日本薬理学雑誌
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受賞者講演
血管病変におけるキマーゼの役割とキマーゼ阻害薬の有用性
高井 真司
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2003 年 122 巻 2 号 p. 111-120

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抄録

ヒト,サルおよびイヌの血管組織において,アンジオテンシンIIは,アンジオテンシン変換酵素(ACE)に加えてキモスタチンに感受性を持つ酵素(CAGE)により産生されることが知られていた.筆者らは,このCAGEを精製し,酵素学的特徴を明らかにすることにより,CAGEをキマーゼと同定した.正常の血管組織に存在するキマーゼは,肥満細胞顆粒中に酵素活性を持たない状態,つまり,アンジオテンシンII産生能力を持たない状態で貯蔵されている.しかし,バルーンカテーテルによる傷害やグラフトされた血管組織では,肥満細胞からキマーゼが放出され,アンジオテンシンIIを産生する酵素として機能する.臨床試験において,経皮的冠動脈形成術後の再狭窄予防がACE阻害薬では無効であったが,アンジオテンシンIIタイプ1(AT1)受容体拮抗薬では有効であった.イヌのバルーン傷害モデルにおいても臨床試験同様に,傷害後の内膜肥厚予防は,ACE阻害薬では無効で,AT1受容体拮抗薬では有効であった.そして,この内膜肥厚抑制効果は,キマーゼ阻害薬でも確認された.イヌ静脈グラフトモデルにおいては,グラフトした静脈の内膜面積,組織アンジオテンシンII濃度,細胞外マトリックスの遺伝子発現が増加したが,キマーゼ阻害薬は,これらすべてを顕著に抑制した.また,キマーゼ阻害薬によるグラフト血管の狭窄予防効果は,長期間にわたり有効であった.したがって,グラフト血管のキマーゼ活性の抑制は,長期にわたるグラフト狭窄予防に有効であると考える.一方,キマーゼ阻害薬は,ACE阻害薬やAT1受容体拮抗薬とは異なり,傷害された血管局所で活性化されたキマーゼのみを抑制するため,アンジオテンシンII産生を抑制するにも関わらず,降圧などの全身性の作用が少ない.このように,キマーゼ阻害薬は,傷害された血管で亢進する局所アンジオテンシンII産生のみを抑制する新たな血管保護薬として期待されている.

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