日本薬理学雑誌
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ミニ総説「小胞体ストレス応答系と神経細胞死制御」
小胞体の変性タンパク質処理系を介するニューロン死防御作用
金子 雅幸野村 靖幸
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2004 年 124 巻 6 号 p. 391-398

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抄録

小胞体ストレス(小胞体機能の障害に伴い,成熟不全タンパク質が小胞体に蓄積する)に対して細胞は様々な防御機構を作動させる.小胞体関連分解(ER-associated degradation: ERAD)では,小胞体の異常タンパク質が小胞体から細胞質に排出され,ユビキチン・プロテアソーム系により分解される.我々がクローニングに成功したHRD1(出芽酵母Hrd1pのヒトホモログ)はERADに関与するユビキチンリガーゼ(E3)で,小胞体膜に存在し,低酸素などの小胞体ストレスによって誘導される.さらに我々は,HRD1がC末端にあるPro-rich領域を介して,家族性パーキンソン病AR-JPの原因遺伝子であるユビキチンリガーゼParkinの基質の一つであるPael受容体(Pael-R)と結合することを見出した.そして,HRD1はPael-Rをユビキチン化し,その分解を促進すること明らかにした.さらに,ATF6やXBP1の過剰発現による小胞体ストレス応答の活性化がPael受容体の蓄積を抑制することを見出した.一方,ケミカルシャペロンと呼ばれる4-phenylbutyric acid(4-PBA)は,嚢胞性線維症などのフォールディング病に用いられている.我々は,4-PBAが神経芽細胞腫SK-N-MC細胞において,シャペロンの誘導を介さずに小胞体ストレスによる細胞死を抑制することを見出した.また,4-PBAは小胞体ストレスによって引き起こされる小胞体シャペロンの誘導や小胞体ストレスセンサーPERKの活性化を抑制することを明らかにした.さらに,4-PBAはPael受容体の凝集を防ぎ,Pael受容体蓄積によって起こる小胞体ストレスを抑制することを示した.以上より,HRD1などのERAD遺伝子を誘導する小胞体ストレス応答活性化薬物や4-PBAなどのケミカルシャペロンは,Pael-Rをはじめとした小胞体ストレス関連疾患の新たな治療薬の一つとなることが示唆された.

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