日本薬理学雑誌
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ミニ総説号「チロシンキナーゼの標的治療薬」
VEGFR阻害薬と血管新生
渋谷 正史
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2003 年 122 巻 6 号 p. 498-503

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抄録

我々脊椎動物は閉鎖血管系をもっており,個体の発生や成長は血管系に強く依存している.さらに,近年,固形がんや糖尿病性網膜症,関節リウマチなど多くの疾患の悪性化の過程に,病的血管新生が非常に重要な役割を果すことが明らかにされてきた.血管系を制御するシグナル伝達系に関して多くの研究が行われた結果,極めて重要な因子としてVEGF(血管内皮増殖因子)やアンジオポエチン,エフリンなどの諸因子が関与していることが明らかとなった.なかでもVEGFとそのチロシンキナーゼ受容体(VEGFR-1,-2)システムは,生理的血管新生のみならず多くの病的血管新生において中心的役割を果している.VEGFR-2(KDR/Flk-1)は腫瘍血管などの形成に直接関与するのに対し,VEGFR-1(Flt-1)はマクロファージ系なども介して癌の転移や,炎症性疾患に深く関与する.従ってVEGF受容体のチロシンキナーゼを含むシグナル伝達を人為的に抑制できれば,疾患の進行を遅らせる点で臨床的に非常に有用と考えられる.既に,世界的にはVEGF-VEGFR系を標的にした薬剤開発が進行しており,それらのいくつかは動物実験レベルではかなり良い結果を示している.最終的に臨床に応用可能となるには,まだ多くの克服すべき課題が残されているが,この分野から新しい治療薬が開発されることを期待したい.

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