日本薬理学雑誌
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新薬紹介総説
肺動脈性肺高血圧症治療薬,ボセンタン水和物(トラクリア®錠62.5 mg)の薬理学的特性と臨床効果
藤本 和巳池谷 理
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2005 年 126 巻 6 号 p. 407-418

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抄録

低分子量(非ペプチド性)のETA/ETB非選択的受容体拮抗薬であるボセンタンの薬理作用と臨床効果を紹介した.ボセンタンはラット胸部大動脈においてETA受容体を介したET-1誘発収縮を抑制し,ウサギ上腸間膜動脈およびラット気管においてETB受容体作動薬であるサラホトキシンS6c誘発弛緩および収縮反応をそれぞれ抑制した.また,ET-1の静脈内投与による降圧作用とそれに続く昇圧作用を抑制し,さらに,ET-1の前駆体であるBig ET-1による昇圧作用に対しても抑制作用を示した.自然発症高血圧ラットの大動脈平滑筋細胞および気管平滑筋細胞において本薬はET-1の細胞分裂促進作用を抑制した.さらに,一酸化窒素合成酵素阻害薬による昇圧反応を抑制した.これらの試験成績から肺高血圧症のような血管内皮機能障害に関連した疾患において,ボセンタンは血管内皮機能を改善し,血管緊張を低下させる可能性が示唆された.肺高血圧動物モデルである低酸素曝露およびモノクロタリン誘発肺高血圧ラットにおいて,本薬は肺動脈圧を低下させた.肺高血圧症発症前の予防的投与および発症後の治療的投与のいずれにおいても有効であった.肺高血圧ラットにおいて,本薬は肺動脈壁の肥厚および右室の肥大を軽減させ,慢性的な構造変化に対しても改善作用を示した.海外において肺動脈性肺高血圧症患者を対象に臨床試験が行われた.その結果,本薬はプラセボに比べ,6分間歩行距離,肺血行動態(平均肺動脈圧,心係数,肺血管抵抗,右心房圧および肺毛細管楔入圧)を有意に改善した.また,日本人の肺動脈性肺高血圧症患者を対象とした臨床試験においても,12週後までの観察において,肺血管抵抗,平均肺動脈圧,心拍出量,心係数および6分間歩行試験で有意な改善を認めた.本薬による肺血行動態パラメータの改善が,患者の運動耐容能および全般的な臨床症状の改善に寄与し,患者の生活の質の向上に貢献していることが確認された.さらに,海外で実施された本薬の2つのプラセボ対照無作為二重盲検試験と継続投与試験における24ヵ月投与時の生存率を検討した結果,NYHA分類IIIの原発性肺高血圧症患者においてボセンタン投与群は旧来の治療法の患者に比べ,生存率を改善することが確認された.以上から,ETA/ETB非選択的受容体拮抗薬であるボセンタン(トラクリア®錠)は中等~重症の肺高血圧症に対して経口投与で有効であり,長期投与においても,効果の減弱が少なく,生存率を改善させる薬剤として期待される.

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