日本薬理学雑誌
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総説
冬眠研究が拓く新たな生物医学領域
―冬眠を制御するシステム―
近藤 宣昭
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2006 年 127 巻 2 号 p. 97-102

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抄録

哺乳類の冬眠動物が冬眠時期に数℃という極度の低体温を生き抜くことは良く知られている.さらに,細菌や発ガン物質などにも抵抗性を持ち,脳や心臓では低温や低酸素,低グルコースにも耐性を示すとの興味深い報告もなされている.このことから,冬眠現象には種々の有害要因や因子から生体を保護する機構が関与しているとの指摘がなされ,最近,生物医学分野での関心が高まりつつある.特に,冬眠発現に関わる体内因子には古くから強い関心が寄せられ探索されてきたが成功せず,近年その存在も疑問視されてきた.これには,冬眠が複雑な生体機能の統合による現象であることや,その発現が1年の長い周期性を持つこと,体温低下により生体反応が著しく抑制されることなど,実験の障害となる深刻な問題が関わっていた.その様な状況下で,我々は1980年代初期に始めた心臓研究を切っ掛けに,冬眠にカップルする新たな因子をシマリスの血中から発見した.冬眠特異的タンパク質(HP)と命名した複合体は,冬眠時期を決定する年周リズムにより制御され,血中から脳内へと輸送されて冬眠制御に深く関わることが明らかになってきた.ここでは,冬眠研究の現状や問題点を含めて,我々が見出したHP複合体が初めての冬眠ホルモンとして同定されるまでの経緯を概説し,医薬分野での新たな応用を秘めた冬眠現象について述べる.

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© 2006 公益社団法人 日本薬理学会
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