日本薬理学雑誌
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ミニ総説号「チロシンキナーゼの標的治療薬」
慢性骨髄性白血病と消化管間質腫瘍の治療薬としてのチロシンキナーゼ阻害薬
中島 元夫都賀 稚香
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2003 年 122 巻 6 号 p. 482-490

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抄録

慢性骨髄性白血病(CML)患者の白血病細胞に発見されたPhiladelphia染色体は,9番染色体と22番染色体の間における転座により作られ,この異常染色体に発現するキメラ遺伝子がコードするタンパク質は,細胞質内に発現されるBcr-Ablチロシンキナーゼである事が判明している.このチロシンキナーゼを癌分子標的とした特異的阻害物質の研究からCML治療薬STI571(メシル酸イマチニブ)が生まれた.STI571はAblキナーゼのATP結合部位に競合的に結合してキナーゼ活性を阻害するが,PKC阻害化合物の骨格である2-アミノフェニルピリミジンを基本構造とした誘導体であり,選択性,安定性と溶解性を高め,経口投与が可能な形に分子設計された.CMLに対する臨床試験においてSTI571は慢性期,移行期,急性転化期のいずれにおいても顕著な奏効を示し,慢性期では90%以上の症例で血液学的寛解を示した.このチロシンキナーゼ阻害薬は膜受容体型チロシンキナーゼであるc-Kitに対しても同様な優れた阻害活性を示すことから,リガンド非依存的に活性化される異常なc-Kitの発現が主な原因と考えられている難治性の消化管間質腫瘍(GIST)に対しても臨床試験が行われた.転移があるc-Kit陽性GISTでは50%以上の症例で有効性が認められた.その結果80以上の国々でCMLとGISTに対する治療薬として使われている.Bcr-Ablもc-KitもATP結合部位の変異によってSTI571に対して耐性を示すため,これらを規定する遺伝子情報に基づいた治療計画が可能となるであろう.また耐性克服のために,変異遺伝子情報に基づいた新たな創薬が期待される.

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© 2003 公益社団法人 日本薬理学会
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