日本薬理学雑誌
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総説
抑制性神経伝達物質トランスポーターの薬理学
茂里 康島本 啓子
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2006 年 127 巻 4 号 p. 279-287

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抄録

GABA(gamma-aminobutyric acid)は中枢神経系に高濃度存在する抑制性の神経伝達物質として,高次神経機能に密接に関与している.シナプス間隙に放出されたGABAはイオンチャネル型GABAA受容体,GTP結合タンパク質共役型GABAB受容体を活性化し,GABAA受容体自身のCl-チャネルの開口,GABAB受容体を介したプレシナプスの膜電位依存性Ca2+チャネルの開口阻害やポストシナプスの内向き整流性のK+チャネルの開口を通じて抑制性の神経伝達を行う.一方グリシンはGABAと同様に抑制性の神経伝達物質であり,ストリキニーネ感受性のグリシン受容体に結合することにより受容体の内部のCl-チャネルが開口し,抑制性の神経伝達を行う.さらにグリシンは,興奮性のグルタミン酸作動性ニューロンに神経伝達修飾物質として作用する.本作用はNMDA型グルタミン酸受容体のグリシン結合部位にグリシンが結合し,グルタミン酸の結合を増強,アンタゴニストの結合を阻害,さらにNMDA受容体の脱感作を防ぐことにより発揮される.これらGABAおよびグリシンの再取り込みを行い,シナプス間隙での神経伝達物質の濃度維持,近傍シナプスへの神経伝達物質の流出阻止,生合成系への再補充,神経伝達機構の終了等の役割を果たしているのが,GABAトランスポーターおよびグリシントランスポーターである.GABAトランスポーターは4つのサブタイプ(GAT-1,BGT-1,GAT-2,GAT-3),グリシントランスポーターは2つのサブタイプ(GLYT1,GLYT2)がこれまでに知られている.GABAトランスポーターおよびグリシントランスポーターはいずれも12個の膜貫通部位を持つNa+/Cl-依存性トランスポーターであり,互いにそれぞれのファミリー間で約40%程度のホモロジーがある.両トランスポーターは基質1分子あたり2~3分子のNa+の流入,1~2分子のCl-の透過を起こす.またこれらとは別にLi+やK+を透過可能な陽イオン性およびCl-による陰イオン性のリーク電流の存在も報告されている.GABAトランスポーターおよびグリシントランスポーターはうつ病,睡眠障害,筋肉痙縮,痛み,てんかん等の神経疾患と深く関わっていることが知られている.特にGABAトランスポーターの阻害薬は抗痙攣薬として治療に用いられ,GLYT1の阻害薬は向知性薬の候補,GLYT2の阻害薬は筋肉弛緩薬,痙性やてんかん時の筋肉収縮を抑制する治療薬になる可能性が示唆されている.

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© 2006 公益社団法人 日本薬理学会
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