日本薬理学雑誌
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特集:ストレスから精神疾患に迫る―ストレスが脳を変える―
脳の発達障害としての統合失調症
西川 徹
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2006 年 128 巻 1 号 p. 13-18

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抄録

統合失調症の発症に,遺伝的要因や胎生期や周産期の環境的要因によって,神経細胞や神経回路網の発達障害が生ずることが関与している可能性が注目され,ニューロン,グリアおよび神経回路・シナプス形成等の発達に重要な役割を果たす因子の変化と統合失調症の関連が検討されているが,未だ不明な点が多い.一方,統合失調症は神経変性疾患とは異なり,脳細胞の明らかな変性・脱落,炎症等を伴わないことから,未知の作動原理に従う脳内システムや病的過程の存在を念頭においた病因・病態へのアプローチが必要な可能性がある.そこで筆者らは,1)統合失調症は思春期以降に発症するが,ドパミン作動薬,NMDA型グルタミン酸受容体遮断薬等の統合失調症様異常発現薬が精神機能に及ぼす影響も発達に伴って変化し,小児期までは精神病状態を誘発しにくい,2)実験動物では,陽性症状の再燃モデルと言われる覚せい剤その他のドパミン作動薬が誘導する逆耐性現象が,一定の発達段階以降に成立し,フェンサイクリジン(PCP)をはじめとするNMDA受容体遮断薬投与後に出現する異常行動も幼若期と成熟期では明らかな差異が認められる,等の発達依存的現象に着目し,統合失調症の分子機構へのアプローチを試みている.すなわち,統合失調症の発症や再燃に関与する新たな候補遺伝子として,覚せい剤またはPCPを投与した各発達段階のラットにおいて生後発達に伴って反応性が著しく変化する脳部位で,一定の発達段階以降にこれら薬物によって発現異常が生じる遺伝子群を探索した.幼若期と成熟期を比較すると,少なくとも大脳新皮質で双方の統合失調症様異常発現薬に対する反応性に著明な差が認められることを見出した.さらに,大脳新皮質から,それぞれの薬物に発達依存的応答性を示す複数の遺伝子を検出し,構造,局在,薬理学的特性,コードタンパク等を解析することにより,統合失調症モデルにおける意義を検討した.

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