受け,この過程にはPKCαが関与する可能性を示した.一方,開口放出を制御する低分子量Gタンパク質Rho GTPase(少なくともRac)は抗原刺激からCa2+依存性PKCβI活性化を介してTNF遺伝子転写に至る初期シグナルに関与することを示した.また,脳傷害時に大量に放出されるATPがミクログリアからTNF遊離を引き起こすことを見出し,さらにこの効果にはイオンチャネル型P2X7受容体とMAPキナーゼ(ERK,JNK,p38)が重要であること,そのうちERK,JNKは遺伝子転写に関与する一方,p38はmRNAの核外輸送を制御すること,さらにP2X7受容体はイオンチャネルとは独立した機序でp38とJNKの活性化を担うことなどを明らかにした.これらの細胞特異的なTNF産生·放出メカニズムを明らかにすることから,炎症疾患のエフェクター細胞をターゲットとした新しい創薬への基礎を形成できるものと期待される.

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© 2003 公益社団法人 日本薬理学会
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