日本薬理学雑誌
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実験技術
脂質ラフトとその解析法
中畑 則道大久保 聡子
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2003 年 122 巻 5 号 p. 419-425

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抄録

細胞膜は,均一な脂質二重膜ではなく,特徴あるいくつかの脂質が集合したマイクロドメインを形作っていることが明らかにされてきた.マイクロドメインとしてはカベオラ構造や脂質ラフト構造が知られており,それらはコレステロール,糖脂質やスフィンゴミエリンに富んでいる.カベオラ構造はカベオリン(caveolin)と呼ばれる膜の裏打ちタンパク質によって,比較的安定な構造を持つのに対し,筏(いかだ/ラフト)という意味で提唱された脂質ラフト構造は,生成と崩壊を繰り返すダイナミックなドメインと考えられている.これらマイクロドメインには多くの生理活性物質の受容体やGタンパク質などが存在することが見出されており,細胞膜における情報変換の中心的な部位である可能性が示唆されている.これらマイクロドメインは低温のトリトンX-100に不溶性であることから,その分離にはトリトンX-100処理した細胞ホモジュネートをショ糖密度勾配遠心にかけると低密度画分に回収されることが利用されている.一方,カベオラや脂質ラフトに存在するコレステロールは,それらの構造を維持する役割を担っており,メチル-β-シクロデキストリンやフィリピンなどのコレステロール除去剤を処理することによって失われる細胞機能を解析することにより,カベオラや脂質ラフトで行われる生理反応を理解する試みがなされている.一方,脂質ラフトに存在する膜タンパク質をグリーン蛍光タンパク質(green fluorescent protein: GFP)で標識して細胞に発現させ,蛍光顕微鏡やレーザー顕微鏡にて解析する方法も用いられ,生きた細胞のままで脂質ラフト内でのタンパク質の動きが調べられている.脂質ラフトは単一な構造体ではなく,多くの亜系が存在すると考えられている.今後の研究の進展により,脂質ラフトの詳細な生理的な役割が明らかにされることが期待される.

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© 2003 公益社団法人 日本薬理学会
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