日本薬理学雑誌
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特集:パスウェイ解析からネットワーク解析へ
糖尿病とメタボリックシンドローム
山内 敏正門脇 孝
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2006 年 128 巻 3 号 p. 133-140

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抄録

肥満・糖尿病・高血圧・高脂血症が重複する所謂メタボリックシンドロームは,我が国の死因の第一位を占める心血管疾患(心筋梗塞,脳梗塞等)の最大の原因となっている.この根本的病態は肥満による脂肪細胞肥大とそれに伴うインスリン抵抗性と考えられ,その原因の解明とそれに立脚した根本的な予防や治療法の確立が極めて重要である.先ず,欠損マウスを用いた解析により,転写因子PPAR(peroxisome proliferator-activated receptor)γとその共役因子であるCBP(CREB binding protein)が,高脂肪食による肥満・脂肪細胞肥大化・インスリン抵抗性の原因となっていることを示した.そしてPPARγ活性の部分的阻害薬が,抗肥満・抗糖尿病薬となりうることを示した.次に,脂肪萎縮・肥満では脂肪細胞から分泌されるアディポネクチンが低下し,糖尿病・メタボリックシンドロームの原因となっており,その補充がAMPキナーゼとPPARαの活性化などを介し,これらの効果的な治療手段となることを明らかにした.また,動脈硬化のモデルであるapoE欠損マウスに,アディポネクチンをtransgeneとして発現させることにより,脂質蓄積の低減と抗炎症作用などにより,動脈硬化巣の形成が約60%に抑制されていることを見出した.そして特異的結合を指標にした発現クローニング法により,アディポネクチン受容体(AdipoR)1とAdipoR2の同定に世界で初めて成功した.siRNAを用いた実験などにより,AdipoR1とR2はそれぞれ,骨格筋に強く作用するC末側のglobular領域のアデイポネクチンおよび肝臓に強く作用する全長アデイポネクチンの受容体であり,AMPキナーゼ,およびPPARαの活性化などを介し,脂肪酸燃焼や糖取込み促進作用を伝達していることを示した.さらに肥満・2型糖尿病のモデルマウスの骨格筋・脂肪組織においては,AdipoR1・R2の発現量が低下し,アディポネクチン感受性の低下が存在することを示した.AdipoR1・R2の遺伝子欠損マウスが実際にインスリン抵抗性・耐糖能障害を示すこと,逆に肥満・2型糖尿病のモデルマウスにおいてAdipoR1・R2の発現量を増加させることによって,これらが改善されることを示している.最後に臨床応用を試みた.高活性型の高分子量アディポネクチンの測定法を共同で開発し,メタボリックシンドロームの診断法として有用であることを見出した.治療法としては,同定したアディポネクチン受容体の作動薬や増加薬の開発が,糖尿病・メタボリックシンドローム・動脈硬化症の根本的な治療法開発の道を切り開くものと強く期待される.PPARγ活性化薬が高活性型高分子量アディポネクチンを,PPARα活性化薬がアディポネクチン受容体を増加させることを,さらに野菜・果物に含まれるオスモチンがアディポネクチン受容体の作動薬となり得る事を見出している.

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