日本薬理学雑誌
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実験技術
アトピー性皮膚炎治療薬の薬効評価
稲垣 直樹永井 博弌
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2006 年 127 巻 2 号 p. 109-115

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抄録

アトピー性皮膚炎は増悪と緩解とを繰り返す,掻痒を伴う湿疹を主病変とする疾患であり,患者の多くはアトピー素因を有する.近年,患者数が増大しており,成人重症例の増加は社会問題にもなっている.治療にはステロイド外用剤が繁用されているが,適切に使用されない場合も多く,重症化の一因ともなっている.掻痒はアトピー性皮膚炎のもっとも重要な症状の一つであり,掻痒によって誘発される掻破行動によって皮膚病変が増悪するので,掻痒抑制薬は有用な治療薬になるものと思われる.薬物の評価および新薬の開発には動物の病態モデルが重要な役割を果たす.アトピー性皮膚炎は多くの因子が発症に関わる複雑な疾患であるが,マウス皮膚に抗原を反復暴露して誘発するアレルギー性皮膚炎が病態モデルとして有用である.NC/Ngaマウスの耳殻皮膚にダニ抗原溶液を反復塗布すると,血中総IgEレベルの上昇とともに皮膚炎が誘発される.また,BALB/cマウスの皮膚にハプテンを反復塗布することによっても血中IgEレベルの上昇を伴う皮膚炎が誘発される.これらのマウスアレルギー性皮膚炎では,表皮の肥厚,真皮の腫脹,リンパ球および好酸球を中心とする炎症性細胞の浸潤,Th2サイトカインmRNAの発現などが認められるので,ヒトアトピー性皮膚炎の特徴の一部を再現していると思われる.また,臨床においてアトピー性皮膚炎の治療に用いられている薬物がこれらのマウスアレルギー性皮膚炎に対して抑制効果を発揮することから,ヒトアトピー性皮膚炎の病態モデルとしての有用性が示唆される.マウスの掻破行動は掻痒評価の指標として有用であると考えられるが,タクロリムスはハプテン塗布による皮膚炎誘発に伴って出現する掻破行動を強く抑制する.タクロリムスのマウス掻破行動抑制作用機序の解明は新しい掻痒抑制薬の開発に示唆を与えるものと思われる.

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