日本薬理学雑誌
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総説
血液脳関門の薬物透過と排出の分子機構
−中枢支援防御システム−
大槻 純男堀 里子寺崎 哲也
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2003 年 122 巻 1 号 p. 55-64

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抄録

血液脳関門(blood-brain barrier: BBB)は,血液と脳を隔てる関門組織として存在し薬物の脳への透過性を制限していることは,古くから認識されていた.近年のBBB研究の成果によって,BBBには栄養物質を脳へ供給する輸送系だけではなく,脳から血液方向の排出(efflux)輸送系の存在が明らかになり,それら輸送系の機能が薬物の脳移行性に大きな影響を与えていることが明らかになりつつある.血液から脳への輸送を行うinflux輸送系は,薬物を脳へ移行する通り道となる.BBBに発現するアミノ酸輸送系の一つであるsystem Lによって,L-DOPAは脳内に輸送される.また,一部の塩基性のµ-opioid peptide analogueは,BBBと電荷的相互作用を介したtranscytosisによって脳内に移行する.一方,排出輸送系によって排出されてしまうために脳内分布が低下してしまうケースも存在する.排出輸送に関わる分子としてATP-binding cassette(ABC)トランスポーターのABCB1(MDR1)が存在する.この輸送系は,ATP水解エネルギーを利用して,比較的脂溶性の高い薬物を血中に排出する.また,内因性物質の排出輸送系によっても薬物が脳から排出される.ドパミンの代謝物であるhomovanillic acidは,organic anion transporter 3(OAT3)が関与する排出輸送系によって脳から排出される.このOAT3が関与する排出輸送系によって6-mercaptopurineやacyclovir等が排出され脳への移行が制限されている可能性が示唆されている.また,BBBにはシナプスと同様にセロトニンやノルエピネフリンのトランスポーターが発現していることから,これらトランスポーターを阻害する抗うつ薬による相互作用が考えられる.現在,血液脳関門に発現し薬物の輸送に関わる輸送系や,薬物と相互作用する輸送系が徐々に明らかになりつつある.今後,このようなBBBの輸送系の解明は中枢作動薬の開発や中枢疾患の病因解明に重要な知見となるであろう.

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