日本薬理学雑誌
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受賞者講演
細胞内カルシウムシグナリングの可視化
廣瀬 謙造
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2006 年 127 巻 5 号 p. 362-367

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抄録

細胞内カルシウムは,筋収縮,神経伝達物質放出,シナプス可塑性,発生分化,免疫といった様々な生理機能の制御において重要な役割を果たす.その細胞内動態は,蛍光プローブを用いたイメージングにより解析されており,時間,空間的に特徴的なパターンを持つことが示されている.特徴的な時間的パターンとしてカルシウム振動が挙げられる.これはカルシウム濃度上昇が間欠的かつ律動的に起こる現象である.また,空間的パターンとして,カルシウム濃度上昇が細胞内あるいは細胞間を波状に広がるカルシウム波と呼ばれる現象が知られるようになった.ここで,2つの問題が存在する.ひとつは,どのような機構でこのような複雑な時間空間パターンが形成されるのかという問題であり,もう一つは,そのようなパターンが下流のシグナル分子によってどのように解釈されるのかという問題である.我々は,カルシウムの上流・下流にある分子の動態をイメージングすることがこの問題を解くうえで有効であると考えた.これまでに上流分子についてはカルシウムストアからのカルシウム放出を制御するIP3のイメージング法を開発した.その結果,IP3もカルシウム同様複雑な細胞内動態を示すこと,さらに,カルシウムとIP3には相互フィードバック的な制御が存在することを見出した.また,小脳プルキンエ細胞内のIP3動態を解析し,AMPA型受容体の下流においてIP3が産生される新しい経路が発見された.カルシウムの下流にある分子としては,転写因子であるNFATの細胞内動態を可視化し,カルシウム濃度上昇によってNFATが核内に移行する時間経過を詳細に解析することに成功している.この解析によって,カルシウム振動が効率的にNFATの移行を起こすことを明らかにした.以上のように,イメージングはカルシウムシグナルの時間空間的側面を解析することに有用である.

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© 2006 公益社団法人 日本薬理学会
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