日本薬理学雑誌
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総説
ロイコトリエン・リポキシゲナーゼ代謝系と創薬
阿部 正義吉本 谷博
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2004 年 124 巻 6 号 p. 415-425

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抄録

ロイコトリエン・リポキシゲナーゼ系に関連した薬の中で最初に臨床的に確かな評価を得たのは,構造式の決定に長年の研究を要したslow reacting substance of anaphylaxis(SRS-A)を抑制するものであった.最初に抗喘息薬として登場したのは5-リポキシゲナーゼ阻害薬であったが,次に開発されたcysteinyl-leukotriene type 1 receptor(cysLT1R)拮抗薬が5-リポキシゲナーゼ阻害薬と同等以上の効果を示すこと,副作用が後者に比べて少ないことより抗喘息薬,抗鼻炎薬としてcysLT1R拮抗薬が世界的に広く使われるようになっている.ロイコトリエン代謝に関連する各酵素並びに受容体がクローニングされアレルギーや各種の炎症病態でのロイコトリエンの役割に関する分子レベルでの研究が進んでいる.例えばcysLTsの受容体には喘息の病態に重要であるcysLT1Rのほかに,未知の機能の受容体cysLT2Rが知られているが,その組織内分布の検討により心臓や脳組織に豊富に分布する事が明らかになってきた.従ってcysLTsが虚血性心疾患や不整脈の病態にも関与している可能性があり,また精神神経疾患への関与も示唆され,選択的cysLT2R拮抗薬が登場すれば大きな進展が期待される.リポキシゲナーゼ阻害薬に関しては,動脈硬化と5-リポキシゲナーゼの密接な関連を裏付ける研究,12/15-リポキシゲナーゼがlow density lipoprotein(LDL)のエスエル化された多価不飽和脂肪酸を酸化することができる等より,動脈硬化の進展に関与していることが考えられている.また15-リポキシゲナーゼは前立腺癌の抑制に関与していると報告されている.以上のように,ロイコトリエン・リポキシゲナーゼ代謝系は急性炎症のみならず慢性に進展する疾患まで広範な病態への関与が考えられ,今後とも新たな創薬の標的になり続けると考えられる.

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© 2004 公益社団法人 日本薬理学会
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