日本薬理学雑誌
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ミニ総説号「PPARγの生理機能から創薬まで」
PPARγとアディポネクチンによる糖·脂質代謝制御メカニズムの解明
加門 淳司山内 敏正寺内 康夫窪田 直人門脇 孝
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2003 年 122 巻 4 号 p. 294-300

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抄録

脂肪組織の増加によりおこる肥満は,2型糖尿病,高脂血症,高血圧など,動脈硬化の原因となる代謝異常症候群の原因となる.そこでまず脂肪細胞分化に重要な役割を果たすPPARγの2型糖尿病,インスリン感受性に対する作用について検討をおこなった.PPARγヘテロ欠損マウスと,PPARγアゴニストを投与した糖尿病モデルKKAyマウスにおいて,高脂肪食負荷による脂肪細胞の肥大化とインスリン抵抗性惹起が抑制された.詳細な検討の結果,PPARγの高度活性化および中等度活性低下により脂肪細胞のサイズが小型化すると,TNFα,レジスチン,脂肪酸といったインスリン抵抗性惹起分子の発現·分泌が低下し,アディポネクチン,レプチンといったインスリン感受性改善分子の発現·分泌が増加していた.これらの変動により,骨格筋,肝臓内の中性脂肪含量が低下し,良好なインスリン感受性を獲得したと考えられた.続いてインスリン感受性改善分子アディポネクチンの抗糖尿病作用について検討を加えた.脂肪萎縮性糖尿病マウスやKKAyマウスといったアディポネクチンが消失もしくは低下しているモデルへのアディポネクチンの投与により,インスリン抵抗性·高中性脂肪血症が改善された.さらに,レプチン欠損により肥満·糖尿病をきたすob/obマウスとアディポネクチントランスジェニックマウスを交配したアディポネクチントランスジェニックob/obマウスでは,体重には影響が認められなかったが,インスリン抵抗性,糖尿病が改善された.アディポネクチンは骨格筋において脂肪酸燃焼を促進するPPARα,および脂肪酸燃焼と糖取り込みを促進するAMPキナーゼを活性化し,中性脂肪含量低下,糖取り込み活性化により,骨格筋におけるインスリン抵抗性を改善させる.肝臓においてもPPARαおよびAMPキナーゼを活性化することで,中性脂肪含量を低下させるとともに,AMPキナーゼ活性化を通じて肝糖新生関連酵素PEPCKおよびG6Paseの発現を低下させて肝糖新生を抑制し,肝臓におけるインスリン感受性を改善する.以上より,(1)PPARγは脂肪細胞の肥大化とインスリン感受性の制御に中心的な役割を果たしていること,(2)アディポネクチン経路の増強がPPARγヘテロ欠損マウスにおける良好なインスリン感受性の一因であること,(3)アディポネクチン経路の増強は,2型糖尿病や代謝異常症候群といった肥満を原因とする疾患に対する新規治療法の確立に結びつくこと,が明らかとなった.

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