日本薬理学雑誌
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特集:イオンチャネル創薬―着眼点と新技術―
導入説明:イオンチャネル創薬の現状・特徴・課題
金子 周司
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2005 年 126 巻 5 号 p. 306-310

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抄録

イオンチャネル分子を標的とする薬物はその数こそ少ないが,これまでも優れた薬物が創出されている.しかしそれらは薬理作用の研究で作用点がたまたまイオンチャネルであることが分かってきたに過ぎず,先にイオンチャネルを標的と定めて薬物を創出してきた例は数少ない.イオンチャネルをコードする遺伝子の数の予測は,多数の薬物標的となりうるチャネル分子の存在を示唆しているが,ゲノム創薬的な手法が創薬の潮流を占めている現在においても,イオンチャネルを創薬標的とする機運は盛り上がらない.この原因として,内在性リガンドが存在しないことによる薬物設計の困難さ,細胞を用いた薬効評価が必要なためにスループットが高い評価系の開発が遅れたこと,さらに基礎研究においてイオンチャネルの機能解明が遅れてきたことを指摘することができる.しかし一方,イオンチャネルに対する薬効を詳細に検討すると,ヘテロマーやバリアントを含めた遺伝子表現型の多様性,アロステリック調節部位や細胞内調節ドメインの多様性,細胞の状態に依存した薬効強度の変化など,病態特異的に作用し,かつ多様な化学構造の薬物を設計するのに好都合な材料も見つけることができる.さらに,生細胞を用いたハイスループット評価系の中には,機能評価精度の高い電気生理学的な手法を応用する例が生まれてきており,ようやくイオンチャネル創薬を実行に移すためのインフラが整備されてきた.一例として神経薬理学領域で新しい薬理作用に基づく創薬が期待されている難治性疼痛や神経変性疾患を対象に考えてみると,最近では非常に多くの新しいイオンチャネルが創薬対象として十分な可能性を持っていることがわかってきた.薬理学研究者のもつ優れた研究手法によってイオンチャネルの創薬標的としてのバリデーションを推進する一方,製薬企業によって生み出される新しい低分子リガンドの発見によって,近い将来にイオンチャネルを標的とした多数の新薬の創出を期待したい. (注)NMDA受容体やP2X受容体のような明らかに内在性リガンドの存在するイオンチャネル共役型受容体は,ここではイオンチャネルに含めず受容体に含めているが,薬物作用点としてはチャネルポアも考えられるので各論においては含めている.また,イオンチャネルとトランスポータを合わせて膜輸送タンパク質と称しているが,イオンチャネルとトランスポータの境界も必ずしも明確でないので,ここではイオンチャネルという名称を象徴的に用いることにする.

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