日本薬理学雑誌
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ミニ総説「感覚系薬理の新展開」
痛覚系に関与するATP受容体
井上 和秀津田 誠小泉 修一
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2004 年 124 巻 4 号 p. 228-233

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抄録

ATP受容体はイオンチャネル型受容体のP2XファミリーとGタンパク質共役型受容体のP2Yファミリーに大別され,それぞれ7種類と9種類のサブタイプが報告されている.ATP受容体は,痛み刺激を受ける皮膚,痛み刺激を受けて活動電位を引き起こし脊髄まで伝達する後根神経節(DRG)ニューロン,DRGニューロンの入力先である脊髄後角ニューロン,さらに上位中枢神経系,そして脊髄内のDRGニューロンと後角ニューロン間シナプス周囲に分布するグリア細胞にも発現して,痛みの発生や変調に関わっていると考えられる.それぞれに発現するATP受容体サブタイプは異なり,例えば,正常ヒト表皮角化細胞ではP2Y2が最も高濃度に発現しており,細胞間情報伝達および皮膚-DRGニューロン間情報伝達を担っているようである.DRGニューロンにはP2X7を除く6種類のP2X型受容体と,P2Y1やP2Y2などが発現し,自発痛には主としてC-線維末梢端に発現するP2X3ホモマー受容体が関与し,急性メカニカル・アロディニア(異痛症:触・圧刺激を痛みと感じてしまう病態)発症にはAδ末梢端に発現するP2X2とP2X3によるヘテロマー受容体(P2X2/3)が関与していると考えられる.DRGニューロン末梢端のP2Y系は,Gq/PLCβ/DG/PKCカスケードによりTRPV1をリン酸化することによりその温度感受性を体温レベルにまで下げ,結果として熱感受性亢進による疼痛増強を引き起こす.さらに,P2Y2刺激はC-線維に依存するがTRPV1とは独立したメカニズムで強烈な持続性のメカニカル・アロディニアを惹起する.脊髄後角ではDRGニューロン中枢端に発現するP2Xの活性化によりグルタミン酸放出が増加し,痛み増強につながる.最近,神経損傷により脊髄後角のミクログリアが活性化し,そこに強度に発現したP2X4受容体の刺激が神経因性疼痛を引き起こすことが明らかとなり,注目を浴びている.

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© 2004 公益社団法人 日本薬理学会
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