日本薬理学雑誌
Online ISSN : 1347-8397
Print ISSN : 0015-5691
ISSN-L : 0015-5691
ミニ総説号「チロシンキナーゼの標的治療薬」
EGFRチロシンキナーゼ阻害薬ゲフィチニブ(イレッサ®)と癌
矢野 誠一山口 基徳董 瑞平
著者情報
ジャーナル フリー

2003 年 122 巻 6 号 p. 491-497

詳細
抄録

非小細胞肺癌をはじめとする多くの悪性腫瘍でEGFRの発現あるいは過剰発現が報告されている.EGFR発現腫瘍は,同非発現腫瘍に比べて高い増殖能および転移能を示すこと,従来の化学療法や放射線療法に抵抗性を示すこと,あるいは予後不良であることなどが知られている.ゲフィチニブはEGFRチロシンキナーゼ(EGFRTK)を選択的かつ強力に阻害する薬物である.本薬はヒト外陰部腫瘍A431ヌードマウス移植系において,c-fos mRNAの発現を用量依存的かつ可逆的に阻害し,ヒトDCIS組織ヌードマウス移植系ではKi67を有意に低下させた.本薬はin vitro系でヒト口腔扁平上皮癌KBのP21cip1/waf1およびp27kip1発現を濃度依存的に誘導し,cdk2活性阻害により細胞周期をG1期で停止させた.また各種腫瘍細胞培養系,ヒトDCISヌードマウス移植系および臨床試験の皮膚バイオプシー検体で本薬のアポトーシス誘導作用がみられた.本薬はEGFRのシグナル伝達阻害を介してVEGFの分泌抑制をもたらし,2次的に血管新生抑制作用を示した.本薬はKBおよびHUVEC培養系で,EGF刺激によるこれら細胞の増殖を選択的かつ強力に阻害した.またヌードマウス移植系において,非小細胞肺癌,前立腺癌,大腸癌,卵巣癌など各組織由来の腫瘍に対して幅広い抗腫瘍スペクトラムを示した.さらに既存の化学療法に抵抗性の非小細胞肺癌患者を対象とした臨床試験でも,本薬の有効性および安全性が確認され,現在臨床の場で使用されている.本薬の薬効と腫瘍組織のEGFR発現レベルには相関性はみられず,現時点では本薬の感受性因子は明らかにされていない.今後ゲフィチニブをはじめとするEGFRTK阻害薬が癌治療の場でより効果的に使用されるためには,この感受性因子の解明が課題となる.

著者関連情報
© 2003 公益社団法人 日本薬理学会
前の記事 次の記事
feedback
Top