日本薬理学雑誌
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特集:副作用の薬理
薬物による腎機能障害の病態と発症機序
玄番 宗一
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2006 年 127 巻 6 号 p. 433-440

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抄録

ネフロンは,1個の腎臓に約100万個存在し,毛細血管系との共存下で尿の生成における最小単位として機能する.ネフロンは,糸球体とボーマン嚢およびそれにつながる尿細管からなる.尿細管は,近位尿細管,ヘンレ係締,遠位尿細管や集合管などの多くの分節からなリ,各々が異なる特性をもつため,薬物によって障害部位と病態に特徴がみられる.腎臓は,尿生成を通じて,代謝産物および薬物などの異物を排泄し,細胞をとりまく内部環境(血漿や組織間液)の恒常性を維持する.レニンやプロスタグランジン類を産生することにより血圧の調節などに関わるとともに,ビタミンD3活性化やエリスロポエチンの産生も担う.薬物による腎機能障害は,内部環境の恒常性維持などにしばしば重大な支障をきたし,生命を脅かすことになる.腎臓において,その構造や機能の特性により,薬物は有害作用発現に必要な濃度に達しやすいことなどのため,副作用を生じやすいところといえる.薬物治療に際して,薬物性腎障害を早期に発見するためには,できるだけ鋭敏な臨床指標が望まれる.薬物性腎障害の防御や軽減のために,その障害の発症機序についての解明が必要である.シスプラチン,アミノグリコシド系抗生物質,シクロスポリンや造影剤などによる腎障害には,活性酸素のようなフリーラジカルや細胞内カルシウム濃度などの因子が関与すると考えられている.薬物性腎機能障害への細胞内シグナル伝達分子や転写因子の関与についての研究も進められており,その障害像の分子機序の解明に新たな進展をもたらすことが期待される.

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