日本薬理学雑誌
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治療薬シリーズ(2)慢性閉塞性肺疾患
慢性閉塞性肺疾患治療薬の基礎
高山 喜好
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2006 年 127 巻 4 号 p. 304-307

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抄録

COPDは末梢気道炎症,肺気腫または両者の併発により惹起される閉塞性換気障害をともなう疾患である.禁煙とともに,炎症状態の改善が原因療法となりうることが示唆され,慢性安定期の管理薬として,炎症をコントロールし病態の進行を止めるような医薬品が期待されている.近年,COPDの肺組織破壊に関わる分子機構が明らかにされ,プロテアーゼ阻害薬や細胞浸潤に関連する受容体拮抗薬などのあらたな分子標的薬の開発が進められている.また,病態解明や医薬品開発において重要なCOPDを再現できる小動物モデルが確立されつつある.今後の医薬品開発においては,短期的な肺機能の指標(FEV1:1秒量)に代わる,サロゲートバイオマーカー探索についての検討が必要といえる.本稿では,医薬品開発に有用なCOPDに関する基礎研究について紹介する.  慢性閉塞性肺疾患(Chronic Obstructive Pulmonary Disease:COPD)は末梢気道炎症,肺気腫または両者の併発により惹起される閉塞性換気障害を特徴とする疾患である.中高年以上に発症が多く見られ,非常に経過の長い,予後が悪い疾患である.最近確立した,COPDの国際的な治療指針GOLD(Global Initiative for Chronic Obstructive Lung Disease)では,“COPDは完全に可逆的ではない気流制限を特徴とする疾患である.この気流制限は進行性で,有害な粒子またはガス(喫煙,大気汚染など)に対する異常な炎症反応と関連している”と定義され,禁煙指導とともに,炎症状態の改善が原因療法となりうることを示している.近年,日本においてもCOPDへの関心が高まり,GOLD基準に基づいた本格的疫学調査が実施された(1).潜在的な患者数は530万人以上と推定された.そこから算出されるCOPDに対する医療費は年間8055億円になると試算された(2).加齢にともない発症率が増加することから,今後の超高齢化社会を考えると治療法の確立が急務であるといえる.  現状の薬物療法としてはCOPD患者の息切れ等の自覚症状を改善する目的で,気道拡張薬(抗コリン薬,β2受容体作動薬など)が広く臨床的に利用され,患者のQOL改善に効果を示している(詳細は308~311頁を参照).長時間作用型抗コリン薬(臭化チオトロピウム)による,COPD全般の進行抑制に関する市販後の長期臨床試験が開始されているものの,現時点ではこれらの薬物が持続的炎症反応を軽減し,特に肺気腫症状を改善する効果があるかについては明確にはなっていない.今後求められる治療薬としては,慢性安定期における管理薬であり,COPDの根底にある慢性炎症をコントロールし,病態の進行を止めるようなものが期待されている.EUROSCOPE(3),Copenhagen Study(4),ISOLDE(5),Lung Health Study(6)といった大規模臨床研究結果からは,抗炎症薬とし有効なステロイド薬(ブデソニド,フルチカゾン)の有用性について確認できず,その使用もCOPDの急性増悪期に限定されている.近年,COPDの肺組織破壊に関わるプロテアーゼや肺組織での炎症を増悪する分子機構が明らかにされたり,COPD病態における網羅的な遺伝子発現プロファイリングが行われている(7,8).これらの情報を基に,プロテアーゼ阻害薬や細胞浸潤に関連する受容体拮抗薬などのあらたな分子標的薬をCOPDへ適応すべく開発が進められている.ここでは,医薬品開発に有用なCOPDに関する基礎研究について紹介する.

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