日本薬理学雑誌
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ミニ総説「小胞体ストレス応答系と神経細胞死制御」
細胞種特異的小胞体ストレス応答
—アストロサイトに発現する新規小胞体ストレスセンサーOASIS
今泉 和則遠山 正彌
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2004 年 124 巻 6 号 p. 383-390

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抄録

小胞体ストレスは神経変性疾患の発症に密接に関わる.このような疾患の治療薬開発のためにも小胞体ストレス応答の全貌解明が望まれている.我々は小胞体ストレスに対し強い抵抗性を示すアストロサイトに注目し,その細胞で特異的に発現する新規小胞体ストレスセンサーOASISの同定に成功した.これまで小胞体ストレス応答の鍵分子である小胞体ストレスセンサー分子が哺乳細胞で3つ同定されている.すなわち,IRE1,ATF6,PERKである.これらは全ての細胞にユビキタスに発現するものと考えられている.アストロサイトには既存のストレスセンサー以外にグリア固有のストレスセンサーが存在し,そのセンサーからの情報伝達系がアストロサイトの小胞体ストレス抵抗性を生み出す根源であると考えた.我々が同定したOASISはストレスのない状態では小胞体膜上に存在する.一旦アストロサイトに小胞体ストレスが負荷されると,OASISはRIP(regulated intramembrane proteolysis)という現象によって膜内で切断され,切断された断片(CREB/ATF転写因子に共通するbZIPドメインを含む)が核内に輸送される.核内では小胞体分子シャペロンの転写制御に重要なシス配列,すなわちERSE(ER stress responsive element)およびCRE(cyclic AMP response element)に作用して分子シャペロンの発現を誘導する.このOASISを強制的に細胞に発現させると明らかに小胞体ストレスに対して強い抵抗性を示すようになることも明らかになった.以上の結果は,新規膜結合型転写因子OASISはアストロサイト特異的防御システムを活性化させるストレスセンサーであること,ならびにアストロサイトが他の細胞に比べてストレス抵抗性を示す理由がこの分子の存在にあることを示唆する.

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© 2004 公益社団法人 日本薬理学会
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