日本薬理学雑誌
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総説
泌尿器領域における創薬:塩酸タムスロシンおよび塩酸ソリフェナシン
宮田 桂司
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2005 年 126 巻 5 号 p. 341-345

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抄録

排尿障害の代表的治療薬である塩酸タムスロシンおよび塩酸ソリフェナシンの研究開発を振り返り,いくつかのトピックを紹介する.塩酸タムスロシンは,いわゆる第二世代のα1受容体遮断薬であり,前立腺肥大症に伴う尿排出障害治療薬として1993年に上市された.塩酸タムスロシンは,当初,高血圧治療薬を目指して合成されたが,α1遮断作用が強いわりには降圧作用は弱かった.従って,抗高血圧薬としての開発を断念し,結局,排尿障害治療薬として開発を継続した.その後,受容体クローニング等,α受容体のサブタイプに関する研究が進展し,本剤のα1B受容体に対する親和性は弱く,α1Aおよびα1D受容体に対する選択性が高いことが判明し,尿排出障害治療薬として相応しいプロフィールを有していることが明らかとなった.さらに,標的臓器である下部尿路組織への移行性が高いことにより作用が持続し,加えて,徐放剤として開発することによって起立性低血圧等の副作用発現頻度を低く抑えたことも,成功の要因である.一方,蓄尿障害治療薬としては,比較的古くから抗コリン薬が用いられているが,口渇で代表される副作用の発現により,臨床の場における満足度は必ずしも高くはなかった.抗コリン薬は,主にムスカリンM3受容体を遮断することにより膀胱平滑筋を弛緩させ,蓄尿障害を改善するが,同じくM3受容体を遮断することにより唾液分泌を抑制し,消化管等の平滑筋も弛緩させることから,口渇や便秘を高頻度に発現する.従って,塩酸ソリフェナシンは創薬の初期段階から膀胱選択性の高いM3受容体遮断薬を目指して合成された.その結果,既存の抗コリン薬が膀胱選択性を示さないか,むしろ唾液腺に選択的であったのに対し,本剤は膀胱選択的なプロフィールを有することが判明した.さらに,ヒトにおいては代謝を受けづらいことから血漿中半減期が長く,バイオアベイラビリティも良好であり,優れた薬物動態(PK)プロフィールを有している.以上のように,創薬においては,薬効プロフィールもさることながら,PKプロフィールの重要性が増している.

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